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連載 小島健輔リポート

アパレルの店舗販売に未来はあるのか【小島健輔リポート】

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。長引くコロナ禍によってアパレルの店舗販売のあり方が変化を迫られている。デジタルと融合した店舗運営、そして現場の販売員はどうあるべきか。詳細に論じてみた。

 コロナ禍でソーシャルディスタンスが求められる中、さすがにロープレ・コンテストは下火のようだが、代わってSNSの発信力やオンラインの接客、スタイリング提案を競う「スタッフ・オブ・ザ・イヤー」(バニッシュ・スタンダード主催)が盛り上がった。

 店舗販売の1人当たり売り上げがEC(ネット通販)の10分の1ほどに過ぎない以上、店舗はD2CのショールームかAI(人工知能)仕掛けの無人販売に近づいていくしかなく、「販売員」はオンライン(ECやSNS)に活躍の場を求めざるを得ない。そんな現実を直視するなら旧来のロープレ・コンテストは開催の意義が疑わしく、オンラインの接客やスタイリング提案に加え、ライブコマースのチームプレーこそコンテストで競われるべきだろう。アフター・コロナへ、アパレル販売はどう変わっていくのだろうか。

ロープレ・コンテストは「政(祭り事)」

 ロープレ・コンテストは販売員の接客スキル向上を啓蒙するという「建前」の一方、給与水準が低くキャリアアップも限られて採用難が続く販売員にスポットライトを当て、現勤販売員の意欲を高めて新規の応募者も増やしたいという「政(祭り事)」の性格が強い。

 ロープレ・コンテストで評価される接客スキルは日常の接客シーンから乖離したスタンドプレーになりがちで、接客スキルの啓蒙としてふさわしいか疑問があるし、売り上げを追求すれば個人プレーではなくチームプレーになる。売り上げを最大化するにはTVショッピング方式のキャスト(販売員)、モデル、ゲストのチームプレーが効果的だが、冷静な選択を逸脱して購買意欲を盛り上げてしまうと返品率が跳ね上がる。

 販売接客は顧客の選択を的確にサポートするのが本質で、購買意欲を盛り上げれば良いというものではない。商品情報や在庫情報に加えて顧客情報(ログインが必要)もつかんでいないと的確なサポートはできないから、人力よりビッグデータ武装のAIの方が優位であることは言うまでもない。

 チーム接客は前世紀の呉服販売で押し込み販売の常套手段とされ、紳士服店でも一時は推奨されたが、ローン返済に苦しむ顧客が続出して「呉服店は怖い」と敬遠されるようになり、今日のコンプライアンスがきちんとした小売業では3人以上での接客は禁止されているはずだ。私も前世紀には多数の「販売マニュアル」作成に関わったが、やはり3人以上での接客は禁止していた。

 3人接客はともかく、アパレル販売では米国の高級店などで見かける販売員とフィッターの連携プレーが効果的だが、販売は個人プレーとして評価されるせいか、セレクト店や高級ブランド店でも研修されることが少なく、スキルを知らない販売員も多い。ロープレ・コンテストもそんな連携プレーを競うならも見応えもあるし、接客スキル向上の啓蒙効果も期待できるのではないか。

オンライン接客やライブコマースへ

 店舗販売での3人接客は押し込み販売を避けるべく禁止すべきとしたが、今日ではTVショッピングのみならずライブコマース(ネット動画販売)でも必須の販売方式となりつつある。

 ライブコマースはソーシャルバイヤー※1.のスマホカメラによるワンオペから始まったが、アングルやフォーカスを固定してのワンオペでは訴求効果に限界があり、ライブコマースがメジャー化するに連れてTVショッピング同様、キャスト、モデル、ゲストの連携プレーをカメラマンがアングルやフォーカスを工夫して撮るようになってきた。TVショッピングのようにキャストやモデルのフォーメーションを変えて動きを強調したり、在庫カウンターを表示して購入をあおるライブコマースが出てきても不思議はない。

