ファッション

ロシア人が「アディダス」を愛する理由 ソ連時代から続く意外な関係性

 はじめまして。東京とロンドンを拠点に活動するエディターやライター、スタイリスト、フォトグラファー、グラフィックデザイナーが所属するクリエイティブコレクティブ“インターネット・ボーイフレンズ(Internet BoyFriends)”です。「WWDJAPAN」でファッションやスニーカー、音楽、アートに関するコラムをこれから不定期で寄稿することになりました。よろしくお願いいたします。

ブームのきっかけはモスクワ五輪

 第1回目は、“日本から1番近いヨーロッパ”ことロシアと、ドイツのスポーツブランド「アディダス(ADIDAS)」の意外な関係性について。

 まずはじめに、ロシアは前身のソビエト連邦時代(1922~1991年)からアメリカと並ぶスポーツ超大国として知られ、参加した全18大会の夏季・冬季オリンピックで計1204個のメダルを獲得していた(日本は全45大会で555個)。中でも、自国開催だった1980年のモスクワ大会ではアメリカが不参加だったこともあって異次元の強さを見せ、全204個の金メダルのうち約40%にあたる80個を獲得。メダル獲得総数の195個と合わせて、1大会におけるメダル数の最多獲得という記録を打ち立てている。

 また、このモスクワ大会は東欧初であったこと、社会主義国初の夏季オリンピックだったこともあり、ソ連は国の威信をかけた一大イベントとして各方面で注力。特に選手団には代表にふさわしいユニホームを提供しようと考えていた。だが嘘のような本当の話で、当時のソ連は計画経済を敷いていた影響でファッション性や高品質のユニホームを作るノウハウがないにひとしかったのである。そんな彼らに手を差し伸べたのが、世界有数のスポーツブランド「アディダス」だったのだ。

幻の“ツーストライプス”?

 ところが、ことはそう上手く運ばない。アディダス本社のあるバイエルン州は、当時ソ連と冷戦状態にあったアメリカが統治する西ドイツに属しており、さらに「アディダス」のユニホームを採用することは資本主義に屈したことを意味するという声が上がったのだ。そのためソ連は苦肉の策として、同ブランドのアイコニックな3本線(スリーストライプス)を2本線(ツーストライプス)にした特注デザインのユニホームを発注したのである。

 そんな紆余曲折がありながらも、結果的に選手団が大活躍したことでソ連国内では「アディダス」のトラックスーツが大ヒット。逆に、人々が「アディダス」の正規品を手に入れるのが難しくなり、スリーストライプスが“憧れのアイテム”として神格化していった。また「アディドス」や「アビダス」といったフェイク品も大量に出回ったことで、スリーストライプスは国中に広がっていった。

 そして、1991年にソ連が崩壊すると国内で「アディダス」が正規流通し、2次ブームが到来。「プーマ(PUMA)」や「リーボック(REEBOK)」といったスポーツブランドにも人気が集まったものの、やはり「アディダス」のトラックスーツを求める人々が多かったそうだ。だが供給過多によりその人気が陰りを見せると、多くの刑務所が囚人の制服としてトラックスーツを採用し、これまでの健全なイメージから変化していった。“ゴプニク(いわゆるロシアのヤンキー)”の多くが「アディダス」を着ているのも、この影響なのかもしれない。

ゴーシャ登場で人気は加速

 とはいえロシア人にとって「アディダス」は憧れの存在であり、ゴーシャ・ラブチンスキー(Gosha Rubchinskiy)の登場がそのイメージをさらに押し上げた。ゴーシャはロシア発の世界的デザイナーであり、さらに「アディダス」とのコラボまでやってのけたのだから、若者を中心に国内でのスリーストライプス人気が再燃。同時期にトレンドだったスポーツミックスやストリートウエアと親和性の高いヒップホップやロシアン・ハードベースといったジャンルの音楽も後押しした。特に、ロシアン・ハードベースのミュージックビデオではそれが顕著で、ロシアン ヴィレッジ ボーイズ(Russian Village Boys)は「Adidas」という楽曲まで製作している。

 このように、ロシアにおける「アディダス」は、単なるスポーツブランドという存在ではなく、数十年にわたって培われた文化そのものなのだ。この1年はコロナ禍によって世の中はリラックスムードのため、ロシア国内ではスリーストライプスがさらなる広がりを見せるかもしれない。

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