「パタゴニア」が渋谷店1階に開いた新品を売らないポップアップストアが注目を集めている。このポップアップストアは「パタゴニア」製品を長く使用するためのプラットフォーム“ウォーン ウエア”を体現するもので、製品の修理のデモストレーションを行ったり、中古品を修繕して再販売したりするもの。パタゴニアはこれまで“プロダクト・サーキュラリティ(製品の循環性)”が重要と考え、製品全ての寿命をのばすことを目標にしてきた。また、「サステナブルな製品はアパレル産業においてはありえない。そのためサステナブルカンパニーではなくレスポンシブルカンパニーであろう」として事業を行ってきた。製品の修理は1970年代から、“ウォーン ウエア”プログラムは2013年に米国で本格的に始動し、中古品はこれまで30万枚以上を販売している。中古品の販売を米国以外で行うのは今回が初めてだ。マーティ・ポンフレー(Marty Pomphrey)日本支社長にその経緯と日本での展望を聞く。
WWD:日本で“ウォーン ウエア”のポップアップストアを開くに至った理由を教えてほしい。
マーティ・ポンフレー日本支社長(以下、ポンフレー):もっと早い段階で行いたいと考えていたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって予定よりも実現までに時間がかかってしまった。われわれの“サーキュラリティ(循環)”戦略で非常に重要な一部を占めている。
前提としてアパレル産業は環境によくないし、アパレル企業がサステナブルであることはあり得ない。われわれには、アパレル企業として責任を負っていこうという考え方がある。ある報告書によると、アパレル産業が排出する温室効果ガスは全排気量の10%を占めると推定されている。日本国内に目を向けると、日本で購入されたアパレル製品の66%が焼却されたり、埋め立てられたりする運命にあるという数字がある。アパレル産業の作って売って買って捨てるというリニア(線形)型のモデルはうまくいかないのは明らかだ。これからは、循環型モデルのビジネスしかあり得ない。“ウォーン ウエア”は“循環型”戦略の一部だ。われわれは製品の寿命を長くして、寿命が来たものに関してはリサイクルするなり責任ある形で処分したいと考えている。
WWD:初めてのポップアップストアを渋谷店に開いた。
ポンフレー:渋谷には若いカスタマーベースがある。“ウォーン ウエア”は古着なので(古着屋が多く点在する渋谷・原宿エリアでは)アピールすることができるし、若い人でも買える価格帯でもある。新しいカスタマーに「パタゴニア」を紹介するに適切な場所だと考えた。また、渋谷店はパタゴニアの店舗の中でも大きい方で、リペアする設備があるし、正しい形で“ウォーン ウエア”を紹介できる。
WWD:ポップアップストアを開いてみての反響を教えてほしい。
ポンフレー:圧倒的にポジティブな反応だ。8月20~22日の最初の3日間は予定の3倍の売り上げで、1カ月間このプログラムを維持するためにどれだけ在庫が必要かと考えるほどだった。さらに古着を投入していきたい。
この1カ月間は学びの期間だと考えている。どのようなモデルで“ウォーン ウエア”を広げていくのがいいか、どれくらいの需要があるのかを見極めたい。このビジネスを成功させ、将来的には“ウォーン ウエア”のオンリーストアを作りたいと考えている。
WWD:現在、世界を見渡しても“ウォーン ウエア”の単独店はない。新品が並ばないストア開発に力を入れていくのか。
ポンフレー:ストア開発は初期段階にある。小規模なビジネスだ。日本はリセールのチャンスが大きいと感じている。売り上げという意味ではなく、ブランドにとって大きなチャンスになるのではないかと感じている。現在日本には2つのリペアセンターがあり、55人の技術のあるスタッフがいる。日本は品質の高い商品の需要が多い。高い技術を提供する場は限られていると思うので、古着の販売ほどではないが、リペアも日本市場では大きなチャンスだと考えている。
WWD:ダメージがひどくて中古として販売できない製品の場合、捨てるのではなく複数のダメージの大きい製品を使って、新しい衣類に作り替えた“リクラフテッド”の販売を日本で行う予定はあるのか。
ポンフレー:今戦略を練っているところだ。
WWD:“リクラフテッド”は修繕技術だけではなくデザイン性も問われる。
ポンフレー:米国ではアイコニックな製品を担当している社内デザイナーがLAにいる優れた職人とコラボレーションしてLAで生産している。“リクラフテッド”も“サーキュラリティ”ストーリーの一部だ。“リクラフテッド”は衣類だけではなく、使われているファブリックの寿命を最大限に延ばすという考え方に基づいている。
WWD:日本で“リクラフテッド”を導入する場合、どのような人材がデザインを担当するのか。
ポンフレー:日本はクラフトマンシップが優れているし、そうした考え方も浸透している。リペアセンターのスタッフのスキルを考えても“リクラフテッド”はマッチングするのではないかと考えている。リペアセンターではすでに自分の服を持ってきてアップサイクルしているスタッフもいる。
今、考えているのは、リペアセンターをサーキュラリティセンターのようなものに変えていきたいということ。全ての製品をリペアするのではなく、技術力が問われるようなもののみを行い、カスタマーに修理方法を伝えてカスタマー自身が修理できるようにしたいと考えている。パタゴニア以外のリペアのコミュニティーとパートナーシップを組み、リペアしてもらうことも考えている。パタゴニアの才能あるリペアスタッフは、より技術力が問われるものに焦点を当てて作業することができるし、そうすることによってカスタマーに付加価値を提供できるのではないかと考えている。長期的にはそういうものにしたいと考えている。
WWD:パタゴニアは創業時からフォロワー作りが上手でそういったファンたちとコミュニティーを形成して新しいカルチャーを創出してきた。
ポンフレー:マーケティング、マーケッターという言葉は好きではない。「パタゴニア」はストーリーテラーだと思っている。ストーリーを伝えることで人々の感情に訴え、訴えたことが私たちのミッションステートメントの実現につながる行動を起こしてほしいと考えている。このストーリーを伝えることによって“サーキュラリティ”ビジネスにハイライトを当てる。リペアサービスはコストと時間がかかるが、そうしたサービスを提供していることを知ってもらい、われわれはただ単に新品を売るだけの企業ではなく、リペアサービスを提供していることを訴求したい。
WWD:パタゴニアはブランドの考え方を理解している顧客が非常に多いが、それでも買って必要なくなったら捨てる、といった顧客も一定数いるとも思う。“サーキュラリティ”実現には、顧客の協力なくしては不可能だ。
ポンフレー:まず必要なのはビジネスモデルに“買って捨てる”メンタリティーを変えることが含まれていなければならない。カスタマーには使わなくなったら店舗に持ってきてほしいと伝えること。われわれは製品寿命を延ばして、捨てられることは避けたい。カスタマーには繰り返し伝えていきたい。カスタマーは考えることも多いだろうし、たくさんの情報も入ってくる。時に注意力がそがれることもあるし、混乱することもあるだろう。私たちは一貫して明確なメッセージを伝えていきたい。
これが“レスポンシブルカンパニー”としての歴史を持つ企業であり、自信を持って製品を提供し、“サーキュラリティ”ビジネスを行っているわれわれがやるべきことだと考えている。われわれが求める“サーキュラリティ”ビジネスは他社にも参加してほしいと考えている。パタゴニアは小さな企業なので、大企業と手を組み、大企業とともに地球を救うために活動していきたい。