ファッション
連載 You’d Better Be Handsome

まだ、あなたが知らないニューヨーク最新トレンド 自分のためのランジェリー市場

New Definition of Intimates

 ニューヨークのファッション業界で活躍するクリエイティブ・ディレクター、メイ(May)と、仕事仲間でファッションエディターのスティービー(Stevie)による連載も第20回を迎えた。“You’d Better Be Handsome”では、セレブ情報に敏感なレイチェル(Rachel)も加わって、ニューヨークのトレンドや新常識について毎回トーク。今回は、カーダシアン家も乗り込んできた下着のマーケットについて語り合う。ランウエイでブラはもちろん、胸を出して歩いているモデルは多いが、街中でも半裸で歩く人々が増えているように見える。コロナでのお家ごもりの反動も手伝って、過激なランジェリールックが目立つニューヨークからリポートする。

 久しぶりにレストランでのランチを楽しむことになった今回は、ヘブライ語で野外市場を意味する、地中海料理レストラン「シュカ(SHUKA)」をチョイス。ソーホーにあるこの人気店は、今年7月チェルシーに2号店もオープンしたばかり。ニューヨーカーのみならず観光客からも人気があった「ハンドレッドエイカー(Hundred Acres)」の元シェフが提供するメニューは、肉5種から選べるケバブや色鮮やかなビーツのフムスにファラフェルなど、本格的かつモダンなツイストが施されている。
38 MacDougal St, New York, NY 10012 (212) 475-7500

制限付きで、NYCが続々オープン

スティービー:ファッションショーはもちろんだけれど、国連会議、ブロードウェイの復帰、ニューヨークシティバレエ、全てバーチャルではなくリアルに戻った秋。ニューヨークもフル回転だね。

メイ:これまで入国できなかった中国、インド、イギリス、ヨーロッパ諸国からも、11月初頭からはワクチン済みの人に限り、入って来られるようになると発表されたし。これからは海外からの観光客も戻ってくるかな?すでに街はちょっと前に比べて何倍も混んでいるように見えるけど。がらんとしていたころが懐かしくもある今日このごろ。

レイチェル:今回のファッションショーは、事前に、または入口でワクチンの接種証明を見せないといけなかった。レストランやジム、野球観戦やコンサートでも見せないといけない世の中だから、当然と言えば当然なんだけど。ヘアやメイクアップアーティストも、バックステージの仕事を受ける際に、ワクチン証明を提出しないといけない。

スティービー:そういえば、9月13日にはファッション界のオスカーと呼ばれるメットガラ(MET GALA)も、2019年5月ぶりに開催されたね。海外勢は少なかったとはいえ、アメリカのファッションを取り上げた“イン・アメリカ:ア レキシコン・オブ・ファッション(IN AMERICA: A LEXICON OF FASHION)”というテーマの元、出されたレッドカーペットのお題は、“アメリカのファッションを、モダンに表現する”とだった。

レイチェル:共同ホストに、若手俳優人気ナンバーワンのティモシー・シャラメ(Timothee Chalamet)、歌手のビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)、テニス選手の大坂なおみ、バイデン大統領の就任式で詩を詠んで一躍時の人となった詩人でアクティビストのアマンダ・ゴーマン(Amanda Gorman)という、異なるバックグラウンドの20代を4人そろえて話題になった。 

変化するランジェリールック

メイ:メットガラでは、半裸のようなスタイルのセレブリティがたくさんいたけれど、ようやく対面授業が始まった高校や大学でも、ランジェリーを“服”として着る学生も多いのだとか。

スティービー:以前から下着の一部を見せるようなスタイルはあったけれど、どんどん下着と服の境界線がなくなっているってこと?

レイチェル:ニューヨークにある美大の講師をしている友人から聞いた話だけど、ファッション科の生徒は前からそういう感じだったけれど、最近では建築学科やテク系の子たちまで、ランジェリーアイテムを隠すものではなく“見せる”ものとしてコーディネートしているらしい。

メイ:ヨガウエアとかランニングウエアでも、ブラトップとか街中で普通に見かけるしね。しかもスタイル抜群の人たちばかりじゃなくて。堂々としていていいことだと思う一方で、ときどきドキっとするのは私の感性が古いからか?

