2022年春夏のファッションウイークは、いよいよパリへ。リアルとデジタルが入れ混じるコレクションがスタートしました。欧州駐在スタッフによるパリ現地からの生のリポートとともに、日本の編集部からもデジタルでパリコレに参加し、レビューをお届けします。
「竜とそばかすの姫」で二次元と三次元の交錯に挑戦した「アンリアレイジ」
「アンリアレイジ(ANREALAGE)」は今季、細田守監督の映画「竜とそばかすの姫」とコラボ。“DIMENSION”をテーマに、同映画内に登場する仮想世界「U(ユー)」を舞台にコレクションを発表しました。「U」の世界ではのちにNFTとして販売するというデジタルコレクションを披露。「アンリアレイジ」が提供したCGモデルを細田監督率いるアニメ制作会社、スタジオ地図が映画で使った「U」の世界のCGモデルに入れ込んだそう。
カメラが引くとそのまま巨大なスクリーンが設置された現実世界のスタジオにシームレスに移動します。スタジオではデジタルコレクションと同じポリゴンで構成された服をブランドのアイコンであるパッチワークで表現した服を発表。「アンリアレイジ」がこれまで追求してきた現実と非現実の交差を、今回はアニメーションという画面の中の二次元の世界とファッションショーという現実の三次元の世界との交錯を通して表現しました。
森永邦彦デザイナーはメイキング映像で「パッチワークは平面でやってきたが、それを今回ポリゴン状のパッチワークに変えたことで立体にした。今回はパッチワークを一切縫い合わせず、圧着でさまざまなテキスタイルを一つの立体として構成していく手法をとった」と、服作りにおいても平面(二次元)のものを立体(三次元)に見せる今回の試みを説明。パンデミック以降に発表したコレクションで人を守る結界という意味で用いてきた三角形のモチーフは、今回は全て三角形で形作られたポリゴンとなって登場。パッチワークに使ったテキスタイルも2シーズン前のコレクションから使っている抗ウイルス加工が施された素材「フルテクト(FLUTECT)」を使用しました。さらに、時間軸も交錯させるという意味で古着のデニムを解体してポリゴン状にして再構築。過去のシーズンで発表した技術を活用し、反射によってポリゴンのそれぞれの面が色を変えるルックもショー終盤に登場しました。
今回の「アンリアレイジ」と「竜とそばかすの姫」のコラボレーションは、同ブランドが主人公すずのアバターで「U」の世界の歌姫ベルが劇中で着用した衣装のデザインを提供したことがきっかけ。細田監督は映画内でのコラボについて「映画の設定だからとかデザインが素晴らしいからということを超えた、美しさの表現としてすごく面白い相乗効果があったと思う。映画で起こったことがパリコレでさらに発揮されるんじゃないかとわくわくする」と振り返ります。ショーのラストは映画のラストシーンと同じく、ベルがくじらの背中に乗ってコンサートを行っているシーンでしたが、彼女が着用していた服は「アンリアレイジ」。映画では手を広げると同時に花が舞うシーンでは、花の代わりにパッチワークが舞い、光を反射して輝くドレスに変身しました。
細田監督は西洋的な美的価値観に同じく挑戦する者として「アンリアレイジ」に親近感を抱いているよう。「ヨーロッパが世界中の美を定義づけてきて、僕らはその価値観の中の多様性として勝負を挑んでいる。分野は違うがパリコレやカンヌ国際映画祭、アメリカのアカデミー賞など、同じようなものを相手にしているという点においてシンパシーを持って頑張っていきたい」とコメントしました。
配信はNTTが提供するVR空間プラットフォーム、ドア(DOOR)で行いました。ドアの世界では、コレクションをほかの鑑賞者のアバターと一緒に鑑賞できる部屋や、デジタルコレクションを間近で見れる部屋を設置。12日からは、新作アイテムをオーダーすることができるVRショールームも開設するそうです。
これまでもそのテクノロジーやユニークなアイデアでわれわれを驚かせてきた「アンリアレイジ」だからこそ、アニメーション世界との共演、VR空間での発表、NFTの発売などといったデジタルの世界に難なく入り込み、全く違和感なくやってのけてしまいました。パリ現地のブランドの多くはリアルショーに切り替えていますが、「アンリアレイジ」のようなデジタルの世界と相性が良いブランドは、デジタルショーに挑戦したことで得たものをこれからの表現にも是非生かしてほしいです。