アメリカのテレビ界で最高の栄誉とされる第73回エミー賞の授賞式が9月19日(現地時間)にロサンゼルスで開催され、大勢のセレブリティーが集まりました。レッドカーペットも復活。来場者が思い思いの装いを披露しました。フォーマルな印象が濃かった過去のレッドカーペットに比べ、リアルトレンドに寄った装いが多くなっているのも近年の傾向です。来場セレブの着こなしは、秋冬のスタイリングの見本帳のよう。今回は3つのキーワードを軸に、普段の着こなしに生かすアレンジ術を紹介します。
キーワード1:コージー ゆるいシルエットはエレガントに着こなす
最初のキーワードは“コージー(Cozy)”。「居心地のよい、くつろいだ」の意味ですが、モードの世界ではゆったりしたシルエットの装いを指すようになってきました。でも、ぐだぐだに脱力するのではなく、エレガントに着こなすのがレッドカーペット流です。
テレビドラマ「ザ・クラウン(The Crown)」でダイアナ元妃を演じたエマ・コリン(Emma Corrin)は、体のラインが出ない、ゆるっとしたドレスで来場。裾に向かってドレスの幅が広がり、ボディーを締め付けないストレスフリーの装いです。曲線美やめりはりを重視していたかつてのセレブドレスとは真逆ですが、ロンググローブを合わせることでレディーな雰囲気を演出しています。意外性のあるピースを盛り込むのも、レッドカーペットならではの“お約束”。髪全体を包み込み、あごにまでかかる帽子はモード界で注目を集める新顔アイテムです。全体をワントーンでまとめ、ストンとした落ち感を帯びたドレスののどかな印象を引き立てています。
オーバーサイズは、もはや定番的なフォルムとして定着しつつあります。これまでのレッドカーペットはボディーラインを強調するジャストフィットのドレスが主役でしたが、近ごろはその常識も一変。ただし、だらしなく見せないアレンジが新ルールです。
女優アニー・マーフィー(Annie Murphy)がまとったのは、ガウンライクなドレス。袖先が余り、裾も床を引きずるオーバーサイズ加減は、かつてのレッドカーペットではありえなかった着こなしです。あちこちがたるんだリラクシングなシルエットですが、正面に2カ所スリットが入っていて、ほのかにセンシュアル。バスローブ風でありつつ、フェミニンさも忘れないさじ加減が巧みです。ゆるさとフェミニンさを掛け合わせた新たなレッドカーペットのスタイリングといえるでしょう。
キーワード2:ジェンダーレス パンツスーツはドレッシーに着こなす
“レッドカーペットはゴージャスなドレス”というお約束は、もう昔の話。今回のエミー賞では、パンツルックがあちこちで見られました。追い風になったのは“ジェンダーレス”の流れ。パンツスーツをドレッシーに着こなすセレブたちは、性別を軽やかに飛び越え、魅力的な装いを見せてくれました。
女優のレスリー・グロスマン(Leslie Grossman)が選んだのは、ダブルブレストのダンディーなジャケットと、70年代のムードを帯びたフレアパンツのセットアップ。トレンドのセブンティーズをパンツスーツで取り入れ、凜々しさとヒッピー感を同居させました。ジャケットのフロントと袖のまばゆいビジューが、華やかさを添えています。
お仕事ルックで見慣れたパンツスーツとの違いは、シルエットと素材感です。主張を控えるのがオフィスコーディネートでの基本ですが、レッドカーペットでは話が別。シルエットは細身かワイドの両極端にシフト。素材でつやめきやグリッターをまとうのが、セレブならではのチョイスです。
俳優トム・ハンクス(Tom Hanks)のパートナーとしても有名な女優リタ・ウィルソン(Rita Wilson)は、スリムなシルエットの黒のタキシード風パンツルックで会場入り。全体にちりばめられたラメがあでやかでゴージャスな雰囲気を醸し出しています。コンパクトに仕立てたジャケットとパンツのコンビネーションは、クールでスマートな出で立ち。シルバーのネックレスやヌーディーなヒールでグラマラスなムードを薫らせて、リタ流のバランスに整えました。
キーワード3:ファンタジー シンプルなドレスはドラマチックに着こなす
リアルトレンドな着こなしが増えつつも、レッドカーペットらしい特別感を印象づけるのは、やはり非日常のイメージを打ち出した装いでしょう。今回のエミー賞でも期待を裏切らないサプライズルックが披露されました。おしゃれが控えめになりがちな今、こうしたファンタジーな要素は着こなしの大事な味付けになりつつあります。
大ヒットドラマ「9-1-1:LA救命最前線」で人気の女優アンジェラ・バセット(Angela Bassett)は、うねるピンクのラッフルがキャッチーなロングドレスで降臨。ラッフルやフリルなどのロマンチックなディテールは、2021-22年秋冬のトレンドとしても注目を集めています。ドレス自体はミニマルな仕立てでも、華やかなイメージを押し出す切り札的ディテールを取り入れるだけで、ファンタジーな印象が爆上がり。シンプルな服をドラマチックに着こなすお手本となる装いです。
フェザー(羽根)に代表される、ファビュラスな素材やディテールを生かせば、シンプルな服にも特別感を添えられます。特に、付け外しの利くパーツは重宝な小道具。顔周りや裾など、目立ちやすいスポットにあしらうのが賢い使い方です。
女優シンシア・エリボ(Cynthia Erivo)は、膝から下をクジャクのようなフェザーで埋め尽くしました。歩みを進めるたびにリズミカルに躍るフェザーが、真っ赤なカーペットにマッチしていました。見た瞬間、気持ちをときめかせてくれるセレブルックです。こちらもすっきりとしたシルエットのワンピースがベース。ふわふわのマラボーを肩掛けする着こなしでも、似た効果を引き出せそうです。
“コージー”“ジェンダーレス”“ファンタジー”の3つのキーワードをレッドカーペットから拝借すれば、秋冬ルックに程よい格上イメージと、非日常感を注ぎ込めます。これらの要素を、“心地よく”“自分らしく”“ポジティブな現実逃避”と言い換えれば、今の時代に求められるおしゃれファクターとも見えてきます。レッドカーペットを参考に、この秋冬はいつもの着こなしに磨きをかけてみませんか。