レイチェル:ボディー・ポジティブな広告やビジュアルが増えたこともあるけれど、そもそもアメリカのZ世代って、子どもの時から前の世代に比べてもっと自由に、多様な価値観に触れて育ってきているっていうのも大きいかも。

スティービー:最近は仕事で受け取るメールのシグニチャーにも、名前の下に、メールアドレスやウェブサイトなどと一緒に、He/Him/His、She/Her/Hers, They/Them/Theirsなど、ジェンダーや見た目に関わらず、どの代名詞で自分のことを表現してほしいか、書いてあることが多くなった。モデルエージェントなどは特にそう。

メイ:新学期ということもあって、学校の先生たちも、どの代名詞で呼んでほしいのか確認するケースが増えているという話。いいこともたくさんあるけど、これも毎年変化していきそうな気がする。

レイチェル:さっきの美大の話だけど、男子生徒にもブラにスカートで通学してくる子もいるらしい。トランスジェンダーというわけでもないのに。

“マイコンフォート”を探して

メイ:そもそも、ランジェリーとアンダーウエア、インティメーツ、いろいろ呼び方はあるけれど、最近はどれが主流なのかな?ランジェリーというと、レースを取り入れた繊細なブラや小さなパンティーを想像するけど、最近はもっと服みたいというか、スポーティーな感覚のデザインもたくさん市場に出ている。

スティービー:このパンデミック中にも、外に出るわけでもなくても下着は売れているという話は聞いていた。キム・カーダシアン(Kim Kardashian)のインティメートライン、「スキムス(SKIMS)」は2019年にローンチし、20年度の売り上げは1億4500万ドル(約158億円)、今年は約2倍の3億ドル(約327億円)に到達するだろうと言われている。パンデミックで素材調達に苦労したようだけれど、それでもすごい成長。

レイチェル:「スキムス」は “シェイプウエア”というカテゴリーらしいけれど、ちょうどいいタイミングでスリープウエアやラウンジウエアも提案したことも勝因だったのかも?苦しまずに着られるシェイプウエアということで、リピーターが多いと言われている。体を締め付ける下着って、いまの人たちには受け入れられないと思うよ。ファッションだって、コンフォートがいちばん、だから。

メイ:新しいブランドもここ数年で増えたよね?特にD2C(Direct To Consumer)系など、オンラインショップやインスタで広告を打って、そのまま販売に繋げるようなブランドが目立つ。一昔前は、デパートのランジェリー売り場まで足を運んで買ったり、その後もランジュエリーのセレクトショップ、ブランドの下着売り場で買ったりするのが主流だったけど、そういう買い方をしている人はもはや少数派?そういうデパートや売り場もあまり残っていないし。

スティービー:最近、広告でもよく目にするのが「サードラブ(THIRD LOVE)」や「カップ(CUUP)」、「ネガティブアンダーウエア(NEGATIVE UNDERWEAR)」など。ヌードに近い、体の一部のようなデザインが主流。ランジェリーが持つ独特のセクシーさみたいなのを売りにしてない。以前の「ヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA’S SECRET)」のようにセクシーさを全面に打ち出す、といったスタイルは古臭くさえ感じる。

レイチェル:長年ランジェリーマーケットのお手本となっていた「ヴィクトリアズ・シークレット」が同じようなルックスのモデルばかり起用したりしてさんざん叩かれたことは記憶に新しい。今年の春に発表された新生「ヴィクトリアズ・シークレット」では米国サッカーチームのキャプテンでレズビアンとして知られるミーガン・ラピノー(Megan Rapinoe)、インド出身の女優プリヤンカー・チョプラ(Priyanka Chopra)、サイズ14モデルのパロマ・エルセッサー(Paloma Elsesser)などバックグラウンドも体型も大きく異なる7人の女性を「VS コレクティブ(VS COLLECTIVE)」として選出。彼女たちはモデルではなく、アンバサダーとして意見をシェアし、コンセプトやデザイン、コンテンツを作り上げていく役割を担っている。

スティービー:ニューヨークでも何度も開催された「ヴィクトリアズ・シークレット」の豪華なショーも過去のものだね。リアーナ(Rihanna)やジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)がパフォーマンスを披露し、スーパーモデルが次々にランウェイに登場してくる姿はエンターテインメントとしては面白かったけど、男性を喜ばせるツールとしてのランジェリー、という位置付けだったのは確か。もちろん男性ならみんな喜んだわけではなく、そういうステレオタイプを築き上げていったブランドマーケティングだったってことだね。

メイ:9月のニューヨーク・ファッション・ウイークでは、「VS コレクティブ」にも選ばれているパロマ・エルセッサーのようなプラスサイズのモデルがランウエイでも活躍していた。ちょっと前から、黒人モデル、アジア人モデルの数もどんどん増えてきているけれど、プラスサイズモデルも欠かせない要素になってきている。

