「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」の洋服は、コロナ禍で顕在化したリラックスムードや、2022年春夏シーズンに多くのデザイナーが表現している「希望」とは一線を画している。二宮啓が追求するのは、洋服からはかけ離れた素材さえ使うことを厭わないくらいの気概に満ちた圧倒的な迫力や造形美、そして、「命さえ賭しているのか?」と思わせるほどの熱量。それらはいずれも、そのままでは、肩肘貼らないリラックスムードが重要で、「いつでも」「どこでも」「誰でも」着られるタイムレスなアイテムが価値を帯び始めた現代にそぐわない。
今シーズンのクリエイションは、そんな危惧を意識しつつ、跳ね除けてもいる、そんな風に思えた。
過去のコレクションのように、サボテンのようなトゲやハリ、スパイクが飛び出している洋服は少なくない。前シーズン(「ノワール ケイ ニノミヤ」の圧倒的に異質な存在感 ステンレスで仕立てた白ユリドレス)同様、メタルヤーン(金属の糸)と言うよりもメタルスティックをメタルボールでつなぎ枠組みだけを作ったような“作品”も登場する。同じく、半年前に発表したステンレスの繊維をふんだんに用いたのであろうハリネズミのようなスタイルも登場する。引き続き積極的に用いる異素材は、独自の進化の過程であり、ファッション業界全体を前に進めるための1ステップでもあり、世の大勢に反旗をひるがえすかのような別の選択肢のようにも思える。
一方で、半年前はブラック&シルバーで無機的で硬質的、冷たい印象をもたらしたカラーパレットは、ゴールドやエクリュ、亜麻色などに転じた。リネンのような素材も登場し、“人肌のぬくもり”が通っているように思える。チュールをふんだんに重ねた洋服は、それぞれのパーツをハーネスで体に纏わせているのにどこか優しい。今シーズンはPVCにハトメを打ち、そこにオーガンジーを通すことで柄を描いたドレスなども登場した。カラーパレットの影響だろう。想起する言葉は、「迫力」よりも「クラフツマンシップ」だ。