「セリーヌ オム(CELINE HOMME)」が2022年春夏コレクションをデジタルで発表し、音楽はアメリカ・ロサンゼルス出身の26歳、イジー・カミナ(Izzy Camina)が担当しました。同ブランドをアーティスティック、クリエイティブ&イメージディレクターとして率いるエディ・スリマン(Hedi Slimane)にとって、音楽は“エディ=音楽”という方程式ができるほど切っても切り離せない関係性ですよね。そこで、最新コレクションを解き明かすためにイジー・カミナにインタビューを実施しました。さらに、エディが過去にピックアップしてきたミュージシャン3組と、エディとの仕事の後の活躍ぶりを、私的好みを交えて振り返ります。インスタグラムのフォロワーがまだ4000にも満たないカミナも、これからブレイク必至かもしれませんよ。
エディが愛したミュージシャン超私的3選
THE DRUMS
日本にも何度か来日をしているニューヨーク・ブルックリンのバンドがザ・ドラムス(THE DRUMS)です。彼らは、エディが「ディオール オム(DIOR HOMME)」を去った後に出版した写真集“Rock Diarie”(2009)にモデルとして出演しました。08年に結成したザ・ドラムスは、09年にアルバム「Let's Go Surfing」でデビュー。ニューヨークの街中から生まれたとは思えない「Oh,Mama I Wanna Go Surfing」というキャッチーなフレーズと、サーフポップの軽やかなメロディー、そしてスマートでスタイリッシュな彼らのルックスが絶妙にマッチして、これまでのインディポップシーンとは一線を画すバンドに成長していきました。デビュー間もない無名な彼らのアー写を、エディが自ら撮影するほど溺愛したのも納得!
DIIV
「サンローラン(SAINT LAURENT)」の2013-14年秋冬コレクションのキャンペーンでモデルを務めたのがニューヨークのバンド、ダイブ(DIIV)のザカリー・コール・スミス(Zachary Cole Smith)です。14-15年秋冬にはランウエイショーにもモデルとして登場しました。ダイブのノイジーなギターと浮遊感のあるヴォーカルは、あえてカセットテープで聴きたくなり、どことなくティーン時代のようなエモーションを感じる人は少なくないはず。メンバーの中でもスミスの存在感は圧倒的で、ミュージシャン・モデルのスカイ・フェレイラ(Sky Ferreira)と交際していたことも当時は話題でした。バンドはデビューしてから何かと紆余曲折ありますが、どんどん深みを増していく彼らの姿に私はこれからも目が離せません。
CURTIS HARDING
デトロイトのシンガー、カーティス・ハーディング(Curtis Harding)は、エディが2013年にカリフォルニアのフェス「ビーチ ゴス(Beach Goth)」でミュージシャンを撮影した際にたまたま撮影されたことがきっかけで、15年の「サンローラン」のプロジェクト“SAINT LAURENT MUSIC PROJECT”に起用されました。ハーディングは往年のソウルシンガーを彷彿とさせるメロディーとパワーで、そこにインディーロックのガレージ感が融合した独自の音楽性が魅力です。彼が14年のデビュー時にエディと制作したムービーやアルバムのジャケットは、両者らしさがふんだんに詰め込まれた何度見ても色あせないビジュアル!その後は「グッチ(GUCCI)」とも協業するなど大活躍で、デビュー前から見出したエディの先見の明には脱帽です。
「セリーヌ オム」の音楽を手掛けた26歳にインタビュー
——まずはプロフィールを教えてください
イジー・カミナ(以下、カミナ):ハイ!私はシンガーで、自分の曲をパソコンで制作しているわ。生まれたのはロサンゼルスだけど、ニューヨークの近く、ニュージャージーで育ったの。複雑な子ども時代を送ったから大変だったけれど、いいこともあったわ。音楽を始めたのは高校生のころで、アプリでビートを作り始めたのがきっかけ。
——音楽との出合いはいつ?
カミナ:記憶にある限り、本当に小さな子どもの時からよ。私が覚えている一番昔の思い出は、ロサンゼルスにある父親のアパレル会社のワークショップでのものかな。「モスキートヘッド(MOSQUITOHEAD)」というブランド名で、ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)やジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)とかいろんなバンドのプリントTシャツを出していたの。だから、小さなころから素晴らしいロックアイコンのイメージにたくさん触れてきたというわけ。それが私と音楽が出合った初めての経験ね。
——作品を作るインスピレーション源や、影響を受けてきたアーティストは?
