「ヨシオクボ(YOSHIO KUBO)」は、2022年春夏コレクションを東京・中目黒の本社で発表した。東京のファッション・ウイークへの参加は5年ぶり。コロナ禍で厳重体制のなか、小規模な会場でより多くの人に見てもらうため、ショーは計3回に分けて行われた。招待状には、約150人の招待客それぞれに久保嘉男デザイナーのメッセージムービーが添えられた。全て撮り終えるのに10時間は掛かったという。会場に足を運んだ招待客は、笑顔で待つ「ヨシオクボ」ファミリーに迎えられながら席に着いた。
ファッションショーは服を売るため
本番前のバックステージは、久保デザイナーの明るいキャラクターもあり、終始和やかなムードだった。一日にリアルショーを3回も行い、会場スタッフやモデルたちは疲れているだろうと想像していたが、久しぶりのリアルショーを楽しんでいる姿が見られた。3シーズンぶりとなるリアルショーの本番前でも、久保デザイナーはいつも通りノリのいい関西弁で表情は明るく、ベテランデザイナーの余裕がうかがえた。「まだまだデジタルでは伝えられない部分があるから、ファッションショーは続くんじゃないかな。ファッションショーはオリンピックや競技の臨場感に近い。もしかしたらモデルがコケるハプニングが起きるかもしれないし、リアルでしか見られない何かを求める以上はなくならない。素材の質感や色はもちろん、一番は来場者が自分の好きな角度で服を見られるところ。広い会場で派手に着飾るよりも、服を近くで見られる方がいいし、ショーはもともと服を売るためにやるもの。そこを勘違いしがち」。自分のクリエイションを見せて満足するのではなく、その先のビジネスに向き合う経営者としての一面があるから、ブランドを18年間継続してきたのだろう。
“唯一無二の存在”を追い求める姿
コレクションは僧兵を意味する“ウォーリアー・モンク”をテーマに、日本のミリタリーに近年のリラックスムードや機能性をプラスして独自に再解釈した。相手を威かくするためのオーバーサイズや顔まで覆うフード付きブルゾンのほか、僧兵が昔、奈良の山寺でしていた将棋のグラフィックや竹をカモフラージュ柄に見立てたセットアップ、久保デザイナーが得意とする左右にツイストさせたジャケットや、4つの素材を切り替えたトラックパンツも登場。中でも目を引いたのが、妖怪の“般若”や“天狗”、マルや三角形の“笠”のヘッドピースの数々。これらはヘアメイクアーティストの奥平正芳が手掛けたという。「早いものは3時間ほどで完成します」。その再現度の高さと製作スピードには驚きを隠せなかった。またショーの音楽はDJのLicaxxxが、スタイリングは三田真一が担当し、モデルには大平修蔵らを起用し、全16人32ルックを発表した。「ヨシオクボ」は、20年春夏コレクションから“和”をテーマにしたコレクションを発表している。「日本人は、よくアメリカのミリタリーアイテムを着ているけど、日本のミリタリーのことはみんな知らない。僕も日本の文化で知らないことっていっぱいある。だから図書館に1週間通って、朝から夕方まで資料を読み込んだ。インターネットに載っている情報はバレるし使わない。特にインフルエンサーブランドは、インスタグラムで情報が止まっているから、同じような服で溢れかえっている。それはファッション業界のためにも絶対に良くないし、僕はやったらいけないと思う」。その言葉からは、「ヨシオクボ」の信念である“唯一無二の存在”を常に追う姿が垣間見えた。単に“バズる”“流行に乗る”だけが全てではなく、プロのデザイナーとしての覚悟とコレクションに対する熱量の高さを強く感じた。
最後は二児の父親としての一面も見せた。「次女が僕のファッションショーを生で見たことがなかったから、今日は連れてきた」。デザイナー歴18年目を迎え、ベテランの域に達してきた47歳は愛娘のために、そして「ヨシオクボ」スタッフのためにこれからも“カッコいいパパ”“憧れのデザイナー・社長”として、第一線を走り続けてほしい。