中国の美容市場の拡大、訪日インバウンドの消滅などを背景に、多くの日本ブランドが中国進出を狙う。しかし現地に行くことが難しい中で市場に適した商品や売り出し方、販路などを知り、中国本土にブランドを拡散させることは簡単ではない。その中で、在日中国人の存在感は強まっている。
コロナ禍以前も在日中国人はソーシャルバイヤーや在日KOL(Key Opinion Leader)として、中国本土に日本の商品や名所を紹介してきた。その発信により知名度を上げ、インバウンド消費にもつながったケースは少なくない。パンデミック以降は中国本土では海外商品の輸入消費が高まっており、日本から発信する在日中国人の存在は中国消費者、日本ブランド両者にとって貴重となっている。
銀座ステファニー化粧品は7月、在日中国人女性5人を招いた商品体験会を実施した。参加者はアライドアーキテクツのサポートで招待したソーシャルバイヤーたちで、化粧品を中心に8〜13年と長いバイヤー経験を持つ。こうした商品体験会はコロナ以前からさまざまな中国進出ブランドで行われてきたが、今回は中国進出が決まる前の開催だ。
同社は2012年に韓国の大手消費財メーカーのLG生活健康(LG HOUSEHOLD & HEALTHCARE)の傘下に入っており、コロナ以前は銀座の本社1階でLG生活健康の「后(THE HISTORY OF WHOO)」などを中心にインバウンド向け免税販売を行い、月に1億円程度を売り上げていた。新事業開発部門・島田雄一郎ゼネラルマネージャー(GM)代行は「会社としてはインバウンド減少で売り上げが落ちた。これまで日本商品を購入するインバウンドを見てきたので、中国本土には日本の商品を欲しい人が今でもいるのではないかと考え、銀座ステファニー化粧品としても中国市場へのチャレンジを検討した」と話す。スモールテストの形で、今年度は大きな予算をかけずに実施する考え。そのため、まずは感触を確かめるのが商品体験会の目的だ。
商品体験会では3ラインの商品の説明を行なったが、重点を置くのはバイヤーからの意見だ。バイヤーの一人は「中国で求められる日本製品は2つの特性を持っているもの。1つはストーリーがある商品で、ブランドのストーリー性か商品のこだわりがあれば語ることができる。2つ目は機能性で、何かに対して明らかに改善ができるもの」と語る。
実際、商品体験会でバイヤーから飛んだ率直な意見もこの2つに関するものが多かった。日本では人気の高い「エバメール ゲルクリーム」やシリーズ販売実績1000万個を超えるベストセラー「プラセンタ100」に対してデータを用いた効果の実証、多機能性など、中国基準では足りない部分を求める意見が出た。
一方、プラセンタを使用したプラセンティスト(PLACENTIST)ラインは好感触で「手頃なのに高級感があり、中国人が好むアイテム」など、具体的な中国客の好みもバイヤーから伝えられた。商品体験会という名ではあったが、開催時間の半分以上はバイヤーが意見を出すか、質問をする時間となっていた。島田GM代行は体験会直後、「日本の消費者とは受け止め方が違うと感じた。バイヤーの反応からアイテムの絞り込みや口コミの展開、商品販売を行っていく」と語ったが、8月半ばにはウィーチャット(WeChat)のミニプログラムで日本製品を販売する東瀛美喜舗で販売を開始。品揃えは体験会で用意した商品で「今のところ反響のあるアイテムなど傾向が分かってきているが、改善点や課題はまだまだあるので、今後も継続して取り組んでいきたいと考えてている」という。
また、9月からは「プラセンティストクリーム」のサンプリング施策を行い、在日中国人を通じて小紅書(RED)、ウィーチャット上で口コミ投稿を増やす。ウィーチャット上で販売をしていることに加え、バイヤー同士がウィーチャットで拡散しやすい素材を作るのがウィーチャット口コミ施策の目的だ。配布する「プラセンティストクリーム」は商品のテクスチャーや高級感のあるパッケージが体験会で人気だったこと、また内容成分の霊芝(レイシ)が高評価だったことで、予算を使った施策を行う対象となった。霊芝は近年、中国内で人気が高い成分のひとつで、SNS上でも投稿が多い。まずは月100万円以上を半年以上、安定して販売することをスモールテストの合格ラインとし、達成できれば来年度はさらに予算を取る計画だ。
このように、中国消費者の意見を得て改善していく方法は進出以前にもある。市場と消費者理解を深め、仕掛けていくことが重要だ。