 ECは単品(SKU)登録を編集した「サムネイル」ゲートから個別単品の「ささげテンプレート」(後ろはショッピングカート)に誘導する仕組みだから、ささげビジュアルのルック提案だけでは着回し表現に限界があり、さまざまな体形やキャラクターに対応する着こなし・着崩し提案も難しい。ゆえにさまざまな体形やキャラクターの販売スタッフが着回し・着こなし・着崩しを提案するスタッフスタイリングが不可欠だが、個々人のスキルに大差があるのが実情で、ブランドのディレクターやプレス担当がマニュアル化してスキルを指導したり選別して掲載する体制が必要だ。各社公式サイトのスタッフスタイリングを見比べると、そんな体制の有無が透けて見える。

 コロナ禍もあって百貨店や駅ビル・ファッションビルを主力とするアパレルではEC比率が4割、5割も珍しくなくなり、1人当たり売り上げも店舗販売(1600〜4000万円)とEC(数億円)で10倍前後もの格差があるとなれば、販売員啓蒙のコンテストも店舗販売の接客ロープレからオンライン接客やスタッフスタイリング、ライブコマースへと代わっていくのは必然だろう。

※1.ソーシャルバイヤー…海外商品を現地で代理購入してオンラインで国内の消費者に販売する転売ヤー

ECと店舗販売の絶望的格差

 ECの急激なメジャー化と進化でECと店舗販売の顧客利便と販売効率の格差が絶望的に開いていく以上、店舗販売が革命的進化を遂げない限り、コロナが収束してもECが主役で店舗が補足するOMO※2.関係の定着は避けられない。それは販売員1人当たり売り上げのケタ違いの格差を見れば一目瞭然で、ECと人時生産性を競えばAIが運営する無人店舗に近づいていく。美容部員による専門的接客が不可欠とされてきた化粧品販売も、中国ではAIがセルフ選択を支援しオンラインで発注する無人運営に近いショールーム店舗が台頭している。

 そんなショールーム型省人時店舗は同一商品を継続販売するパッケージ商品である化粧品では成り立っても、次々と入れ替わる多数のアイテムとデザインのフィットや着心地が問われるアパレルでは試着用サイズサンプルの取り回しが煩雑で省人時効果が限られ、「ザラ」(サイズサンプル後方配置型)も「ジーユー」(全サイズ陳列型)も実験店舗で止まっている。店受取(英国ではクリック&コレクト、米国ではBOPIS※3.)や店出荷の利便に応えないと売り上げも伸びないから、在庫をそろえてエリアのEC注文に引き当てるOMO店舗を効率的に運営する仕組みを確立するしかない。

 店舗販売のフロントを動かすのは出前フォーメーションと元番地棚割、タグ表示とPOPの「VMD」であり、出前フォーメーションはECの「編集サムネイル」、元番地棚割とタグ表示とPOPはECの「ささげテンプレート」に相当する。店舗販売のバックヤードはPOSと店舗物流、ECのバックヤードは受注カートとフルフィルメント(EC物流)だが、店舗在庫とフルフィルセンター※4.在庫の引き当て連携やクリック&コレクト、ローカル宅配とテザリングなど、両者のバックヤードは連携が加速している。

 ECの「サムネイル」はタグ選択で顧客も瞬時に編集できるが、店舗の出前フォーメーションは物理的な再編集が必要で、店舗側は計画的に運用できても顧客が随意に編集できるはずもない。SKU単品登録を編集する「サムネイル」は着回しのワードローブなど2.5次元的訴求には限界があるが(最近は可能にするプログラムもある)、顧客が随意に編集できる利便に店舗は遠く及ばない。

 出前フォーメーションをECの「サムネイル」編集並みに鮮やかに転換するには、舞台演出の「場ミリ※5.」(アイドルチームのステージを想起して)みたいに元番地からの出前と戻しをアドレス運用する必要があるが、物理的な作業を要するから週サイクルが限界だろう。元番地棚割はタグ表示、POPと合わせて「ささげテンプレート」に相当するが、棚入れとフェイシング管理、フロントへの出前と戻しという物理的作業(マテハン)を要するから、店舗の半身はECのフルフィルセンターに近い。店舗出荷のネットスーパーを想起してもらえば理解できるのではないか。

