ファッション

東コレ参加5ブランドを支えたファッショニスタ 山田慎とは何者か

 2022年春夏シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、東コレ)」が8月30日〜9月4日に開催された。参加ブランドのうち、デジタルの「ベースマーク(BASE MARK)」「アヤーム(AYAME)」「エイ・クライプシス((A)CRYPSIS)」、リアルの「ホウガ(HOUGA)」「セイヴソン(SEIVSON)」の5ブランドのショーをディレクションしたのが、フリーランスとしてPRやマーケティング活動を行う山田慎だ。「セイヴソン」では、コロナ禍でヅゥチン・シン(Tzu Chin Shen)デザイナーが来日できないというトラブルもありながら、機転を効かせて遠隔でショーを実現させた。普段は「アンリアレイジ(ANREALAGE)」「リコール(REQUAL≡)」「ソンシンバル(SONSHINBAL)」など、10ブランドのPRを担当。また個性豊かなファッションスタイルが特徴的で、インスタグラムのフォロワーは2.3万を抱える。今回の東コレでは、自身のフォロワーから18〜25歳のインターン生20人を募集して、ファッション界の未来を担う若者たちに向けて経験の場を提供した。東京ブランドを支えるキーマンに、部屋中が植物に囲まれた自宅で話を聞いた。

サンプル到着2日後にデジタルショーの撮影

WWD:これまでのキャリアは?
山田慎(以下、山田):日本の理系の大学を経た後に、ニューヨーク州立ファッション工科大学(F.I.T.)に入学しました。VMDやマーケティングを勉強して帰国後、電通グループの広告代理店ザ・ゴールの営業部とマーケティング部に2年半在籍し、イタリアの大手眼鏡企業デリーゴのハウスブランド「ポリス(POLICE)」などを担当していました。新店舗の内装や外装、打ち出し方を任され、広告代理店の幅を超えた経験ができましたね。それから自分の力を試すために独立し、現在はフリーランスとして活動しています。

WWD:5ブランドのショーを手掛けた経緯は?
山田:もともとは、普段からPRを担当している「ベースマーク」「ホウガ」「アヤーム」の3ブランドの予定だったんです。でも石田萌「ホウガ」デザイナーを介して、ECサイト「シーナウトウキョウ(SEENOWTOKYO)」の内⽥裕也代表から、「セイヴソン」「エイクライプシス」のショーのディレクションの依頼が届きました。

WWD:5ブランドのショーを同時進行させるのは大変だったのでは?
山田:何をどのタイミングで行えばいいのか分からなかったので、人員の確保だけは先に進めたんです。7月中に撮影場所や方向性の大枠をはじめ、照明や音響の手配は全ブランド終えていました。8月にサンプルが届き始めてからは、デジタルショーの撮影から取り掛かりました。デジタルで一番大変だったのは「ベースマーク」です。モデルのフィッティングはなく、「似合うだろう」という憶測のもと、サンプル到着2日後に撮影しました。いつものメンバーだからこそ実現できた、異例中の異例だと思います(笑)。今回の映像はランウエイ形式ではなく、初めてイメージムービーに挑戦しました。イメージなので、現場で見たものと出来上がりとの差が激しく、僕が納得いくものに仕上がるまで動画チームと修正を繰り返し続けました。リアルショーのディレクションに本格的に取り掛かったのは8月中旬以降です。

WWD:「セイヴソン」はデザイナーが来日できず、100%遠隔のリアルショーが成功できた要因は?
山田:本番の2カ月前から打ち合わせが始まり、全てLINEとZoom、Google Meetのみで打ち合わせをしました。遠隔でも成功できたのは、ブランド側がこちらの意見に対してきちんと耳を傾けてくれたからです。ショー自体はライティングの形を少し変えて、モデルの歩き方もシンプルにしたので、僕自身はそこまで大変ではありませんでした。

WWD:リアルショーで一番苦労したブランドは?
山田:「ホウガ」です。当初の構想よりも会場が狭くなり、洋服が見えにくいように感じたので、直前で図面を大きく変更しました。フィナーレ演出も変えたので、会場に設置した花のオブジェを組み立て直したり、ライトを調整し直したりして本番前ギリギリで完成しました。

WWD:実際に東コレを終えてみての感想は?
山田:最初はファッションショーのやり方すら分からなかったんですが、「アンリアレイジ」の演出を担当している金子繁孝さんが身近にいたので、自然と少しは吸収できていたのが成功できた要因かもしれません。ファッションショーには費用がかかるし、決して簡単なことではないけど本当に楽しかった。

下の世代にリアルな姿を見せる意味

WWD:ブランドが東コレで発表する意味は?
山田:デザイナーが自信を持つことです。「自分が手掛けた服がこんなにかっこよく映るんだ」「自分たちの領域外の表現に挑めるんだ」という気持ちは、デザイナーにとって一番大きい経験です。それに、ショーを行うことで自分のブランドを支えてくれる人、応援してくれる人がいることに改めて気付くことができます。僕も今は発表する側に立ち、東コレをもっと地域に根付くようにしていきたいと考えました。そこで、僕のインスタグラムフォロワーから18〜25歳のインターン生20人を集めました。下の世代に、自分が失敗する姿や苦しむ姿、楽しむ姿をあえて見せることで、彼らの今後につながるきっかけを作れたと思っています。自分のやれる範囲のことはやれたんじゃないかな。

WWD:デジタルとリアルの両方をディレクションして感じたことは?
山田:デジタルショーのメリットは、低予算で東コレに参加しやすいところです。でも映像をただ発表するだけでは絶対にダメだし、見てもらうためにはプロモーション全体の座組みが必要です。リアルにしかない良さは、来場者の拍手や一言があるだけで、発表する側のモチベーションは全然違うこと。その瞬間は、ファッション界にいてよかったと感じることができました。

WWD:仕事に対するモチベーションは?
山田:買い物をすることです。買い物をすれば消費者の気持ちが分かるから、マーケティングに生きるんです。なぜそれがほしくなったのかはクリエイティブに、好きを伝えることはPRに生きてくる。仕事後の楽しみは、「エルメス(HERMES)」「カルティエ(CARTIER)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」を買うことです。服が好きな気持ちやランウエイを見に行っていたことが、今の自分の仕事につながっているのが何よりも奇跡です。

WWD:山田さんのファッションのルーツは?
山田:虫です。僕は特に蝶が好きで、蝶の模様や自然界の色合いを参考にしています。ピンクと青の服を合わせているときは、南国の虫を思い浮かべてコーディネートしています。もともと海外のストリートスナップからファッションに興味を持ち始めたので、個性的な装いから日本ではすごく珍しがられる。基本は売れ残り商材が好きなので、焦って買いに行かなくても大体残っています(笑)。

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