黒河内真衣子が手がける「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」は、霧の中をモデルが行き交う幻想的な映像で2022年春夏物を発表した。舞台となったのは、黒河内の出身地である長野県の県立美術館。同美術館はこの6〜8月に、ブランド設立10周年を記念する展覧会を開いた場所でもある。黒河内が展覧会準備のために過ごしたという春の長野で目にした、草花が芽吹いて散っていく光景や空の色合いを、繊細で緻密なテキスタイルや染めの技術などと表現した。
美術館屋外に備えられた、アーティスト中谷芙二子による「霧の彫刻」。人工的に噴出された霧が、その時々の風向きや気温で刻一刻と流れを変えていく作品だ。その中から、ライラックやピンクといった色合いのドレスやセットアップ姿のモデルたちが現れては消えていく。今季のテーマは「Land」。「土地の歴史、個人の記憶の深部(中略)に耳を傾け、静かに霧の中に浮かび上がる淡い春の景色」を映している。
繊細なグラデーション染めや蚊帳のような麻
全国の産地の職人と組んで作り出す凝ったテキスタイルが同ブランドの強みの一つ。今季特に目をひくのは、光沢のあるフィルム糸がフリンジ状に揺れる、透け感のある素材。一度見ただけでは気づかないほどの淡いグラデーション染めを施しており、黒河内の求める繊細な色のトーン変化を求めて、何度も染めを検証したのだという。
あえてタテ糸を飛ばして作った重厚な花柄の三重織は、散って水面を流れていく花びらをイメージしたもの。麻のガーゼタッチの素材は、黒河内が幼少期に祖父母の家で使用しているのを見た、蚊帳から着想した。実際に蚊帳を生産していたという機屋と組み、思い通りの透け感などを追求した。
アイコンの曲線のカットを取り入れて
スタート時からのブランドファンにとっては懐かしく、また近年ブランドを知ったファンにとっては新鮮なのが、ブランドデビューの11年春夏のコレクションで企画していたドレスのアップデート版だ。特徴的な袖口やウエスト部分の曲線のカッティングはそのままに、デビュー時のミニ丈からフレアシルエットのミディー丈に変えて提案、よりエレガントな雰囲気になった。曲線のディテールはブランドのアイコン的存在として、ジャケットやニットドレスなどにも取り入れた。
映像を手掛けたのは、21年春夏、21-22年秋冬に引き続き奥山由之。映像は9月28日のパリ・ファッション・ウイークの公式スケジュール内で発表された。
今夏は「ユニクロ(UNIQLO)」とのコラボレーションでインナーウエアやニットウエアを企画し、国内だけでなくシンガポールやタイでもヒットを記録。ブランド設立10周年を越えて、新たな10年への道を順調に走り出している。