ファッション

社会への“弔い”を込めた初のランウエイ 「アポクリファ」飛躍のポテンシャル

 播本鈴二デザイナーが手掛ける「アポクリファ(APOCRYPHA.)」が、2022年春夏コレクションをランウエイショーで披露した。過去にモデルを起用したインスタレーションを行ったことはあるが、ショーはブランド初。フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)が設計した東京・池袋の自由学園・明日館を舞台に、屋外の芝生に椅子を並べて一夜限りのランウエイを演出した。

 シーズンテーマは“THE BOHDI(菩提)”。作家・竹山道雄が、第二次世界大戦中のビルマ(現ミャンマー)で生きる日本兵を描いた作品「ビルマの竪琴(たてごと)」にインスパイアされた。「無理に前を向くのではなく、史実と向き合う姿勢に共感した。ファッションは、明るくポジティブな姿勢を求められがちだけど、パンデミックや紛争などの悲しい現実と史実に目を背けるべきではない。今シーズンは、少し立ち止まりたかった」と播本デザイナー。

 ファーストルックは、僧侶の袈裟姿を彷彿とさせるVネックのプルオーバーと巻きスカートを組み合わせたスタイル。その後、深いオレンジのカラーパレットで統一したジャケットやコート、前合わせをずらしたトップス、腰から肩までをぐるりと巻くワンピースなど、色やディテール、アイテムの組み合わせで、得意とするテーラードに仏教の要素を落とし込んでいく。時折、ふわりとしたレース生地のシャツや透け感のあるオーバーニットも差し込み、暗くなりそうな世界観に軽やかさを添える。

 ショーでは、キリスト教式の葬儀で使われるユリを表現した刺しゅうや、特攻兵を弔う天女をイメージしたグラフィックなど、仏教以外のモチーフも見受けられた。「弔う姿勢は、宗教や国境を越えてあらゆる人が持っている。あえて仏教に絞らず、多様なモチーフを散りばめました」。フィナーレでは合唱隊の歌声を流し、会場は暖かなムードに包まれた。

 ショー終了後、播本デザイナーにランウエイに挑んだ理由を聞くと、意外な言葉が返ってきた。「ルックか、インスタレーションか、ランウエイか、最初はめちゃくちゃ迷っていました。でも、『キディル(KIDILL)』のヒロさん(末安弘明デザイナー)から『ショーやるしかないでしょ。やろうよ』と背中を押されたんです。予算などの課題は山積みでしたが、「『下げる頭はいくらでもある』と、その情熱だけでここまで来ました」。

 播本デザイナーはヨウジヤマモト出身で、パターンの良さや直線的なシルエットが持ち味だ。それに加えて、ショーを通してコレクションの世界感を伝えることにも長けたデザイナーだと感じた。今後もリアルショーを続けて、服と演出、空間に、自らの思いをぶつけて欲しい。

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