「コーチ(COACH)」はこのほど、Spring 2022 コレクションをニューヨーク・ファッション・ウイークで発表した。多くのブランド同様、「コーチ」も新時代を見据えてリアルなランウエイショーにカムバック。とは言えクリエイティブ・ディレクターのスチュアート・ヴィヴァース(Stuart Vevers)は、「(コロナ禍で)学んだことを生かしたい」「(デジタル発表のメリットは引き続き取り入れつつ)世界中の“コーチ・ファミリー”を大切にしたい」と考え、昨年1年かけて取り組んだデジタル発表「コーチ TV」も継続。ファッションショーの様子を架空のテレビ番組に組み込んで、“ランウエイのOMO(Online Merges with Offline)”に挑戦した。
コレクションについてスチュアートは、「状況は今も先行き不透明だけど、今は『HOPE』を発信したい。未来を考えるのは僕らの務めだし、未来を作る次の世代を応援したい。僕は今、若い世代が形作ってくれる未来に夢中なんだ」と語る。その言葉通り、コレクションはポジティブカラーにあふれ躍動的だ。ファーストルックは、オーバーサイズに仕立てたピンク色のベースボールシャツに、同じ色のベースボールキャップ、そこにブーツと、「コーチ」のショッピングバッグを模した“カシン”のミニバッグ。野球のグローブにインスパイアされたレザーから始まり、ニューヨークから世界に広がり、若い世代や若々しい気分を持つ消費者を魅了し続ける「コーチ」らしい幕開けだった。今季はレイヤードは控えめにオーバーサイズでリラックス感とストリートのムードを高め、ポップなカラーリングとさまざまなモチーフでポジティブなムードを発信する。トロンプルイユ(だまし絵)で襟やポケットを描いたニットなど、遊び心も忘れない。「フレッシュでアップビート、オプティミスティック(楽観的)で何よりもジョイフル」ーー。最新コレクションを語るスチュアートからは、次々とポジティブな単語が飛び出してくる。まとうだけで、履くだけで、持つだけで、気持ちが高揚するコレクションとなった。
多用したデニムを筆頭に1970年代のヒッピーライクな要素も盛り込んだ。70年代は、まさに若者が新しい価値観をクリエイトした時代。と同時に「コーチ」の初代デザイナー、ボニー・カシン(Bonnie Cashin)がブランドに新風を吹き込み、現代の礎を築いた時代でもあるという。スチュアートは、「コートに使われていたターンロックをバッグの留め具に用いるなど、60~70年代のボニーはチャレンジスピリットに溢れ、挑戦を恐れなかった。彼女が世に送り出したデザインは今なお『コーチ』にとって欠かせない存在だ。彼女のクリエイションが、次世代にとっての新たな刺激になると思ったんだ」と語る。多用した色と抑揚の効いたプロポーションバランスは、ボニーのデザインの特徴でもあったという。
スチュアート自身の挑戦は、引き続きサステナビリティへの取り組みだ。今シーズンもレザーを筆頭にアップサイクル素材を多用したほか、ブランドの原点でもある野球のグローブを再利用して、ボニーによるデザインのトートバッグ“カシン キャリー”のミニサイズを生み出した。スチュアートは、「ボニーと僕、それに若者の共通点を探ってみたんだ」と話す。それはきっと、困難を恐れず、楽しみながら挑戦し続ける不屈の精神だろう。
Tシャツなどにも描いたモチーフは、いずれもニューヨークのアイコンばかりだ。セントラルパークやブルックリン・ブリッジなどの観光名所を筆頭に、スーパーの「ゼイバーズ(ZABAR’S)」や地元密着のスイーツショップ「セレンディピティー スリー(SERENDIPITY 3)」などにオマージュを捧げる。地元の職人と協業したトートバッグから収益の一部を地元に寄付する取り組みまで、Spring 2022 コレクションは、スチュアートによる多面的なニューヨークへの思いを形にしたラブレターのような存在だ。
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