その地方ならではの原料や技術を使用する「ご当地コスメ」は国内に数多く存在する。しかし知られているのは一部のブランドで、高い商品力にも関わらず、世に知られていない商品も多い。そうした地方のコスメを発掘して世に広めるのが、エイベックスが行う「J47」プロジェクトだ。
エイベックスの美容事業は2010年に始まったエステサロンから。そこで蓄積したノウハウをより広く提供するため、2014年からエイベックスビューティメゾットとして商品を開発。耳にかける美顔器「イヤーアップ(EAR UP)」やスキンケアシリーズ「ソラオト(SOLAOTO)」、睡眠に着目した美容茶「カルナガーデン(CHALUNA GARDEN)」など幅広い商品を展開する。特にヒットした「ルミナスヘア(LMHR)」シリーズはSNSを中心に話題になり、アマゾンのプライムデーセールでは開始2時間で、「トリートメントオイル」「トリートメントミスト」の1か月分の在庫を完売した。
「J47」は過去にエイベックスが運営したセレクトECが前身。「J47」担当の中山勝代氏は「サロンで扱う優れた商品をオンラインでも購入できるようにとECを立ち上げた。そこで取り扱う商品を探すうちに、世に知られていないが素晴らしい商品に出会い、エイベックスのECだけで販売するのはもったいないと感じる様になったのがJ47発足の経緯」と語る。
全国から選りすぐったアイテムを「J47」のECサイトで扱うほか、大丸福岡天神店など百貨店や台湾のツタヤ ブックストアではポップアップを開催。また自社製品は国内外に販売しており、そのネットワークを活用した販路構築のサポートも希望に応じて行う。「規模を広げて売りたいところもあれば、生産数が少ないため拡大を希望しないブランドある。どう売っていくかはそれぞれ対応を変えている」と中山氏。
2017年の立ち上げ当初は10未満だった取り扱いブランドは、30ブランドまで広がった。最初に惚れ込んだという沖縄の「ちゅらら」や、企画から製造、販売までを2人で行う「リングアベル(RING-A-BELL)」のカメリアオイルなどなかなか出会えない商品も多い。ブランド発掘は展示会での出会いや、地域アンテナショップで見かけたもの、取り扱いブランドの横の繋がりによる紹介などさまざまだ。
地域密着ならではの魅力から驚きの課題まで…知られざるご当地コスメの世界
取り扱いブランドの基準は、その地域ならではの技術や特産品を用いる点だと中山氏は説明する。「地域密着の商品を発信することは、地域を知ってもらうことにもつながる。また地元の生産者が作る原料を使用する、雇用を生むという点も地域活性化につながる点だ」。例えば熊本の地の塩社が作る「よもぎせっけん」は、地域の婦人会によもぎ摘みを依頼しているという。
「J47」ではすべての商品を試し、自信を持っておすすめできるものだけを取り扱う。高いクオリティにも関わらず知名度が上がらないわけを岡村涼氏は「プロモーション力が課題であるご当地コスメが多い」と指摘する。「“餅は餅屋”ではないが、エンタメ会社であるエイベックスがそういったブランドにスポットライトを当てることで、より広げていきたい」。
例えば大分の「オンセンソウ(ONSENSOU)」は、別府で長年温泉微生物研究をする中で発見した新種の温泉藻と温泉酵母を活かした“温泉プロバイオティクス”製品で、その研究開発や商品クオリティにも「J47」がスポットライトを当てた。
商品やブランドのプロモーションには課題も多いが、「新型コロナをきっかけに、改めて地元に目を向ける流れを感じる。以前は九州の商品を九州で売って、買ってもらえるのだろうかという不安があったが、むしろ地元愛を持って注目してもらえるのではないか」。
こう岡村氏が話すのも、自身が地方出身者であることも関係するという。中山氏は京都府出身、岡村氏は山口県出身。「僕は元ダンサーで地方巡業などもしていたし、地方出身なので地元愛を感じる気持ちもわかる。地方の温度感がわかると、先方のやりとりも楽になる」と岡村氏。
ご当地コスメは小規模企業や兼業で生産することも多い。そのため大手と異なる点も多く「連絡が2週間返ってこない、担当者が変わって話が伝わらなくないということはしょっちゅう。音信不通になったり、気がついたら生産停止していたというブランドも少なくない」と岡村氏。全国に広める上では大きな課題になりそうだが、そういった地方の事業者に対応できるのも、「過去にダンサーとして数多くの地方に営業に回ったこと」があり、そうした地方の空気感がわかるからこそ。そうした小さなブランドまで発掘しているのも「J47」の特徴だ。
こうしたブランドをエイベックスがハブとなり、地域間、全国の販売先、さらに開花以外にもつなげている。現在は行政との連携や援助などは受けておらず、地道に活動の輪を広げるが、「将来的には行政や国の機関との連携などもできたらうれしい。そうしてブランドや地域間の相乗効果を生んでいければ」と岡村氏。「J47」という舞台の上でより多くのブランドを輝かせていく。