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オリラジ中田敦彦に聞く 原価率65%のサステナブル・アパレルブランド「カール・フォン・リンネ」の本気度

 オリエンタルラジオの中田敦彦は8月8日、アパレルブランド「カール・フォン・リンネ (CARL VON LINNE)」を自身のユーチューブ「中田敦彦のYouTube大学」で発表した。動画内ではアパレルの廃棄問題や低賃金問題を解説。植物学者の名を冠した同ブランドについては村松啓市をデザイナーに迎え「未来のために、知性の上に着る」をコンセプトに設計し、作り手の顔が見える国内生産とサステナブルな素材使いが特徴であると語った。シャツ、Tシャツ、パーカー、ニットセーター、コートの5型の原価率は驚きの65%。予約販売は一晩で完売したときく。なぜ中田氏がサステナブル・アパレルなのか?その真意を聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD ):「カール・フォン・リンネ」を立ち上げた経緯を教えて下さい。

中田敦彦「カール・フォン・リンネ」オーナー(以下、中田):実は当初はサステナブルなアパレルは想定していませんでした。以前「幸福洗脳」というブランドを販売しており、その経験を踏まえて今度は“ちゃんとした服を作りたい”と考えたのが先です。

WWD:「幸福洗脳」は “「シュプリーム(SUPREME)」はなぜ売れるの?”と疑問を抱いた中田さんがその解を探して2018年に立ち上げたブランドですね。「幸福洗脳」のボックスロゴTシャツなど、攻めたデザインでした。それに対する“ちゃんとした服”とは?

中田:多くの人が着やすいデザイン、買いやすい価格の服、といった意味です。当初は価格とデザインのことしか考えていませんでした。その「カール・フォン・リンネ」にサステナブルの魂を入れたのはデザイナーの村松さんです。「幸福洗脳」で村松さんに作っていただいたニットのクオリティーの高さを覚えていたので、今回も依頼したところ「中田さんにはアパレル業界のサステナビリティの問題に挑戦してほしい」と逆提案を受けた。今年の5月の話です。

WWD:村松さんはなぜそのような提案を?

村松啓市「カール・フォン・リンネ」デザイナー(以下、村松):何かを作って世の中や購入者に届けるとき、今はやはりサステナビリティが非常に大切です。僕も長らくサステナブル・アパレルの活動を続けてきたけれど、多くのジレンマがあり、なかなかうまくいかない。中田さんとなら新しいことに挑戦できると思いました。

WWD:挑戦とは?

村松:アパレルの構造、システム自体への挑戦です。購入者が商品だけではなく、手に届くまでの構造自体を一緒に作り上げることを楽しむブランドです。オファーをもらってから1カ月考えて中田さんにぶつけました。

WWD:中田さんはどう受け止めた?

中田:主催する「中田敦彦のYouTube大学」を通じてこれまで気候変動問題や電気自動車、工業的な畜産業との関係などサステナビリティについてはいろいろ勉強してきました。欧米ではサステナビリティに取り組まない企業は淘汰されている。自動車産業で言えばガソリン車の法規制など外圧も多い。これからは従来の資本主義の原理だけではなく、サステナビリティ抜きには企業は投資を得られない。要するにサステナブルではない企業はどれだけいいものを作ってもゲームから退場せざるを得ない未来が見えている。だからサステナブル×アパレルビジネスの挑戦はおもしろそうだな、と単純に思いました。

WWD:おもしろい、の意味をかみ砕くと?

中田:この流れは数年遅れで必ず日本にもくる。だから挑戦してみたいと思ったんです。僕の肌感では今の日本にはサステナブル×アパレルの気配がまだありません。もちろん頑張っている方はいると思いますが僕に届いていないのだから、一般にはほとんど知られていないはず。アパレルに限らず日本の9割の人はSDGsや気候変動にピンときておらず、「一部のインテリが言っているだけ」と受け止めていると思う。僕はファッション感度は高くないけど発信力はあるから。村松さんのアイデアを翻訳し伝えられると思ったんです。

WWD:中田さんは「実験」という言葉をよく使いますが、サステナビリティの取り組みも「地球のため」というより、一つの「実験」でしょうか。

中田:志が高いのは村松さんであり、僕は発信力を生かしてサステナブルというカルチャーそのものを輸入するゲームや実験ができると考えました。ゲーム感覚というと、「サイコパス野郎が、遊び感覚でやっている」印象を与えるかもしれませんが、僕は気候変動に関しても、わが事としてとらえているんですよ。数年前では考えられなかった規模の水害などから気候変動の影響を肌感で受け止め「このままでは地球はマズイ、自分も何かやりたい」とは思う。かといって元グーグルCEOのラリー・ペイジ(Larry Page)やフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)みたいに世界を動かせるかといえば、そこまでは勘違いしない。

