「WWDJAPAN」(以下、WWD):本業である「悟空のきもち」の現在の状況は?
金田淳美代表(以下、金田):好調です。予約待ちの人数が毎月5000~1万人のペースで増えていて、現在は約66万人待ちになっています。コロナの影響もさほど受けず、最初の緊急事態宣言の時に1カ月間閉めただけでした。
WWD:創業時と比べて手技は進化している?
金田:“絶頂睡眠”を提供するコンセプトは変わりないですが、より快適な“寝落ち体験”をしてもらうために進化を続けています。施術後のお客さまへのアンケート調査で、「快適に眠れた」という回答の多かった際の手技を検証し、それを全員で共有。さらにその中でも高評価を得たスタッフの手技を検証し……という作業を繰り返すことで常にブラッシュアップしています。独創的なビジネスのため、“正解”が世界のどこにもないので、自分たちで常に正解により近づく回答を探している感じです。
WWD:お客さまアンケートは重要視している?
金田:ものすごく重要視しています。例えば“睡眠をアトラクションとして楽しむ”をテーマに、店舗(フロア)ごとに内装を変え、“タイムマシン”“死後の眠りからの蘇生”といったコンセプトのデザインを施しています。これも、施術後のお客さまアンケートで「(眠りが)タイムマシンに乗っているようだった」「(寝起きが)死後の世界から蘇生したようだった」という回答があったからなんです。
WWD:ここ数年はオリジナル製品も話題になっていますね。まず第1弾製品の“塾睡用たわし”とは?
金田:18年に、“熟睡用たわし”というオリジナル枕を発売しました。公式サイトへの掲載以外に広告宣伝を行っていないにも関わらず、累計5万個を売り上げるヒット製品になっています。最大の特徴は、“毛が放射状に伸びている”というたわしの構造を再現し、少しだけ頭皮を均一にいじめ、快適な眠りを誘うことです。
WWD:考案したきっかけは?
金田:開発のきっかけは、寝具メーカーからオリジナル枕の開発依頼を受けたことでした。こういう依頼の際、先方が求めているのって、既存の製品に少しだけ改良を加えることなんです。中には改良は既にできていて、名前を貸すだけのようなパターンもあります。そういう仕事は絶対に嫌なので、受けるか決められずに、スタッフに案件の共有だけして放置していたんです。そんな時、スタッフとのお喋りの中で「彼氏と喧嘩して、むかついてたわしを枕にして寝たら意外と快適だった」という話を聞いたんです。普通なら笑って終わりの会話なのですが、私は施術の経験から“少し強めに頭を刺激した方が快適に眠るお客さまが多い”と感じていたので、「これは!」と思い製品化に行き着きました。
WWD:“睡眠用うどん”は?ちなみに、編集部にこの製品のプレスリリースが届いた時、エイプリルフールネタかと思いました(笑)。
金田:そうなんですね、真面目に作りました(笑)。布団の全てを否定する“睡眠用うどん”として19年に発売し、話題を呼びました。発売初月に2億円の売り上げを叩き出して、現在までに累計2万5000個を売り上げています。製品の見た目は、巨大なうどんを数本並べて作ったような形状で、それを体に掛けたり、すき間に足や手、頭を挟んだりして寝るものです。開発のきっかけは、ざるうどんを食べながら「うどんの中で寝たい」と言ったスタッフの声でした。うどんを数本並べた構造をよく考えてみると、温度調整機能に優れているうえ、寝姿をいつでも自由に変えられ、“抱き枕”にも“足枕”にもなります。とても理にかなっていたので製品化に至りました。
緻密なデータ分析で夢をコントロール
WWD:“睡眠用しゃぼん玉”は?
金田:ゴールデンフィールドの最新作で、早くも2カ月の予約待ちのヒットアイテムになっています。これは一言で言うと“夢をコントロールして、見たい夢を見るための製品”です。“ジャーニー”(旅行)、“スカイ”(浮遊・飛行)、“チャイルド”(遠い昔・再会)、“ロ
マンス”などの“夢カートリッジ”があり、ランプ型の本体にセットして寝るとしゃぼん玉が膨らみ、カートリッジごとに異なった香りと色彩を放つことで理想の夢を見る確率が高まるという製品です。
WWD:開発のきっかけは?
金田:子どもが生まれたスタッフから、「子どもにしゃぼん玉を見せるとよく寝てくれる」という話を聞いたのがきっかけでした。「本当に良いのかなぁ……」と思って調べてみると、“しゃぼん玉は悪夢を軽減する”と言われていることが分かったんです。毎日数多くの施術を繰り返しているので、お客さまアンケートの中には「悪夢を見た」という回答もあります。そのことに関して「何とかいい夢に変えられないか」と考えていたことに加え、“快適な眠りのためには寝る前に見るものが重要”ということが分かっていたので、「寝る前にしゃぼん玉を見せたら変わるのでは」と思いました。
WWD:そこから検証していった?
