通販大手の千趣会と二次流通のプラットフォーマーのオークネットは、両社での循環型流通社会創造を目的とした協業を発表した。通販事業「ベルメゾン」の会員を対象とした衣料品の買い取りサービスのトライアルを開始する。千趣会はオークネットが提唱する一次流通と二次流通を融合させ、循環型社会へのシフトを加速させる「サーキュラーコマース」の理念に共感。志を共にする両社が描く循環型のビジョンとは。
二次流通が社会貢献と
ビジネス戦略、収益をつなぐ
切り口になる
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WWDJAPAN(以下、WWD):昨今、循環経済への関心が高まっているが、オークネットは1985年の創業当初からモノを循環させる仕組みづくりに注力してきたのか?
藤崎慎一郎オークネット社長兼COO(以下、藤崎):当社はまだインターネットという言葉すらなかった時代に、中古車のオンラインオークションを事業者向けに開始し、循環の仕組みを構築してきた。今はサステナビリティへの意識が高まり、一次流通企業も商品を循環させるルートを模索しているようだ。しかし、二次流通が持つべき機能は一次流通とは全く異なる。他企業から相談を受ける事例が増えてきたため、当社では一次流通と二次流通の融合による循環型流通の形を「サーキュラーコマース」と呼び、その構築を支援している。
WWD:消費者間での二次流通市場は拡大しているが、あえて自社で二次流通の仕組みを持つメリットは?
藤崎:最大のメリットは、顧客との接点を増やせること。顧客が商品を購入してから手放すまでの時間や理由は、非常に価値のあるマーケティング情報だ。加えて、商品を手放す側の意識も変化している。1円でも高く売ることを重視する消費者がいる一方、大事に使用したモノが、プロの検品などの工程を経て適正な形で次に渡る安心感を求める消費者もいる。
WWD:「ベルメゾン」の顧客の価値観は変化している?
梶原健司千趣会社長(以下、梶原):以前、期間限定の買い取りサービスを実施したときに、「モノを使う責任」を強く意識しているお客さまが増えていることを実感した。この実績に後押しされ、今回オークネットと循環経済に切り込むリーディングカンパニーになる覚悟を決めた。社内でも二次流通がどうしてもうけにつながるのかといった意見もあった。しかし、業界で生き残るためには短期的なもうけではなく、長期的に質の高い顧客基盤を作ることが重要だ。二次流通が社会貢献とビジネス戦略、収益をつなぐ切り口になると考え、5カ年の新中期経営計画には、他企業との協業による「使用価値の最大化」を盛り込んだ。
WWD:具体的な協業の内容は?
藤崎:「ベルメゾン」の会員を対象に、衣料品を中心とした中古品買い取りサービスのトライアルを開始した。商品回収後の仕分けや査定といった作業は当社が行う。
両社が目指す“ポリシーの
ある”二次流通
WWD:千趣会がオークネットと組んだ理由は?
梶原:循環型社会の実現に向けた志を持つ同社とは、ポリシーのある二次流通を構築できると踏んだ。強力な二次流通基盤を持ち、信頼と実績があることも大きな理由だ。
WWD:“ポリシーのある”二次流通とは?
梶原:不用品を再販することだけが本質ではない。仕組みの構築で終わらず、顧客の消費意識を変化させるために継続的に働きかけ、ゆくゆくは価値観を共にする人々が集まるコミュニティーを形成していきたい。具体的には、同サービスを利用する顧客の間で、商品を長く使うための情報交換など、商品への愛着が湧く仕組みや、集まることで何かメリットが生まれるような仕掛けを構想中だ。当社は顧客層の幅が広いからこそ、一人一人のライフスタイルの変化をくみ取った提案が重要だ。例えば、子育てを終えた女性がマタニティーウエアを手放す際に、二次流通サービスを利用する。こちらは、その人の次のステップとして、職場復帰を想定したオフィスカジュアルの衣料品を提案できる。子育て中に役立った商品を、次の子育て家庭に譲っていくような顧客同士の心のリレーも生まれる。
藤崎:顧客の特性や企業の将来的ビジョンに沿ったサービス設計ができるのも当社の強みだ。
WWD:二次流通に着手することで、新品が売れなくなるような心配はないのか?
藤崎:むしろ二次流通が盛り上がることで、一次流通の回転が速くなるはずだ。自動車業界がまさにそうだ。購入から5年程度経過した後に、新車や中古車に乗り換えて、最後は海外に流れるといったサイクルで一次流通が回転している。
梶原:当社もそこは心配していない。新品とユーズド、両方にニーズが分かれていくことを想定している。そして、循環型のサイクルの中で得た顧客からのフィードバックを商品の品質向上につなげ、新商品では常に新鮮な提案をしていく。
藤崎:創業以来リユース業界をけん引してきた立場として、蓄積してきたノウハウを生かして、メーカーやブランド、顧客ごとの課題解決につながる仕組み作りができるはずだ。循環型社会へのシフトを加速させるため、パートナー企業の「サーキュラーコマース」構築を支援していきたい。
循環型流通の形
「サーキュラーコマース」とは
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オークネットが提案する「サーキュラーコマース」とは、一次流通と二次流通を融合させ、二次流通による顧客接点創出やデータからの示唆を一次流通へ還元していく小売業の形のこと。自動車市場などでの「下取り」がその実践例だ。
従来の小売業のビジネスモデルは、販売と同時に顧客との関係性が途絶えてしまいがちなのに対し、「サーキュラーコマース」は、商品の「使用中」「使用後」におけるタッチポイントを創出する重要なポテンシャルを持つ。
循環型社会の観点から見れば、これまで買い取り・再販の差益を駆動力に拡大してきた二次流通市場を、従来のモデルでは経済的に成立しにくい領域まで押し広げていくことができる。
「サーキュラーコマース」の実現には、一次流通の専業プレーヤーと、二次流通の専門的ノウハウや高度なサービス構築ノウハウを併せ持つプレーヤーとの、共創型の取り組みが必要。オークネットは、自社独自のケイパビリティを生かし、「サーキュラーコマース」の拡大を支援する。