 店舗の致命的な情報格差がタグ表示とPOPの貧困さで、ECなら「ささげテンプレート」で一覧できる情報が下げタグや洗濯タグに分散して一部しか明記されず、下げタグは意図して隠され、洗濯タグは商品の裏をまさぐって探さないと見つからない。ECなら色・サイズのSKU展開と在庫状況、サイズ別の各部分寸法なども明示されるのに、店舗では販売員に逐一問い合わせるしかない。スタッフスタイリングも購入者レビューも見れず、サイズレコメンドのアプリもないから、手間のかかる試着をしてみるしかない。ECと比べれば不親切で情報が隠され、商品選択に少なからぬ手間を強いられるのが店舗販売の実態だ。

 店舗購入の最も根源的な不便が物流労働と交通費の負担で、コロナ禍のリモートワークや感染リスクで店舗に立ち寄る機会が激減する中、わざわざ出かける不便が露呈した。行き帰りの交通費はECの送料と天秤にかけたくなるし、店舗で棚からピッキングして持ち帰る労働負担に袋代まで請求されては店舗から足が遠のくのも当然だ。

 ターミナルや広域大型施設の店舗は出かけるだけでも少なからぬ労働と交通費を要するからECで済ませたいし、生活圏の店舗もかさ張る買い物を持ち帰る労働がつらければECやネットスーパーに切り替える人が増える。コロナが収束しても昔日の店舗販売が復活することはないだろう。

※2.OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の融合を意味し、店舗とFC(ECの出荷センター)の在庫引き当てを連携して全国区宅配とローカル宅配を仕分け、店受け取りや店出荷など顧客利便を高めるリテール戦略

※3.BOPIS(Buy Online Pickup In Store)…ECで注文して店舗で受け取る顧客利便で、米国では駐車場受取のカーブサイド・ピックアップも多い。英国では受取所渡しも含めてC&C(Click&Collect)と言う

※4. フルフィルセンター(FC、Fulfilment Center)…ECなど通販の出荷センターで、棚入れ保管した商品をピッキングして梱包し、仕分けして出荷する。大規模な通販業者ではFCの前に調達商品を物流手順別に仕分けるクロスドッキングセンター(TC)があり、自社で宅配まで仕切る場合はFCで仕分けた荷物を配送地区(郵便番号区分)別に仕分ける多数のパーセルハブ(PC)を配置する

※5.場ミリ…舞台演出で演者の動きを指示する床に表記した番地(センターを0とする)

店舗販売の抜本的「革命」を急げ

 店舗販売の衰退を食い止めるには5点の抜本的「革命」が必須だ。それは(1)情報格差の是正、(2)顧客不便の是正、(3)店舗在庫の拡充、(4)人時生産性の革命的改善、(5)不動産コストの抜本改善、に他ならない。

(1)情報格差の是正

 情報格差は二方向から是正されるべきだ。もっとも容易なのは商品タグへのQRコードの記載で、顧客がスマホのカメラでスキャンすればECサイトの該当商品テンプレートへ飛び、ささげ情報や在庫状況から購入者レビューまで一覧できる。その上で、店舗に在庫がなければ利便性の良い近隣店舗の在庫を取り置くか、ECで発注して店舗で受け取るか宅配してもらうか選択すれば良い。

 もう一つは吊りタグや洗濯タグなどに分散してわざわざ隠されている商品情報をテンプレート化した「ささげタグ」に統合し、アイテムごとに取り付け位 置と形状を統一することだ。加えて、アイテム毎のPOPを電子化して価格だけでなく「ささげ」のキーワードをテロップ表示し、ECのタイムセールと連動してダイナミック・プライシングを訴求したり、ログイン入店した顧客が接近するとレコメンド情報を流すなど、ECとの情報格差を縮める努力を重ねたい。

(2)顧客不便の是正

 自腹を切ってわざわざ来店してくれた顧客に袋代を請求し持ち帰り労働を負担していただくのは心苦しいから、お持ち帰りされるなら紙製のショッピングバッグを無償提供し(ECのダンボール包装は無償)、宅配を望まれるなら当然に無償でお届けする(百貨店は当然のように送料を取るが)。現品は来店店舗在庫を引き当て、修理加工品はローカル拠点店舗在庫を引き当て(修理加工テザリング)、再入荷品はフルフィルセンター経由のスルー仕分け(棚入れとピッキングが不要)とするなど、顧客利便と合理性で引き当てたい。

