アウトドアウエアのアンドワンダー(東京、中田浩史社長)が好調だ。2019年にTSIホールディングスの傘下に入って以降、売上高は公表していないものの、2倍の成長を遂げた。この間、TSIの経営資源を活用して直営店の出店を重ねるとともに、海外の卸先も広げてきた。アウトドアの機能性とモードのデザイン性が融合したウエアの評価は高く、伊モンクレール(MONCLER)の協業相手に選ばれるなど話題も豊富だ。デザイナーの池内啓太氏はまだ構想段階としながらも「近い将来、ロンドンに直営店を出したい」と話す。
「モンクレール」からのオファー
「アンドワンダー(AND WANDER)」はイッセイミヤケのデザインチームで同僚だった池内氏と森美穂子氏が2011年に設立。共通の趣味である登山などのアウトドアスポーツに特化しながらも、高いデザイン性によって街着としても支持を集めてきた。
TSI入り後、両氏はクリエイションに専念できる体制になり、販路拡大やEC(ネット通販)、生産、財務などの支援を受けることで、成長軌道にのった。直営店はもともと運営していた東京・元代々木町のほか、20年3月に名古屋のラシック、7月に渋谷のミヤシタパーク、10月に丸の内、21年3月に大阪・梅田のグランフロントへと出店を重ねた。欧米での卸売りのアカウント数は約100まで広がり、「コロナ下にもかかわらず、海外の売上高は倍増している」(中田社長)。
そんな中で舞い込んだのが「モンクレール」との協業だった。コラボレーションプロジェクトの一つである「2モンクレール1952マン(2 MONCLER 1952 MAN)」のセルジオ・ザンボン(Sergio Zambon)氏から昨年夏に依頼を受けた。ザンボン氏は来日した際、売り場で見た「アンドワンダー」に関心を持ったという。欧州での卸先も広がり、ミラノなどの見本市にも積極的に参加していたため、現地の業界人の目に触れる機会も増えていた。
協業商品についての打ち合わせはコロナ下のためオンラインやメールで行い、「モンクレール」のダウン、「アンドワンダー」の機能性とディテールへのこだわりなど、両者の特徴を掛け合わせたジャケットやバックパックなど10アイテムの協業商品が完成した。森氏は「こちらがリフレクターや止水ファスナーなど細かい部分の要望を出すと、それをさらに膨らませたアイデアが返ってきて、とても充実した仕事になった」と振り返る。協業商品は9月2日から世界で発売された。
中田社長は「『モンクレール』との協業は特に海外での認知の追い風になった」と言い、欧州での直営店出店を視野に入れる。取扱店舗が最も多い英国が海外1号店の有力候補地になる。米国でも代理店を探す。
直営店は山小屋のような存在
国内直営店が5店舗に増えたことで、消費者の声がたくさん届くようになった。サイズやフィット感への注文、何を重視して服を選んでいるか、山登りの初心者が何から買いそろえようとするか。卸売りでは見えにくい課題を知り、商品企画の精度アップにつなげる。現在はコロナで規模を縮小しているものの、顧客参加型の登山ツアーや移動販売車による出張販売を通じて、顧客とのコミュニケーションを増やしてきた。元代々木町の直営店はギャラリーを併設しており、アウトドア活動を通じて知り合ったアーティストやフォトグラファーの企画展を開くなど、山や自然の文化発信にも力を入れている。
札幌や福岡など未進出の主要大都市の直営店出店も模索する。中田社長は「『アンドワンダー』にとって直営店は山小屋のような存在。自然にファンが集まる場であり、ブランドの発信の場として大都市には拠点を持ちたい」考えだ。
ウエアだけでなく、キャンプ用品などのアイテムも増えているため、ブランドの世界観をトータルで表現する場も必要になってきた。池内氏は「10年前にブランドを作ったときから常に背伸びをしてやってきた。いずれは『アンドワンダー』のキャンプ場を作りたい」と構想を膨らます。