4月に新型コロナウイルスによってこの世を去った、デザイナーの故アルベール・エルバス(Alber Elbaz)氏の功績をたたえるメモリアルショー“ラブ・ブリングス・ラブ(Love Brings Love、愛は愛を呼ぶ)”が2022年春夏パリ・ファッション・ウイークを締めくくるイベントとして現地時間10月5日夜に開催された。ショーでは、45ブランドのデザイナーたちそれぞれが、エルバスへのオマージュを捧げるルックを披露。さらに、彼が19年に立ち上げた、あらゆる人に向けて夢のあるファッションを提案するブランド「AZファクトリー(AZ FACTORY)」のデザインチームも、そのビジョンを受け継ぐルックを制作した。
エルバスは生前、第二次世界大戦後にフランスのファッション業界復興のため、多くのデザイナーたちがミニチュアドレスを制作・発表した展覧会「テアトル・ドゥ・ラ・モード(Theatre de la Mode)」から着想を得て、新たなプロダクトやストーリーの制作に取り組んでいたという。今回のショーは、そんな彼のために有名デザイナーたちが協力して実現。驚くのは、ファッション・ウイークを総括するかのような参加デザイナーの豪華さだ。
ミケーレや阿部千登勢も参加の超豪華メンツ
名を連ねるのは、ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)やジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)、ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)といった大御所から、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)や「グッチ(GUCCI)」のアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)、「ヴァレンティノ」のピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)、「ディオール(DIOR)」のマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)、「エルメス(HERMES)」のナデージュ・ヴァンヘ・シビュルスキー(Nadege Vanhee-Cybulski)、「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」のダニエル・リー(Daniel Lee)、ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)、リック・オウエンス(Rick Owens)まで。日本からは、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の川久保玲、「サカイ(SACAI)」の阿部千登勢、トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」の小泉智貴が参加した。
ショーは、エルバスが「AZファクトリー」のためにデザインしたブラックドレスからスタート。彼が「ランバン(LANVIN)」を手掛けていた時代を思い出させる、スポットライトで作る光のランウエイをモデルが歩く。そこからは、「AZファクトリー」のネーミングにちなみ、ブランドのアルファベット順に、デザイナーたちがエルバスに思いを馳せて制作したルックが登場。それぞれが、ピンクやドレープ、ラッフル、ハートやボウ(リボン)のモチーフからハッピーなムード、遊び心まで、彼のクリエイションを象徴する要素と自身のスタイルを融合している。例えば、「ヴァレンティノ」のピッチョーリは、フューシャピンクのファイユを使い、肩にボウをあしらったワンショルダーのイブニングドレスを制作。ラルフ・ローレンによるボウタイをつけて黒縁眼鏡をかけた“ポロベア”など、エルバスをキャラクター的に取り入れた作品には思わず笑みがこぼれる。
赤いハートが舞う愛に満ちたフィナーレ
その後披露したのは、エルバスが「AZファクトリー」で示した “アスレチック・クチュール”の方向性をデザインチームが表現した25ルック。それは、彼の夢が今後も受け継がれていくことを感じさせた。最後に現れたモデルのアンバー・バレッタ(Amber Valletta)が、エルバスをほうふつとさせるスタイルで彼のようにお辞儀すると、フィナーレでは正面の壁を覆う幕が外れ、44体のルックを着たモデルが整列して再び登場した。赤いハートの紙吹雪が舞い、たくさんの人から愛された偉大なデザイナーをたたえた。その空間にあふれるのは、まさに愛とリスペクト。心が温もりで満たされていくような素晴らしいショーで、パリコレのトリを飾った。