「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」は東京・南青山の本社オフィスで2022年春夏コレクションのランウエイショーを開催した。会場は、ランウエイを取り囲むようにパイプ椅子を並べただけのシンプルな空間だ。
デザイナーの川久保玲は、「凝った生地づくり」や「複雑な色の表現」「身体を綺麗に見せるためのパターン」「服を主張するディテール」、最終的には「服作りの意図」さえ「今不要に感じる」という。新型コロナウイルスが背中を押して社会には新しい価値観が芽生え、ファッション業界では「作りたいものを作る」「望まれるものに応える」というシンプルな考えが改めて広がっている。結果「メーンコレクションの端境期のための膨大なコレクション」や「主役の洋服を引き立てるためだけの脇役の洋服」などを再考する考えが広がっているが、「コム デ ギャルソン」はそんな考えをさらに押し広げた印象だ。
コレクションは、川久保の本能や自然の摂理など、本当に尊重すべきものだけに思いを馳せ、その思いに導かれるがままに直感的かつ即興的に形にしたような洋服で構成された。
花弁や、川の流れにより丸みを帯びた石のような曲線主体とするフォームを、ネオプレンのようにハリのある生地や、その下に仕込む幾重にも重ねたチュールなどで具現化していく。ダルマやミノムシのような主体となるシルエットが完成すると、今度は必要と感じた場合だけ袖のようなパーツをプラス。ただ、そのパーツはあくまで作りたい形を追求するためのものだ。“当たり前”のシルエットや、洋服として成立するための機能までゼロベースで見直し、不要と感じたら意識しない。そんな思考が見て取れる。
のせる柄は、花や葉っぱ、リボンなどの共感性が高いモチーフか、水玉模様や千鳥格子などの“当たり前”なもの。ここにもアーティストとコラボするなどの余計な思考は存在せず、使いたい柄を、使いたい場所に、使いたいように使うというシンプルな考えが存在する。
結果生まれたコレクションは、とても“オーガニック”だった。黒が主体なのに畏怖を伴う重苦しさは存在せず、巨大なのに威圧するような圧迫感も覚えない。見たことない造形なのに、“正解”を探るよう強要されているような気難しさも感じない。唯一無二なのに、素直に受け入れられる。そんな存在に仕上がった。
それは、彼女が追い続ける「強さ」の、これまでとは違う「強さ」だろう。圧倒せずに存在できるーー。それこそ「強い」と思わずにはいられなかった。