「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATHESOLOIST.)」は21日、2022年春夏コレクションをランウエイショー形式で披露した。ショー形式での発表は20年1月のパリ・メンズ・コレクション以来となり、会場となった東京・新木場のスタジオには約250人が集まった。デザイナーやスタイリスト、バイヤー、ジャーナリストら重鎮クラスの業界関係者の姿も多く見られた。
ショー前に、インスタグラムのブランド公式アカウントや、宮下貴裕デザイナーの投稿で予告したメッセージは「Pause≒Play」。“止まる”ことと“動き出す”ことを、“ほぼ等しい”という意味の記号でつなぎ、宮下デザイナーの現在の心情をコレクションで直接的に表現した。自身の半年間を思い起こし、あえて立ち止まることで自分の存在を振り返り、向き合い、見つめ直し、そして前に進むという気持ちをコレクションに込めたという。
難解複雑さを圧倒する凄み
会場が暗転し、作曲家の小瀬村晶によるピアノの楽曲が響く中を“Listen To The Soloist”と書かれた紙袋を頭からすっぽり被ったモデルたちが、ゆっくりと歩みを進めていく。今回のコレクションは宮下デザイナーにとって必要な“Pause”とはいうものの、決して守りに入っているわけではない。ショールカラーのジレにはインサイドアウトのパーツが重なり、裾は折り返し風のギミックだったり、ポケットには格子状に布を縫い付けたりと、1着に対する情報量がとにかく多く、いつも以上に挑戦的だ。ジレの下にはシャツやニット、MA-1などがレイヤードされ、複雑すぎてどこまでが1着なのか凝視しても分かりづらい。そしてバンツの膝上に切り込みを入れ、そこから脚を出して膝下部分はダラダラと垂らしながら歩く提案も多数。“再構築”“脱構築”などはコレクション評でよく使われる表現であり、そのキーワードが頭を一瞬よぎったものの、今、目の当たりにしている服はその表現に収めることすら違和感を感じるほどの凄みである。ほかにもカラフルなベストには裾を波状にカットしたニットを、スリーブレスジャケットにはモッズコートのパーツをレイヤードし、PVCのポンチョ、複数のパーツを融合したアップサイクル仕立てのジャケット、着られるバッグなど、強いアイテムを強いスタイリングで連打する。今の日本に、ここまでクリエイションを振り切れるデザイナーはそうそういない。宮下デザイナーは一度立ち止まることで自身の根幹であるテーラードやミリタリー、アウトドアに立ち返り、激しい個性を加えることで自らや受け取り手の心の“Play”ボタンを押したかったのかもしれない。18年の夏にピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)に初参加した際、「洋服は常に進化している。だから僕は後ろを振り返らない」と語っていたが、その意志は現在も揺るがないのだと確信した。
ショーが終わって会場から外に出ると、“独奏”の余韻に浸る来場者たちを満月が出迎えた。この日は中秋の名月で、なおかつ8年ぶりに満月が重なるという特別な夜だった。興味本位でちょうど8年前の「ソロイスト.」のコレクションについて調べてみると14年春夏シーズン“#0009”は、宮下デザイナーにとって特別な数字を掲げ、“自分の存在を振り返り、向き合い、見つめ直す”コレクションだった。