資生堂が2019年に買収したスキンケアブランド「ドランク エレファント(DRUNK ELEPHANT)」が10月1日、いよいよ日本に上陸する。三越伊勢丹のコスメEC「ミーコ(MEECO)」、イセタン ミラー ルミネ新宿店、ららぽーとTOKYO-BAY店に出店し、イセタン ミラー 東京ミッドタウン日比谷店、イセタン ミラーテラスモール湘南店では期間限定で取り扱う。また6日からは伊勢丹新宿本店でポップアップイベントを行う。
「ドランク エレファント」は13年、当時専業主婦だったティファニー・マスターソン(Tiffany Masterson)がビューティ業界未経験で立ち上げたブランド。SNSを中心に熱狂的なファンを育てたD2C戦略とクリーンビューティコンセプトで急成長し、わずか数年でセフォラのトップセラーに上り詰めた。ポップなパッケージと環境・肌への安全性に配慮した処方で若年層を中心に人気を集めている。
また買収した資生堂は「ローラ メルシエ(LAURA MERCIER)」や「ベアミネラル(BAREMINERALS)」をはじめとするメイクアップブランドに加え、「ツバキ(TSUBAKI)」 などを擁するパーソナルケア事業を売却しており、今後プレステージスキンケアに一層注力する計画だ。そんな中で「ドランクエレファント」は事業をけん引するビジネスの1つの柱と捉え、日本での事業展開にも大きな期待をかける。
そんな「ドランク エレファント」を手掛けるティファニー・マスターソン(Tiffany Masterson)創設者に、ブランド立ち上げの経緯や、日本進出にかけた思いなどについて聞いた。
WWD:「ドランク エレファント」を立ち上げた理由は。
ティファニー・マスターソン創業者(以下、ティファニー):ブランドを立ち上げる前は専業主婦として4人の子どもを育てていた。サイドビジネスとしてクレンジングバー(石けん)を作っていたのだが、これをきっかけに成分や原料、化粧品全般について学ぶようになった。私自身の肌が弱くてエッセンシャルオイルや香料にも敏感に反応してしまうのだが、安全・安心でありながら効果実感もある製品がなかなか見つからず、友人に勧められて自分でスキンケアラインを立ち上げることにした。
WWD:化粧品市場はすでにスキンケアブランドであふれているが、なぜここまで成長できたと考えるか。
ティファニー:「ドランク エレファント」を立ち上げる際、自分のこれまでの経験と知識を踏まえ6つの原料(エッセンシャルオイル、アルコール、シリコーン、紫外線吸収剤、香料・染料、界面活性剤)を絶対に配合しないと決めた。また肌にメリットのある、もしくは処方の安定・安全性に必要不可欠な原料のみを使用するシンプルな処方にこだわった。
重要なのは、単に処方にこだわるのだけでなく、なぜその処方にしたのかを発信すること。本当は不要な成分や肌に負担となる原料が含まれていることが多い化粧品だが、一般的な消費者はそんなことも知らない。だから消費者を“教育”する思いで、製品のことだけでなくスキンケアや化粧品全般について発信し続けた。このアプローチがこれまでの美容業界で新しかったのだと思う。透明性を重視した、消費者ファーストな戦略が支持され、口コミで人気が広がった。
WWD:買収のウワサが立っていた時、資生堂以外にも他の化粧品大手が買い手候補として多く挙がっていた。最終的に資生堂を選んだ理由は?
ティファニー:同じ価値観を持っているから。ポジティブな企業風土、“ピープルファースト”な考え方、イノベーション。これまでの「ドランクエレファント」のカルチャーを崩さずに、資生堂が誇る最新技術を活用してさらなるイノベーションを実現できるだろう。また、グローバル展開を目指す上で最適なパートナーだと感じた。
ティファニー:SNSは消費者とつながる最も重要なツールの一つだと捉えている。「ドランク エレファント」のファンは、躊躇せずに意見を発信するし、互いにコミュニケーションを積極的に取り合っている。だから常に彼らの声に耳を傾け、なるべくスピーディーに製品開発などに生かしている。ブランドの成功の一因は、このコミュニティーに近い距離で接し、対話をしてきたことだと思う。9月にはLINEの公式アカウントを開設し、10月には伊勢丹新宿本店でポップアップイベントを開催予定で、そこで消費者と直接つながることも楽しみにしている。
消費者は決して“無知”じゃない
真面目すぎない啓もう活動が成功
WWD:「ドランク エレファント」は時に難しくもある、クリーンビューティやサステナビリティについて楽しく消費者に啓もうしており、それが多くの若年層の関心を引きつけている。
ティファニー:「ドランク エレファント」はあまりシリアスになりすぎず、常に“楽しむこと”を忘れないブランド。以前リテーラーの人に、消費者は“無知(知識がない)”だから、なるべくシンプルに消費者と対話する必要があると言われたことがある。でも私は決してそう思わないわ。今の消費者は学びたい意欲が高く、知識を手に入れることで自身の体に入れるものをコントロールできると分かっている。全く無知じゃないわ。私も一消費者として常に学んでいるし、なるべく楽しく気楽な方法で学べる場を作りたかった。だからユーモラスで“映える”コンテンツを用いて、原料や化粧品の使い方、ブランドのフィロソフィーなどについて楽しく発信している。
WWD:製品を重ね付けせず、手のひらで自由自在に混ぜて使う”スムージー”コンセプトもユニーク。それはどこから生まれた発想?
ティファニー:4人の子どもと仕事で常に忙しいから、丁寧に一つずつ重ね付けしている余裕がないの。ほぼ全ての製品が混ぜて使えるように、なるべく軽い質感にこだわった。毎朝飲んでいるスムージーにインスパイアされたわ。
WWD:ここ数年でクリーンビューティは大きなブームとなったが、市場の未来は?
ティファニー:これからも次々とクリーンビューティブランドが誕生するだろう。ただ決まった定義がないために、クリーンの基準がブランドによって異なるのは懸念点だ。一方で消費者がどんどん賢くなっていく中で透明性はより重要になってくるだろうし、それはいい変化だと思う。
WWD:日本の化粧品市場は世界を見ても競争が激しい。そんな日本でどのように戦っていくのか。
ティファニー:全ての市場に共通することだが、まずはブランドのユニークな哲学をきちんと消費者に伝えることが成功の要だと思っている。欧米でも“教育”アプローチで多くの消費者が改めて自身の肌と向き合い、化粧品について学んだと感じている。日本の消費者にも同様に、“スキンケア改革”を起こしたい。