ワコールと公益財団法人がん研究会有明病院(以下、がん研有明病院)は、乳房再建手術に関する共同研究を行うことを発表した。乳がんの手術により乳房を切除した女性により元の状態に近い乳房再建の機会を与えるのが目的だ。ワコールの3D計測サービス“3D スマート アンド トライ” を用いることで、乳房再建手術で元の乳房に近い状態を再現し、術後の患者の満足度の向上を目指す。
年間約180件の乳房再建手術を行っているがん研有明病院。矢野智之がん研有明病院形成外科部長は、「乳房再建に携わる医師として、どうしたら患者が望む乳房再建を行うことができるかと悩んできた。女性のバストに関してノウハウを持つワコールを組めるのはかねてからの念願だった」と述べた。下山廣ワコール執行役員イノベーション戦略室長は「有明病院から弊社の培った知見に基づいたデジタルサービスが乳房再建の発展に寄与できると話があったときに強い使命感を感じた」とコメント。
現在、乳房再建手術を受ける女性は、全乳房切除術症例の約2割だ。今後「乳房を取り戻して、明るく前向きな人生を送りたい」と願う全ての人が満足のいく乳房再現手術を受けられるように共同研究を推進する。
満足度の高い乳房再建のために“サージカルブラジャー”を開発
研究内容の柱は、“サージカル(手術用)ブラジャー開発”と“3Dボディーデータ×3Dプリント技術を使用した試み”の2つだ。“サージカルブラジャー”は、満足度の高い乳房再建とするため、手術中に“ブラジャー着用状態”の乳房をイメージできるように開発された。乳房再建手術には、腹部や太ももなど自らの組織の一部を移植する“自家組織再建”と、人口乳房(シリコン)を使う“インプラント再建”がある。自家組織再建の手術では、再建する側の乳房の大きさ及び形状を執刀医が確認・判断して行う。ただ術後に、「ブラジャーのサイズが合わない」「ブラジャーのワイヤーが胸に当たって痛い」などの悩みを持つ人もいる。それを解決するために活用するのが、ワコールの“3D スマート アンド トライ”による3D計測及びサイズオーダーブラジャー製造の技術だ。
患者が手術前にワコールの店舗に行き3Dボディースキャナーで計測し、そのデータをもとにワコールが“サージカルブラジャー”を製作。がん研有明病院は、“サージカルブラジャー”を用いて乳房再建手術を行う。“サージカルブラジャー”を使用することにより、ブラジャー着用に適した乳房の大きさや形状を執刀チーム(医師、助手、ナース)が可視化して共有できるようになり、患者にとって満足度の高い乳房再建が可能になる。矢野部長は、「患者が受け身ではなく、積極的に治療に関わることで気持ちが明るくなることも期待できる」と言う。今までに、3つの手術で“サージカルブラジャー”が用いられ、患者からは「ワコールのビューティーアドバイザーにとても親切にしてもらい、気持ちよく計測と乳房再建のためのブラジャーの相談ができた」という声や、「再建後も下着の相談に行ける場所があるのは安心」と言った感想が寄せられている。今後は検証を重ね、がん研有明病院だけでなく、他病院への提供拡大も視野に入れている。
リコーの3Dプリンター技術を活用した“3Dプリントバスト”
“3Dボディーデータ×3Dプリント技術を使用した試み”は、がん研有明病院の医療技術とワコールの3D計測サービス、リコーグループの3Dプリント技術の3つをかけ合わせ、その活用法や可能性を検討するというものだ。その一つとして開発されたのが、乳房を再現した“3Dプリントバスト”だ。この“3Dプリントバスト”は柔らかく、3Dボディーデータをもとに3Dブリンターによって作られている。このように患部や身体の部分が再現できることで、限られた時間内での診療や手術のシュミレーションに活用したり、医療現場におけるさまざまな課題への対応が期待されている。
現在、ワコールは全国18店舗に21台の3Dボディースキャナーを設置している。「今後、3Dボディースキャナーを全国の病院に設置するのは難しいだろうが、ワコールの店舗では100台設置を目指している。それを医療にも活用してもらうことで、社会貢献につながれば」と下山室長は述べた。