中田が世界を変える、のではなく、中田は世界を変えるパーツのひとつ、です。音楽で言えば「ヒップホップってこういうものだよ」と日本に持ち込んだ人と、その後に出てきたラッパーは役割が違いますよね。わかりやすく“DA.YO.NE”から始まり、「今夜はブギー・バック」に進み、「メロディーと組み合わせると気持ちいいんだぜ」とわかってドラゴンアッシュ(Dragon Ash)の「グレイトフル・デイズ(Grateful Days)」となる。そこでジブラ(Zeebra)の「俺は東京生まれのヒップホップ育ち」を聴いて初めて、「ヒップホップはストリートのカルチャーなんだ」とわかりました。

コーヒーもしかりで文化は3段階ぐらいかけてじっくり伝わる。だとするとサステナブル1.0の今は「サステナブルって何だよ」「意味分かんねえ」って言われながらも誰かがまず発信することで「面白いじゃん」と少しでも伝わればいいかなと。僕は、ヒップホップで言うところの “DA.YO.NE”の立場。大騒ぎして知ってもらう役割はできる。門外漢の僕がアパレル業界に何か貢献を1ミリでもできたら、それは面白いゲームです。

服は新商品を出すこととサステナブルが相反関係にありますよね。そこもパーフェクトではなくベターを目指すべきでは?だって、原始時代に戻るわけにはいかない。人間は新しい服を着たいし、服で自分を表現したい。そういう生き物だし、そういう文化があるから、それを前に進めながらもサステナブルを目指すのが、現実的なサステナビリティだと思う。

WWD:このブランドを通じて成し遂げたいことは「サステナビリティを伝える、知らせる」ですね。

中田:あくまで僕は、ですよ。わあわあ言ったら、こうやって取材に来てくれるわけですからドミノの2つ目は倒れています。村松さんにはまた別の考えがあるでしょう。

アパレル業界から予想以上の好反応

WWD:村松さんへの反響はどうでしたか?

村松:僕は自分のブランドでサステナブルな活動を続けてきましたが、これまではすでにサステナブルにアンテナが立っている人にしか受け止めてもらえてこなかった。今回は中田さんを通じて、知ってもらえるきっかけができた。本当に反響が大きくて驚いています。価格を工夫したこともあり「メード・イン・ジャパンの服を初めて買った」というメッセージももらい嬉しかった。

意外だったのが、アパレル関係者からの好反応です。応援のメールが多く届きました。地球や社会環境に良くないことをしている自覚を持ちつつ動けていない人も多いようで、ユーチューブを見てハッとしたと。特に町工場の方たちとのプロジェクトへの応援メッセージは多かったです。工場からは「これまではいい物を作ってもそれを伝えることができなかった」と喜ばれています。

WWD:中田さんは反響を受けて思ったことは?

中田:僕、音楽業界でも門外漢で大騒ぎしたことが一度ありますが、ファッションと似ています。音楽をすごく好きな人は世の中の1割で、9割の人はスポティファイから流れてくる曲を何となく聴いている。今回はその9割の人に向けて話したつもりです。

だけど僕の想定よりも、服の買い方に対して選択肢のなさを感じていた人が多いとは思いました。極論すると全身「グッチ(GUCCI)」か「ユニクロ(UNIQLO)」かの2極化がすごい。だから6000円のカットソーを「鬼高い」、2万円のコートを「鬼安い」と、反響が乖離しています。「ユニクロ」のTシャツが安過ぎること、「グッチ」のTシャツが高過ぎることにもう一度目を向けて、「あれ、真ん中の選択肢はいつからなくなったんだっけ?」と議論が始まる手応えはありました。

WWD:「原価率65%」とのことですが、アパレルが本業なら65%で事業を成長させるのは難易度が高い。中田さんにとっては問題提起こそが第1目標だから儲け度外視でよい、のでしょうか。

中田:村松さんに丸投げしたら「中田さんが言う通りの、怖くない良質な服、サステナブルな服ができました」と鬼高い原価率の服があがってきた。それを僕のオンラインサロンのメンバーに見せたら全員が「高い」と白目をむいた。その反応を見て「いいものが高いことが今の日本では全く受け入れられないんだな」と実感しました。「ユニクロ」のクオリティーが1500円、2000円で買えることに慣れてしまっているから。

僕は「いい物は高いんだよ、当たり前だろ、誰が泣けばいいんだよ、工場か?生産者か?目を覚ませ」と言いたい。村松さんが笑い、工場の人が笑い、売ろうとしているお客さんを笑顔にするには経営者が笑わないしかないと知ったときに「ブランドをスケールしない」という答えが見えました。企業はより多くの顧客により多くの商品を売って、より多くの売り上げを得ようとする。株式会社であれば株主の利益を追求する。これが資本主義のルールですが、僕は上場していないし、お金はユーチューブで稼いでいる。ならば資本主義のルールを放棄する実験をすることに価値があると思いました。アンチ資本主義ですね。それをこの資本主義の権化みたいな男が手がける遊びです。

WWD:では「カール・フォン・リンネ」の未来は?

