ファッション

「廃棄もセールもしない」ブランドが、「苦肉の策」として取り組んだ在庫問題解消法とは?

 D2Cブランド「ソージュ(SOEJU)」は、適正価格での衣服の提供やムダの少ないブランドビジネスを目指し、長く着用できる商品を、なるべくリピート生産し、これまでセールを行わずに販売してきた。しかし、素材・副資材の流通や消費者の要望に基づくアップデートなどにより、「完全に同じモノを作り続けるのは、難しい」(市原明日香代表)。結果、“旧仕様”の洋服は少しずつ増え、それは在庫となっていった。普通ならセールで在庫問題を解消するところだが、「『廃棄はしない』『セールもしない』は、ブランドポリシー」。そこで同社は「セールを行わないブランドの苦肉の策」として、通常のECとは異なる期間限定サイト「ソージュ シクロ」を立ち上げ、“旧仕様”の商品を価格改定して販売。合わせてプロパーで購入してくれた消費者を裏切らないよう、さまざまな工夫を重ねた。

 「ソージュ」は、2015年にスタートしたパーソナル・スタイリング・サービスで蓄えたリアルなデータと声を基にシンプルなアイテムを企画・生産・販売。トラベルフレンドリーやシーズンレス、デイ&ナイト、そしてラグジュアリーを目指し、アイテム数と流通経路を絞り込むことで市場価格の60~70%で販売している。原価率は現在、45~50%。「WWDJAPAN」が推定する年商は、現在10億円強だ。

 アップデートを続ける洋服は、「本来なら、旧品番を売り切ってから次を出したい」ところだが、一方で「あるサイズは新仕様なのに、別のサイズは旧品番は許されない」。だがブランドの拡大とともに、そんな旧品番は少しずつ増加。そこで考えたのが、在庫限りの商品を「ソージュ シクロ」で販売し、加えて売り上げの一部を公益財団法人などに寄付する取り組みだ。

 「ソージュ シクロ」で販売する商品は、従来よりも低い価格に改定している。まずは当初価格の3割オフに、それでも売れなかったら原価ギリギリの半額程度にもう一度改定して。つまり、「結局は、セール」だ。だが「ソージュ シクロ」での販売に至るまでには、社内で議論を重ね、いくつかの工夫を盛り込み、消費者も自分たちも納得できるように努めた。主な工夫は、以下の通りだ。

1.改定前の価格は表示せず、「オフ率をメリットにしない」
2.既存のECでは告知をしない
3.価格を改定する商品は、遅くとも1カ月前までに店頭から撤去する
4.言い訳はしない。正直な想いはnoteにしたためる

 ユニークなのは、3、そして4の取り組みだろう。3について市原代表は、「昨日買った洋服が翌日セールになっていたら、お客様は裏切られたような気分になってしまうかもしれない」という。そこで可能なら2カ月前、遅くとも1カ月前までには価格を改定して販売する予定の商品を店頭やECから撤去。「1、2カ月着用していたら、手頃な価格で販売されても納得していただけると思った」という。

 4については、期間限定サイトをオープンした当日の朝、「まだまだ葛藤中の私達ですが、ここに至るまでに考えてきたことをお伝えさせていただくことで」という書き出しで、在庫に偏りが生じること、悩み抜いた中で「ソージュ シクロ」にたどり着いたことを綴った。「一見すると普通のセールのようにも見えるかもしれません」「在庫限りの商品をどのようにすれば必要な方にその時の適正価格でお届けできるかと頭を悩ませました」「ここを出発点としてより進化した方法を模索して行きたい」(以上、すべてnoteの文章から)と素直な気持ちを吐露している。

 結果は、総じてポジティブだった。「普段はなかなか買えないから、今回参加できて嬉しい」という新客から、「終わってしまうなら、全色買っておこう」というファンまで、「ネガティブなご意見は、ほとんどなかった。暖かく見守ってくれるファンの存在を知った」という。初回は「怖々行った」ので「ソージュ シクロ」と通常のECは切り離したが、今回はポジティブなリアクションを踏まえてカートは1つに、それぞれで商品を買っても決済は1回で済むようにアップデートしたという。

 9月30日までオープンしている今回のサイトでは、生地メーカーの残反を活用したアイテムも数量限定で販売。引き続き、売り上げの一部は天災被害に遭った自治体や個人、援助を必要とする国内外に寄付する。期間限定サイトを1カ月程度、年に1、2回構えれば、旧品番の「在庫はほとんど解消できる」手応えをつかんだ。なにより「セールも100%悪ではない。宝探し的な楽しさがあるし、廃棄するよりは使っていただいた方が良い」と自分たちも納得できるようになったという。

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