スティービー:ミーガン・ラピノーは、この夏から、資生堂の“アルティミューン”の顔にもなった。歌手の宇多田ヒカルと一緒に広告に出ている。ミーガンはサッカー選手としてはもちろん、女子サッカー選手の給与を男子選手と同じにするように要求するなど、アクティビストとしても注目されている人。スタイルもあるし、「ハーパーズ バザー(HARPER’S BAZAAR)」の7月号のカバーにもなっていたね。

レイチェル:ただこれまでの「ヴィクトリアズ・シークレット」の客がこのコンセプトに共感したり、新しい客層が増えたりするのかというとどうかな?私はサッカーしているミーガンは応援しているけど、彼女の意見が反映された「ヴィクトリアズ・シークレット」のブラを買いたいかは分からないな。今は本当にいろんな選択肢があるし、その中で以前からあるブランドが立ち位置を変えて戦っているのは大変そう。

メイ:大きく変わったのは、以前は理想のランジェリーに自分の体を合わせていたとしたら、今は種類もサイズ展開も豊富になって、自分が求める下着が自分の体に合わせてくれるようになった、という感覚。買う側に合わせるという、当たり前のことのようで当たり前じゃなかったコンセプト。

Z世代のニーズに応える

スティービー:Z世代に人気なのはどういうブランド?その前の世代よりも、自分たちの体型を受け入れ、好みのスタイルを自由に選びたいという欲望が強い気がするけど。そもそもセクシーの定義も違う気がする。

メイ:この世代に限ったことではないけれど、米国と英国のブラの売り上げ傾向を見ると、すごい勢いでブラレットが伸びているらしい。ブラレットって柔らかくって気心地はいいけれど、サポート力はほぼないに等しい。胸を大きく見せたい人や胸の位置を上げて見せたい人には無意味なアイテムだから、そういう要求が減ってきているということかも?

レイチェル:最近のポップスターとかも胸をそこまで強調している感じはしない。キム・カーダシアンやカイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)といったカーブのある体をアピールしているセレブリティーも、体のメリハリを強調していて、胸も大きいと言えば大きいけれど、ヒップに対しては特に胸が大きいわけではないと思うし。もちろん、どのパーツも大きいんだけどね。

スティービー: Z世代に限らないかもしれないけど、サステイナビリティを考慮しているかどうかも選ぶときに大事なポイントだよね。Z世代に人気を誇る「パレード(PARADE)」は、ウェブのトップページに、リサイクル素材を使っていることを強くアピールしている。

メイ:ニューヨークのコロンビア大学の学生が2019年にスタートしたブランドで、最初からメガネの「ワービー・パーカー(WARBY PARKER)」の創設者や、ベッドマットレスのデリバリーで知られる「キャスパー(CASPER)」やら、スーツケースの「アウェイ(AWAY)」の創設者も出資しているらしい。

レイチェル:「パレード」は、カラフルさに目が行くけど、売りはやっぱり着心地よね。今売れているのって結局は“ソフト”“ライト”“ワイヤーレス”“ストレッチ”といった形容詞が付いているプロダクトだから。

スティービー:下着の総売上は、女性のアパレルの売り上げの約6%と言われていて、22年には世界的に見て2500億ドル(約27兆円)に到達するらしい。まだまだ伸びる可能性はありそう?

メイ:そういえば今年8月にカイリー・ジェンナーが「カイリー・スイム(KYLIE SWIM)」を発表している。型数はまだまだ少ないけれど、ここからランジェリーに発展していく可能性はあるし、このスイムウェアというかビキニトップを普通に街で着る人も出てきそう。

レイチェル:「カイリー・スイム」のサイズ展開はXS〜XL。XLはサイズ14-16対応だから、かなりのプラスサイズでもOKということね。最近服のサイズ展開が少ないと、これもまた叩かれるから。

スティービー:ターゲットを絞って商品展開しているブランドもあるようだね。ビヨンセ(Beyonce)やリッゾ(Lizzo)のお気に入りとして知られているイギリスのブランド、「ヌビアンスキン(NUBIAN SKIN)」は最初から黒人女性と男性をターゲットとしている。もちろん黒人じゃない人が買ってもいいわけだけど、特有の体型があったり、似合う色があったりするわけで。

メイ:「ヌビアンスキン」をはじめ、「カップ」や「サードラブ」なども型を絞り込んでいる。その中からお気に入りが見つかれば、それをずっと買い続けるイメージ。ときに色違いや型違いを試しながらも。そして売れ筋は、ヌーディーな色らしい。圧倒的にベージュやアイボリー、ブラウン系が売れている。

スティービー:ランジェリーに限ったことじゃないけど、ターゲットを絞る、というのが成功しているビジネスの大きな鍵。できるだけ多くの人たちにアピールしようとすると、こんなに多様化が進む世の中では、結局たくさんのものを作って、たくさん物が残る結果になりがち。自分の顧客をよく理解し、リピーターにさせることがマーケティングにおいても大事。そこからもちろん広がっていけばベストで。