金田:そうですね。アンケートで“施術で眠った時にどんな夢を見たか”を細かく聞くようにしました。継続しているうちに膨大なデータが蓄積され、それを分析すると“フロアによる壁色や香りの違いで、見る夢の内容に一定の傾向がある”ことが分かりました。そこで、夢をコントロールできる可能性に気付きましたね。それから壁色や香りを意図的に変え、色ごと・香りごとに見た夢の種類を検証し、夢の系統がどのように変わるかというデータを緻密に取集していきました。そうして得られた結果を、落とし込んで作った製品になっています。
WWD:データが蓄積されるほど夢のコントロールの精度が高まる。
金田:まさにそうなのですが、1つ問題があって、夢を見てくれないとデータの収集ができないし、コントロールとかの問題ではなくなってしまうんです。それで、今は夢を見てもらうための手技を研究していて、だいぶ完成に近づいてきたところです。さらに検証を重ねることで、また違った体験を提供できるようになると思います。
WWD:「悟空のきもち 旅する畳店」は?
金田:お客さまと「悟空のきもち」の施術者を、自動運行する“畳”に乗せて走り(時速3~5km)、景色を見ながら施術を受けられるサービスです。“空飛ぶじゅうたんで眠る”ことを畳で実現した企画ですね。期間限定でよみうりランドで運行して、予約枠が全て埋まるほど好評でした。今後も機会があれば、どこかで運行させたいと思っています。
WWD:考案したきっかけは?
金田:これは関西電力と損害保険ジャパン日本興亜との、“自動運転サービス”に関連した共同プロジェクトです。「自動運転の時に何をしたいですか?」という調査で第1位が「寝る」だったことから、最高の睡眠を提供するために3社で企画しました。「自動運転の最新技術と古い畳を合わせたら面白いね」という話になり、できる限り古い畳を探したところ、栃木の天明鋳物家屋から推定200年以上の江戸時代の畳を頂戴したほか、京都の平安神宮からも頂きました。
WWD:“メロンパンマスク”も驚きの製品。
金田:メロンパン専門店「メロン・ドゥ・メロン」の協力を得て開発した、メロンパン製のマスクです。「悟空のきもち」の実験会社として21年に稼働した、悟空のきもち ザ ラボの企画で、パンを愛する大学生の「パンの匂いをずっとかいでいたい」という発想から生まれた、(おそらく)世界初の食べられるマスクです。SNSでかなりバズりましたね。中身をくり抜くのは手作業で行っているので、あまり大量生産はできないのですが、海外からの注文も多いです。ただ最近は、使わずに食べてしまう方が多いようです(笑)。
WWD:なぜ大学生のアイデアを採用した?
金田:今の大学生は、コロナのせいでずっとマスク生活で、思うように集まることもできず、「せっかくの大学時代なのに……」と思っている人も多いようです。そこで、コロナに負けないユーモアを大学生と一緒に表現しました。彼らにとっては“ビジネス体験”のような感じでしたが、自分たちが作ったものが海外にまで届いて、いい経験になったと思います。
会議なし、事業計画なし、売り上げ目標なし
WWD:次から次へと面白い企画が出てくるが、ゴールデンフィールドの社内制度の特徴は?
金田:現在は社員100人ほどの会社なのですが、一般的な企業にあるべきものが、ほとんどありません。会議なし、事業計画なし、売り上げ目標なし、マニュアルなし、さらには採用面接すらありません。これは「普通の企業にあるべきものを設けないという“縛り”の中で何ができるか」という挑戦なんです。私は“縛り”にこだわっていて、例えばサッカーが面白いのって、手を使ってはいけないという“縛り”があるからだと思うんです。実はゴールデンフィールドの社員は全員女性で、悟空のきもち ザ ラボのスタッフは全員21歳以下なんです。これは“女性だけ”“21歳以下だけ”という縛りの中で、社会にもっと面白いことを提案したいという考えからです。ちなみに、売り上げ目標なないけれど、売り上げは創業以来ずっと右肩上がりです。
WWD:特にマニュアルと採用面接がないのは驚き。
金田:手技のマニュアルもありません。手技のスクールを開校しているのですが、そこでは“1度やったことはやってはいけない”という縛りを課しています。ですので、スタッフは常に新しいものを生み出しながら、手技をブラッシュアップさせていく必要があるんです。採用面接に関しては、創業当初は行っていました。でも面接では“自分を作る”人が多く、ミスマッチが起きていました。それで、思い切って面接を止めて、代わりにオリジナルの心理テストをやってもらうことにしました。“似たような嗜好を持った女の子が集まってビジネスをやる”という縛りを設けて、今では心理テストの結果をもとに採用しています。さらに言うと、退職したいときはLINEでそのことを伝えてくれるだけでオーケーです(笑)。
WWD:製品開発などは誰が行っている?
金田:挙手制で、やりたいスタッフがやる感じです。一般的な企業では、「新規開発プロジェクトを任されたら誰だってうれしい」と考えている人も多いですが、それは男性の思考ですね。女性には、新しいことをやるとプライベートが奪われるので、現状維持がいい人も多いんです。今後も“一般的な社内制度は設けない”という縛りの中で、誰も想像していないことを手掛けていきたいです。