中田:売り上げではなく、その活動の知名度を高めたい。それは僕の信頼につながります。そして「この規模なら自分にもできる」と思った人が事業をスタートして第2、第3の「カール・フォン・リンネ」が生まれ、小規模かつコアファンを抱える企業が増えたらおもしろい。1社で「ユニクロ」に勝つ未来はないけど、1万人のファンを抱える1万社が1億の人口をカバーする未来だったらあり得る。

サステナビリティの取り組みとは

WWD:中田さんはデザインにはかかわらず、村松さんがすべて担当している?

村松:はい。「幅広い年齢層、性別や時代を問わず着てもらいやすいデザイン」という中田さんからの発注のもと私がデザインしています。どこでどのように作られている素材か、トレーサビリティに重きを置いて生地を選び、全アイテムのトワルを何度も丁寧に作り、品質とデザイン性の両方とも妥協せずに作っています。低コストで粗悪なもの、高品質だけど高価格のもの、高品質で適正価格だけどオシャレではないもの、低価格だけど作り手が低賃金のものなど「誰かの犠牲の上で誰かが泣く」のでなく、誰もが幸せに服を楽しめる未来へ世界を前進させたい。

WWD:トレーサビリティについて。たとえば工場の電力や水の使い方も把握をしているのでしょうか?

村松:自社の判断基準数値を持つわけではなく、あくまで工場からの申告制です。1着の服が完成するまでには多くの工程があり、多くの企業・物流を通ります。それらをすべてトレースすることは一部の大手商社の素材をのぞいてはほぼ不可能です。僕らメーカーも、工場もその仕組みをもっていない。であれば工場さんには正直に話してもらい、僕らはそれを動画などでそのまま消費者に伝えます。

WWD:取り組んだ工場を教えてください。

村松:敬称略でお伝えするとシャツは遠州織物の古山、染色はイワン、ニットは福島の木幡メリヤスと大阪の深喜毛織、コートは尾州の東伸、オーガニックコットンを使ったTシャツとパーカーはパノコトレーディングがそれぞれ生産しています。

WWD:生産工場名を明かすこと自体、アパレル業界ではまれです。

村松:どこで染めているか、どこで織っているかといった情報は生地の販売会社の手の内を明かすことなのでどこも言いたがりません。今回も「言いたくない」という会社が多かったけど長年信頼関係を築いている会社さんたちに無理言って門を開いてもらいました。

WWD:ここで言うリサイクルウールとは?

村松:廃棄されたウール製品やウールの繊維を作るときに出るくずを集めて再生したものです。デッドストックを使った製品は別にあります。

WWD:オンライン販売ですが、配送時に梱包など商品以外に取り組んでいるサステナビリティはありますか?

村松:梱包材についてはまだ対応していません。ひとつ、これは中田さんにもこの場で初めて話すのですが、僕がこれまで一緒に仕事をしてきた障がい者の方の就労支援活動との取り組みも検討しています。商品と環境に加えて、生産者も持続可能でありたく、正当な対価を支払う仕組みを作りたい。

ユーチューブの可能性はライブコマースにある

WWD:ユーチューブの可能性と課題について教えてください。

中田:可能性はライブコマースです。中国がまさに今、ライブコマースでとんでもないことになっています。大手企業がマスメディアに大金を払ってCM打ち盛り上げる空中戦ではなく、インフルエンサーそれぞれがライブコマースでそれぞれゲリラ戦みたいな形で莫大な売り上げを上げています。日本は浸透しておらず、まさにライブコマース1.0な状況。ユーチューブがもっとシームレスに商品販売まで直結できる進化をしてくれると可能性が広がると思います。

WWD:現在、ユーチューバーが得られる収益とは?

中田:広告収入とメンバーシップによるサブスクリプションに加えて投げ銭機能も強くなってきています。でも、動画上の商品をタップしたら購入ページにリンクするところまではいっておらず、「概要欄へどうぞ」となる。ここがシームレスになると大きい。時間の問題だとは思います。

WWD:ユーチューブ以外のメディア、プラットフォームで物販する可能性は?

中田:僕は、あらゆるプラットフォームで影響力を持つ人間は少ないと考えています。僕らもコンテンツです。コンテンツに最適なプラットフォームがあるとすると、僕は長くしゃべるユーチューブが一番向いていて、渡辺直美ちゃんはインスタグラム、有吉さんはテレビが向いているんだと思う。僕は完全にユーチューブ軍の人間として、“頑張れ、ユーチューブ”です。

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