レイチェル:Z世代に絶大な人気を誇るブランドとしては、「エアリー(AERIE)」もあるよね。言わずと知れた「アメリカンイーグル(AMERICAN EAGLE)」のアンダーウエア部門だけれど、独立したショップもあって人気。14年に新製品や新店舗に関しての包括的な広告キャンペーンを実施。ある意味どこよりも早く、インクルーシブなコンセプトを打ち出して大成功。当時はリタッチしないなんて衝撃的だった。

メイ:今のプラスモデルほどではないけれど、決して細くないモデルがソーホーのビルボードに登場して新鮮だった。さっきチェックした「パレード」のウェブには、ちょっとリタッチしたくなるようなセルライトやホクロとかもあったりするけど、そういう完璧ではない要素を無理に消したりしないってこと。

女性視点の下着

スティービー:モデルのミランダ・カー(Miranda Kerr)と下着の広告のキャンペーンを撮影したことが何度もあるけれど、彼女も10年遅かったら「ヴィクトリアズ・シークレット」の“エンジェル”にはなれなかったかもね。

レイチェル:他のアクティビズムを通して“アンバサダー”になる道はあったかもしれないけど。

メイ:だけど、今後セクシーなデザインがなくなるわけじゃないと思う。やっぱりレースだの、刺しゅうだの、そういうランジェリーを着けたい気分のときってあると思うし。コットンパンツにも種類があるわけで。

レイチェル:そのときの気分や、その人のスタイルで選べられるのが理想ね。リアーナの「サベージXフェンティ(SAVAGE X FENTY)」はかなり際どいデザインだけど、売れているみたいだし。ある程度のセクシーさを着こなす自信みたいなのも、いまのZ世代は持ち合わせているし。素材ははっきり言ってよくないけど。

メイ:そういえばテレビシリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ(SEX AND THE CITY)」で人気になった「コサベラ(COSABELLA)」も今振り返ると、それまでのランジェリーに比べてぐっとカジュアルなデザインで新鮮だった。伸縮性のあるレース素材中心で。このブランドも、今の市場に合わすために、最近大リニューアルしているよ。

スティービー:ロゴもアップデートされているけど、何よりもモデルの体型に幅が出た、という印象かな。

レイチェル:以前はもっとセクシーさを前面に出していたけれど、いまは健康的なイメージ。そもそも女性が必需品として着るランジェリーが必要以上にセクシーである必要もないし。一言で言って、もっと女性目線でデザインされるようになった、ってことではないかな。以前の「ヴィクトリアズ・シークレット」にしても、女性が考える男性に喜ばれる視点からデザインされていたという印象。当時はそんなのばっかりだったから、あまりに気にならなかったけど。

メイ:数年前までは、ランジェリーショップとかに行くと、ランジェリーをプレゼントとして購入しようとしている男性が結構たくさんいたという記憶が。一人で買いに来ている男性も普通にいたけど、女性と一緒の場合も。ときには隣りの試着室でいちゃつくカップルまでいたりして、落ち着いて買い物ができなかったことも。そういう意味では、ネットで購入して、自宅でゆっくり試着できるようになってありがたい。

スティービー:そもそも女性のランジェリーは男性を喜ばすツール的なマーケティングがメインストリームだったからね。ほんの最近までは。

メイ:ブラはフェミニズムと切り離せないアイテム。女性が自愛を手に入れる度にブラも変化していくってことね。

メイ/クリエイティブディレクター : ファッションやビューティの広告キャンペーンやブランドコンサルティングを手掛ける。トップクリエイティブエージェンシーで経験を積んだ後、独立。自分のエージェンシーを経営する。仕事で海外、特にアジアに頻繁に足を運ぶ。オフィスから徒歩3分、トライベッカのロフトに暮らす

スティービー/ファッションエディター : アメリカを代表する某ファッション誌の有名編集長のもとでキャリアをスタート。ファッションおよびビューティエディトリアルのディレクションを行うほか、広告キャンペーンにも積極的に参加。10年前にチェルシーを引き上げ、現在はブルックリンのフォートグリーン在住

レイチェル/プロデューサー : PR会社およびキャスティングエージェンシーでの経験が買われ、プロデューサーとしてメイの運営するクリエイティブ・エージェンシーで働くようになって早3年。アーティストがこぞってスタジオを構えるヒップなブルックリンのブシュウィックに暮らし、最新のイベントに繰り出し、ファッション、ビューティ、モデル、セレブゴシップなどさまざまなトレンドを収集するのが日課

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