カミナ:世の中の状況と、自分の経験。さまざまなことからインスピレーションを受けるから、私の音楽もいろんなジャンルにまたがっているんだと思う。影響を受けたアーティストはたくさんいるわ。スージー・スー(Siouxsie Sioux)、エム・アイ・エー(M.I.A.)、コーン(Korn)、システム・オブ・ア・ダウン(System of a Down)、そして両親が聴いていたもっと昔のバンドとか。中学生のころはエム・エフ・ドゥーム(MF DOOM)やウータン・クラン(Wu Tang Clan)を、大学生になってからはゲサフェルスタイン(Gesaffelstein)なんかのエレクトロ系のアーティストも聴いていたな。今となってはあまり聴いていないアーティストもいるけれど、ジャンルを問わず聴いてきた積み重ねが今の音楽性につながっているのは間違いないわ。
——コロナの前と後で環境の変化は?
カミナ:幸運なことに、ほとんど変わってないの。もともと、自分のベッドルームで作業をしたり、録音したりしていたから。
——音楽を始めてから今までで、印象に残っているエピソードは?
カミナ:初めて高級なマイクで歌った時だと思う。自分の声を即座に嫌いにならなかったのは、あれが初めてだったから。
ショーの曲は「頭にこびりつくみたい」
——「セリーヌ オム」のコレクションに参加して、どんな気持ち?
カミナ:ショーには、深いインスピレーションを受けたわ。私の曲に対する反応は……どうやら、みんなの頭にこびりつくみたい!それがいいことなのかどうか、分からないけど。
——エディと会った印象は?
カミナ:初めて正式に会ったのは、ショーの撮影をしているとき。ロケ地まで飛んで行ったの。想像通りのクールで知的な人だったわ。
——エディは音楽との関係性が深いが、あなたから見てエディはどんな音楽センスがあると思う?
カミナ:過去のショーや、エディが撮影した有名なミュージシャンのポートレートなどを見れば、そこに答えがあるんじゃないかな。
——「セリーヌ オム」2022年春夏コレクションの印象は?
カミナ:今回のコレクションは、めちゃくちゃかっこよくてグラマラスだったし、タフだけど美しかった。私はもともと、自分の音楽でそういう感じを表現しようとしていると思っているから、自分の芯の部分ともマッチしていると感じたわ。
——自身のファッションのこだわりは?
カミナ:私の場合、髪の毛がクレイジーなほどボサボサしていて、どうしても注目を集めちゃうから、服は調和が取れたシンプルな感じが理想。色や柄、素材じゃなく、フィットやシルエットにこだわっているわ。サステナブルだから、ビンテージを買うのも好き。
——ファッションと音楽の関係性についてはどう考える?
カミナ:私にとって、アートは言葉を通じて表現できないことを、理解したり伝えたりするのを助けてくれるものなの。ファッションや音楽には、何かを伝えるための言葉や表現とは“別の言語”という側面もあるから。
——日本はどんなイメージ?
カミナ:実は、高校を卒業した後、東京の墨田区に数カ月ほど住んでいたことがあるの。日本というと、自然の美しさを思い出すと同時に、ホストファミリーとその飼い猫のパールと過ごした、温かくてハッピーな思い出がよみがえってくるわ。自転車であちこち訪ねて、美味しいものを食べて、地元のロックバーに行って、日本のカルチャーを学んだこととかね。また東京に行って、マユミとユリコに会いたいし、もっと地方や、北海道にも行ってみたいな。
——今はパソコンやスマートフォン上に情報があふれていて、若い世代はそのような環境で音楽を制作している。あなたはミュージシャンとして、その状況とどう向き合って活動していきたい?
カミナ:今の、この常に刺激や情報であふれている状態は嫌いだな。ありがたく思ってはいるけれど、あまりに急激に、手に負えないぐらい過剰になってしまった。個人的には、それに反抗するためにスマホの電源を切って、自然の中で長い時間を過ごすのが好き。マイペースでゆっくり動いていたら成功できないっていうのなら、私はそれで構わないわ。