スノーピーク(SNOW PEAK)は、アパレル事業でコットン製品を循環させる新たな取り組み“アップサイクル コットン プロジェクト”を2021-22年秋冬シーズンにスタートし、第1弾としてジーンズを発売した。シルエットはレギュラーとスリムの2型で、インディゴとブラックの2種類。価格は税込1万9800円で、サイズはメンズがM〜XXL、ウィメンズがXSとSをそろえる。
同プロジェクトは“使い捨てではなく循環する洋服を”という考えのもと、タキヒヨーとタッグを組んで循環システム“ノーウエイスト(NO WASTE)”を採用。同システムはアパレル生産時の生地の裁断くずを粉砕して繊維に戻し、再び糸や生地に再生する仕組みで、“アップサイクル コットン プロジェクト”ではスノーピークの店舗に設置するボックスで回収したコットン製品を商品に再生する。コットン製であれば他社製品でも回収を受け付ける。スノーピークは企業全体で環境に配慮した取り組みに積極的で、アパレルでは2014年の事業立ち上げ当初から現社長の山井梨沙が中心となってさまざまなアクションを起こしてきた。19年に立ち上げた日本環境設計との再生ポリエステルやリサイクルダウンのプロジェクトに続き、いよいよアパレルで最も身近な素材であるコットンの循環に挑む。アパレルのキーマン2人に、その背景や思いを聞いた。
スノーピークが届けたい“当たり前”
WWD:“アップサイクル コットン プロジェクト”立ち上げの経緯は?
坂田智大エグゼクティブクリエイター(以下、坂田):日常からキャンプまで、老若男女が一番使っている素材がコットンだ。「スノーピーク アパレル」にとっても、コットンは毎シーズン糸から選ぶほど大事な素材。自然との距離感が近いスノーピークらしいコットンって何だろうと改めて考えたときに、リサイクルや循環という答えにたどり着いた。アイテムを製造するだけではなく、循環する流れも作りたかった。
清水友香里マネジャー(以下、清水):アパレル事業の立ち上げ当初から、オーガニックコットンの使用や環境負荷を考慮したはっ水溶剤を使うなど、自然環境への取り組みは常に意識してきた。2019年には日本環境設計と組み、不要になった服やテントをポリエステルに再生してホールガーメントのニットウエアを作る“ブリング(BRING)”も始めた。ただ、私たちにとって環境に配慮することが当たり前すぎて、世間にその思いを伝えきれていなかった。だから今回のコットンを循環させる取り組みでは、自然の大切さや私たちの考えを積極的に伝えるためプロジェクトとして発信していく。
WWD:タキヒヨーとの協業を決めた理由は?
坂田:タキヒヨーが、グアテマラでファストファッションブランドがデニムを安価で生産する際の落ち綿を反毛し、糸に戻して素材にする“ザ・ニューデニムプロジェクト(THE NEW DENIM PROJECT)”を行っていた。それをコットンでやりましょうと協力を依頼し、タキヒヨーの循環システム“ノーウエイスト”で実施することになった。同社は250年以上続く繊維商社で、生地に対する知識や技術、ノウハウを持っており、イメージの共有がしやすいのも決め手だった。スノーピークがアイテムを企画し、タキヒヨーに生地から製造までを一貫して担う仕組みだ。
WWD:第1弾のアイテムはなぜジーンズに?
清水:デニムは素材として耐久性があり、スノーピークの顧客であるアウトドア層にもなじみがある。それに、老若男女を問わず着用できるアイテムでもある。デザインはシンプルにし、シルエットはレギュラーとスリムを用意して幅広い客層に届けることを意識した。プロジェクトを浸透させるには、まずは商品がたくさんの人の手に渡らないといけないので、アイテムやシルエット、価格設定にもこだわった。
坂田:リサイクル素材や循環システムは、各工程にどうしても人の手が加わるので価格が高騰しがちだ。でも上代も含めて日常に溶け込むアイテムじゃないと、アップサイクルというつじつまも合わなくなる。タキヒヨーと工場の協力もあって、この価格が実現できた。
WWD:特にこだわった点は?
坂田:生地のストーリーを大切にしたかった。例えば、誰が何年前に使ったのか分からない、ある意味で粗野な糸を価値として捉え、ネップ感がある雰囲気のいいデニムとして生まれ変わらせたかった。ムードはもちろん、リサイクルしたコットンなので肌なじみがいいし、8番手の太い糸を使っているので色落ちがきれいに出る。履き込んでいくうちに手織りの生地のような柔らかさになるのも、この原料ならでは。グアテマラで糸を作り、岡山でロープ染色と織りの工程を経ており、排水に関してはこれから詰めていく段階ではあるものの、現段階では満足のいく生地に仕上がった。
トラブル続きでも諦めない社風
WWD:プロジェクトに期待していることは?
清水:環境に対してはもちろん、スノーピークの店頭でコットン製品を回収することに意味がある。スタッフがお客さまにプロジェクトの思いを直接話せるのが大きい。これまで私たちと接点がなかった方々が、不要なコットン製品を持って来店し、スノーピークを感じてもらったり、コミュニティーが広がるきっかけになったりするかもしれない。
坂田:回収したコットン製品を粉砕するまでに、付属する金属を仕分けする作業が必要で、これを身障者の福祉施設に仕事として依頼する。このようにさまざまな観点から持続可能な取り組みとして継続していきたい。
WWD:“ブリング”でも店頭でテントや服を回収しているが、成果は?
坂田:回収は上手くいっているが、ポリエステルはコットンよりも膨大な量を回収しないと自社回収分の再生ポリエステルのみで製品化するのが難しかった。だから“ブリング”では、僕たちが回収したポリエステルも一部しか使えていないのが現状だ。それに自社で完結する難しさも分かった。新潟の本社にホールガーメントの機会を1台導入して再生ポリエステルの製品を製造しているものの、1日に生産できるのは8着のみ。糸も撚糸から工夫する必要があるので、試行錯誤を繰り返している。ほかにもやってみて分かるトラブルが多い。
清水:それでも続けるのがスノーピークのいいところ(笑)。山井社長の性格でもあるが、例え市場への供給量が少なかったとしても諦めずにやり続けて新しい発見につなげていく。“アップサイクル コットン プロジェクト”も定番として今後も継続し、22年春夏にはTシャツやスエットも登場するので、どこかのタイミングで自社のみで全てが循環する仕組みにしたい。
坂田:コットンは回収量に対してどれぐらい製品化したのか可視化しやすいし、原料から顧客と一緒に作っていく仕組みも楽しいはず。第1弾のジーンズは総生産量1000本に対し、コットン製品を2.7トン回収する必要があった。最初はグアテマラの糸も使ったが、将来的には自社回収分の原料のみで生産したい。
WWD:社内全体で環境への取り組みを進める中で、アパレル事業で達成したい目標は?
清水:社員全員がまず言葉で説明できる状態にしなければいけない。先ほど言った通り、スノーピークのアパレル事業にとっては環境に配慮したもの作りが当たり前の感覚だったが、世間にとっては当たり前じゃなかった。だから、これまでの私たちの取り組みを伝えきれていなかった。社員もお客さまにも自分ごと化してもらうために、発信していくことが大事だと思っている。