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伊勢丹新宿本店が買い取りサービス 「のれん」の力、富裕層を呼び込めるか

 三越伊勢丹は、顧客から不要になった品物を買い取ったり、引き取ったりする新サービス「アイムグリーン(I’M GREEN)」を伊勢丹新宿本店で始めた。昨年10月に三越日本橋本店で試験的に始めたサービスを本格始動に移す。循環型社会への関心が高まる中、衣料品やラグジュアリーブランド、宝飾品などを大量に販売してきた百貨店が全くベクトルの異なる事業に参入し、顧客との新しい関係を築く。

 10月1日、伊勢丹新宿本店7階に「アイムグリーン」の店舗がオープンした。さっそく顧客がジュエリー数点などを持ち込んだ。査定の結果、買取価格100万円弱の現金がその場で渡された。

「アイムグリーン」では顧客が不要になった衣料品、バッグ、時計、ジュエリー、骨董品、美術品などを持ち込み、三越伊勢丹のスタッフと相談しながら、買い取りにするか、引き取りにするかを決める。買い取りになった品物は隣の部屋にいる外部提携先の専門スタッフが真贋を見極めて査定する。5〜10分の査定の後、買取価格は現金で支払われる。値段がつかない品物はリサイクルに回す。衣料品で引き取りになった一部の品物は、日本環境設計を通じて再生ポリエステルに姿を変える。

 買取専門店「なんぼや」を展開するバリュエンスホールディングス(東京、嵜本晋輔社長)と協業し、真贋と査定は同社の専門スタッフが行う。買い取られた品物は、バリュエンスHDを通じて国内外のオークションで販売される。

買取専門店ではなく百貨店に託したい

 サービス導入のきっかけは顧客からの要望だった。「自宅に溜まったものを整理したいけれど、どの会社に頼めば良いかわからない。そんな声がたいへん多かった」とデジタル事業運営部の大塚信二マネージャーは説明する。

 衣料品などを廃棄することに抵抗を持つ人が年々増えている。長年、百貨店を利用する顧客にとっては、なじみの百貨店であれば安心して不用品を任すことができる。百貨店側も販売の場面では分からない顧客の隠れたニーズを知る機会になる。顧客の自宅のたんすが整理され、買取金額が懐に入れば、再び百貨店で買い物を楽しむきっかけにもなる。そう考えて、1年前に三越日本橋本店でカード会員だけに告知し、検証を重ねた。

 三越日本橋本店では2000件以上の買い取りを行なった。「店頭買い取り」以外にも、「宅配買い取り」、外商顧客の自宅に出向いての「出張買い取り」の3種パターンを試した。

 最も利用された店頭買い取りはジュエリーやバッグなど高価な品物が多い傾向にある。平均10点くらいが持ち込まれ、買取価格15万円前後の人が目立った。

 宅配買い取りは衣料品が主力になる。ダンボール箱が2〜3箱が届いて、買取金額4万〜5万円のケースが多かった。

 外商顧客への出張買い取りは限られた富裕層が対象となる。引っ越しや断捨離だけでなく、終活など今の時代を反映した理由もある。三越伊勢丹のスタッフと査定する専門スタッフの2人で自宅を訪問する。ダンボール15箱分ほどの大量の品物を見ると、買取価格は100万円を超えたりする。絵画や陶器など美術品も査定する。

 三越日本橋本店では中心客層は40〜60代で、そのうち女性が8割を占めた。3割の客がリピーターとして再び「アイムグリーン」を利用した。買い取りで現金を手にした顧客の85%はその日のうちに同店で買い物をする。大塚マネージャーは「ただ買い取るだけでなく、既存の売り場へ還流の効果を生み出すことが重要」と話す。

出口戦略は入口戦略につながる

 買い取りサービスは、すでに大手専門店から新興ネット企業まで多数の競合がひしめており、三越伊勢丹は後発といってよい。

 同社のアドバンテージは長年築き上げてきた富裕層など優良顧客の層の厚さである。先行する買い取り大手がアプローチできてない優良顧客の地盤がある。外商に代表されるように、顧客の自宅に上がれるような信頼関係が最大の強みだ。デジタル事業運営部の菅沼武部長は言う。「当社に品物を預けるお客さまは、必ずしも高価買い取りを最優先に考えているわけではない。三越や伊勢丹といった長年の“のれん”を信用してくださっている」

 三越伊勢丹にとっては品物を売るだけでなく、売ったものが不要になってからの処分まで事業領域を広げれば顧客との接点が増える。引き取りの品物のリサイクルコストは同社の持ち出しになるが、顧客ロイヤリティを高めることは長い目で見ればプラスになる。コロナの感染拡大が収束傾向にあるとはいえ、百貨店への来店頻度が減る中、顧客との関係性の強化は大きな課題である。

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