2022年春夏シーズンのミラノ・ファッション・ウイーク(以下、ミラノコレ)は、現地在住のスタッフがリアルショーを取材中。現地取材に加え、日本の「WWDJAPAN」編集部員も現地のスタッフがカバーしきれなかったブランドのデジタルショーをレビューします。
ミラノと上海で同時開催した「プラダ」
ラフ・シモンズ(Raf Simons)が共同クリエイティブ・ディレクターに就任して以来、初めてリアルショーを行った「プラダ(PRADA)」は、なんとミラノと上海で同時開催しました!ミラノは、プラダ財団(Fondazione Prada)で9月24日15時に、上海はバンド・ワン(Bund One)で同日21時に開催。ミラノの会場のいたる所に設置されたモニターには上海の映像が映し出されたほか、配信の映像でも両都市のショーから同じルックを順に見せたり、2画面で同時に見せたりする演出がされました。2都市で同時開催、同時配信するのはファッションショーの歴史において初めてだそう。
ラフは「ショーを2カ所で同時開催することで、『プラダ』のショーはどこでも開催できるという可能性を見せることができた。テクノロジーで映像を共有するというだけでなく、リアルのイベントを共有するのだ。同じイデオロギーや価値観、信念を持った人々を集める、コミュニティーというアイデアが根幹にある」と語ります。ミラノの会場には女優のメイジー・ウィリアムズ(Maisie Williams)や、陸上のディナ・アッシャー・スミス(Dina Asher Smith)選手、TikTokスターのアヴァニ(Avani)、アンソニー・リーヴス(Anthony Reeves)、ウィズダム・ケイ(Wisdom Kaye)らが来場。一方上海の会場には蔡徐坤(Cai Xukun)やチュン・シャー(Chun Xia)といった現地のスターが来場しました。同時開催は容易なことではないですが、国境を越えてブランドのコミュニティーにリーチするということに、いかにブランドが重きを置いているかを感じ取れます。
コレクションは、長いトレーンのミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)らしいサテンのミニスカートに、ラフらしいシルエットのレザージャケットやMA-1、ウエスト部分にギャザーが入ったミディ丈ドレス、バックが大きくV字に開いたドレス、ブラの型でシルエットにメリハリをつけた厚手のニット、コルセットのようなレースアップのトップス、メンズにも登場したミニスカートと合体したようなニットのロンパースなど、総じてミニマルなシルエットで構成。
ミウッチャとラフは今季、トレーンのついたイブニングドレスやコルセットといったクラシックな服を、「現代の女性が魅惑的に着るには」という課題からクリエイションを出発したそう。「まず私たちはエレガントといった言葉を思い浮かべたけど、なんだかとてもオールドファッションな言葉に感じられた。“魅惑的(seduction)”という言葉は身体と深く関係している。この発想と伝統的な服を使って、現在における“魅惑的”の意味を明らかにしようとした。なぜこの言葉は何百年という時を経ても重要なのか?こうしたアイデアを膨らませて、向き合った」とミウッチャ。
ラフも「トレーン、コルセット、イブニングドレスなどは、歴史的に美しいとされてきたもので、それが興味深い。でもそれを揺り動かしたいと思った。21世記を生きる現代の女性にとって現実的なものにしたかったんだ。美しさを楽しみたい、でもそれは昔の方法でなくてもいい。イブニングドレスは複雑な作りになりがちだけど、複雑じゃないものにしたかった。それが今らしく感じるから」と説明します。
リアルショーになったことで、過去のシーズンのショーの後に行われてきたようなラフとミウッチャ、アンバサダーたち、そして世界中の学生との対話の時間が公に配信されなくなったのは寂しくもありますが、一方で今季からは現地で彼らの対話を生で聞くことができた人たちもいます。「WWDJAPAN」でも現地在住の取材陣による展示会リポートが公開されるので楽しみにしててください!
復活のエネルギーと熱気に満ち満ちた「ヴェルサーチェ」
「ブラボー!ドナテラ(Donatella)!!ブラボー!デュア・リパ(Dua Lipa)!!」という歓声が大きな拍手とともに聞こえてきそうなほど、「ヴェルサーチェ(VERSACE)」のリアルショーは配信の画面越しでもその熱気が伝わってきました。ショーのトップバッターを務めたのは歌姫デュア・リパ。脇腹のスリットから背中まで大きく開いたテイラードジャケットとブランドのアイコンであるセーフティピン(安全ピン)でスリットを留めたタイトスカートで登場し、カメラ席の目の前まで来ると微笑みます。
BGMももちろんデュア・リパ。特に“Let's Get Physical”という歌詞が印象的な「Physical」は、久々のリアルなショー、つまり“フィジカル”なショーを「ヴェルサーチェ」ファミリーと開催できることを祝福するかのよう。彼女の楽曲をバックに、その後もジジ・ハディッド(Gigi Hadid)、エミリー・ラタコウスキー(Emily Ratajkowski)、ナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)、マドンナ(Madonna)の娘のローデス・レオン(Lourdes Leon)といったビックネームなモデルたちが続々登場しました。
今季のコレクションの鍵は、会場の上にもはためいていたシルクスカーフ。「シルクスカーフはブランドの伝統とアイデンティティーを継ぐ基本アイテムで、キャンバスのようなもの。首元に巻くだけでなく、ヘッドスカーフやバッグのアクセサリーなどさまざまな使い方ができて、あらゆる装いを『ヴェルサーチェ』のスタイルに仕上げてくれる。シルクスカーフは創業以来継続してきたが、今季は発想を一新し、ふんわりと巻いてドリーミーな雰囲気ではなく、挑発的でセクシーにきつく巻いた」とドナテラが語るように、シャーベットカラーから蛍光カラーまで、ビビッドな色合いのシルクカーフはスリットやブラの下に当ててアクセントとして、セットアップやシャツの全面に使いスタイルの主役としても、コレクションに贅沢に散りばめられていました。
今回は定番のプリント「ラ グレカ」に加え、王冠と紋章の柄の「ロイヤル リベリオン」やアシッドカラーの春の花がぶつかり合うような柄の「アシッド ブーケ」などが登場しました。さらに、鮮やかに塗られてパワーアップしたセーフティーピンもスリットやポケット、ボタンの代わりや身体のラインを際立たせる留め具としても配され、コレクションにアクセントを加えます。
ラストルックは再びデュア・リパが務め、ホットピンクの輝くメッシュドレスで煌びやかなショーをクローズしました。最後にはドナテラとともに挨拶し、ブランドのミューズの仲間入りしたことを強調しているかのよう。コロナ禍による長い休息期間から脱し、着飾る高揚感とそのエネルギーを思い出させてくれるようなパワーと熱気に満ちたショーでした。なお、会場の上のシルクスカーフをはためかせていたのは風ではなくなんと人力。シックスパックが綺麗に割れたメンたちが天井から下りたロープを引っ張ってシルクスカーフを動かしていました。人力である必要はないけれどあえて筋肉隆々の黒子に頼むという(笑)、なくても大丈夫なものもユーモラスに見せて作品の一部にしてしまうような遊び心も私たちに思い出させてくれました。