(3)店舗在庫の拡充

 ECに売り上げが移ればフルフィルセンターに在庫が移り、店舗在庫が薄くなって機会ロスで売り上げがさらに落ち、それがまたECシフトを加速する。この悪循環を止めるにはフルフィルセンターに在庫を積まず店舗在庫を拡充し、ECをローカル化して近隣店舗の在庫を引き当てるしかない。店舗物流に比べるとEC物流は個別分散の宅配となる分、プロセスが複雑でケタ違いに割高になり(人時効率とは逆転する)、C02排出を増やすからサステナブルに逆行する。この課題を解決する決定打はフルフィルセンター出荷を持ち越しのロングテール品やスルー仕分けの受注販売品に限定し、通常展開品は店舗在庫のローカル出荷と店受け取りに転換することだ。「ザラ」が先んじたこの大転換にどうして学ばないのだろうか。

(4)人時生産性の革命的改善

 ECと比べて1ケタ低い店舗販売の人時生産性を革命的に改善しない限り店舗販売の収益性はECに遠く及ばず、ECシフトは止まらない。店舗販売の人時生産性を飛躍的に高めるには店舗規模の拡大や効率的レイアウト、元番地と出前のアドレス運用、RFID(無線電子タグ)による在庫管理の効率化と精算のセルフ化・自動化に加え、出荷段階の物流加工仕分け(バンドリングと皮剥き)による店内マテハン作業量の圧縮が不可欠だ。それらを全て履行して変形労働時間制とレイバーコントロールを駆使したとしても、店舗販売の人件費率は10%弱に抑えるのが限界だろうが、収益性は格段に高まる。

(5)不動産コストの抜本革新

 ターミナルの商業施設では不動産費が売り上げの20%を超え、ハウスカードの決済手数料まで合わせると採算が採れず、郊外の大型ショッピングセタンターでも不動産費の負担は限界に近い。個別交渉では拉致があかないから、開発コストも運営コストも家賃も格段に安いLCC型商業施設※6.に主力を転じ、人時効率の高い大型店舗がEC出荷も担うローカルOMO体制に転ずるしかない。

 それには生活圏の日常消費に応える品ぞろえのエッセンシャルシフトが必須で、肥大する販管費を調達原価の切り下げで補うインフレ経営では到底不可能だ。勤労者の所得が伸び悩み社会負担で手取りの減少が止まらない我が国では一定規模以上のアパレル事業者がインフレ経営を続けるのは不可能で、デフレ経営への転換か事業規模の縮小を選択せざるを得ない。現実に目を背け見たい夢を追うオプティミスティックなインフレ経営は早晩破綻するしかあるまい。

※6.LCC型商業施設…ローコスト運営の商業施設を格安航空会社(Low Cost Career)になぞらえたもので、ローコスト(低家賃)に加えてフリーダム(営業規制が緩い)、オープンエア、ダイレクトパーキングといった要素がそろう

販売員の労働は大切だ!

 ここまで列記した改革や革命は容易に実行できるものばかりではないが、販売員の時給が2000円、3000円だとしたら、経営陣は何をさて置いても必死で遂行するに違いない。これまで店舗販売の非効率や不便が放置されて来たのは、販売員の時給が低く労働の無駄遣いが容認されてきたからであり、一昔前まではECがマイナーで店舗販売の脅威ではなかったからだ。

 ECが主役となって店舗販売の採算が行き詰まり、大量閉店に走るアパレル事業者が少なからず、低報酬が是正されるどころか、非正規雇用を中心に販売員の解雇や雇い止めが広がっており、ロープレ・コンテストなど祭り事をやる状況ではない。「ものづくり」の付加価値を訴求するばかりで、販売労働を使い捨ててきたアパレル業界に反省はないのだろうか。

 販売員の報酬が低位に留まることを前提に改革を先送りして雇用調整に逃げるのではなく、時給が2000円、3000円でも利益を出していける効率的な仕組みに転換すべきで、若者の夢をあおって使い捨てる業界の悪習には終止符を打たねばならない。若者の所得が増えて将来に希望を持てないと、アパレル消費も冷え込んで業界の萎縮が止まらなくなる(もう、そうなって久しいが)。

 社会がサステナブルであるためにはアパレル業界も微力ながら若者の未来を支えるべきで、「販売員の労働は大切だ!」という揺るぎない信念を掲げて改革を急ぐアパレル企業が増えていくことを願うばかりだ。

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