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大迫傑が語る東京オリンピックとランニング人生、思い出の一足

 「100点満点の頑張りができた」――日本の男子マラソンをけん引してきた大迫傑が、8月の東京オリンピックで現役を引退した。一時は先頭集団に話されるも、終盤に2人を抜き、6位に入賞。レース後、涙ながらに胸中を語る姿に心を打たれた人も多いだろう。

 そんな大迫が、スポーツ分野で事業を行う新法人I(アイ)を立ち上げた。アメリカやケニアでの単身練習、ユーチューブでの動画発信、大学のエリート選手を集めるトレーニングチーム“シュガーエリート(SUGER ELITE)”の発足など、枠にとらわれない活動で注目を集めてきた彼は、新会社で何を行うのか。複数メディアの合同取材に応じ、夏のレースや競技生活などを振り返った。
 

――東京オリンピックを一言で振り返ると?

大迫傑(以下、大迫):自分の集大成。インタビューで「100%出し切れた」と言った通り、本当に出し切ったレースで、完全燃焼できました。自分を肯定して競技人生を締めくくれたのは、大きな意味があります。

――引退を決めた理由は?

大迫:多くの選手にとって東京オリンピックは特別な大会でした。言い訳を作れない環境に身を置き、オールダイブするのが一番きれいだと思い、このレースでの引退を決めました。去年から一昨年くらいには考えていましたね。競技人生は、追求すればきりがありません。どこかで物語の終わりを作ることが大切だと思います。

――人生の分岐点は?

大迫:アメリカに行ったことですかね。場所はどこでもよかったけど、自分の世界から一歩踏み出せたことが財産になりました。見えてなかったものが見え始めたし、いろんな人と出会い、刺激を受けて、アウトプットできました。「こんなことが日本でできたら楽しいんじゃないか」と、新しく挑戦したいことも見つかりました。(約半年の合宿を行った)ケニアでは、より削ぎ落とされた環境でトレーニングができ、思考がクリアになり、メンタルがシンプルになりました。これは今にも生きています。

――英語は話せた?

大迫:全くしゃべれませんでした。銀行口座を作るのに5〜6回も通ったし、部屋をかりるのも大変だった。でも、だからこそ、ランニング以外でタフになれたんだと思います。練習や大会は自分の好きなことなのでやり切れるけど、その他の“やらなきゃいけないこと”でも学びが多かったです。

――海外で戦う難しさと、それを乗り越えるために必要なものは?

大迫:フラットな気持ちでいること。考え過ぎたり、計画を練り過ぎたりすると、それに沿った行動しかできません。それよりも、自分がいる場所で、今、何ができるかを考える。出たとこ勝負でもベストを出せる実力と自信を備える。こういったことが必要だと思います。

――2016年のリオ五輪後にマラソンに転向したのはなぜ?

大迫:いずれはマラソンに挑戦したいと思っていて、リオの後に「香川丸亀国際ハーフマラソン」に参加しました。そしたら意外とよく走れて、その勢いのまま「ボストンマラソン」にエントリーしました。初のマラソンだし、そもそも42.195km走れるのか不安もあったんですけど、3位に入って。「もしかしたら、僕の種目はこれかもしれない」と感じました。

――大迫選手の足元は、常に厚底シューズが支えていた。思い入れのあるシューズは?

大迫:ナイキ(NIKE)」の“ズーム ヴェイパーフライ 4%(ZOOM VAPORFLY 4%)”。ボストンではいたシューズだし、厚底シューズが注目されるきっかけのモデル。その後もレースでは厚底ばかりだったので、ストーリーを感じますね。他には、“フライニット”のモデルが出た時は、「アッパーにニットを使うんだ」とびっくりしました。シカゴマラソンは“ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット(ZOOM VAPORFLY 4% FLYKNIT)”で日本記録を出せたし、結構好きでした。

――東京オリンピックで着用したシューズはどこに保管している?記録を出したシューズはしっかりと残しておくタイプ?

大迫:どこにあるかな、絶対に置いてあるんですけど……。探してみます。そういうタイプです(笑)。

――アスリートの教育やマネジメントを行う株式会社Iを立ち上げた。会社名の由来は?

大迫:SNS全盛の今は、主語が“自分”になりづらい時代です。情報であふれていて、何かを決めるときも誰かの考えに影響されています。でも、主語を“I”にすることで、人生はもっと豊かになる。そんな思いを込めています。あとは、競技や社会への“愛”、第一歩という意味も込めています。

――会社立ち上げの目的は?

大迫:僕にしかない立場や視点から、スポーツ界の価値を高めるためです。いろんなことに挑戦し、気づいたことがたくさんあるので、それを生かした事業を行います。まずは、ランニングプログラム“シュガーエリート”でパフォーマンスのトップ集団を作ること。アメリカやケニアの練習で「一人では到達できるレベルに限界があること」を痛感したし、大学や企業がコーチング活動の裾野を広げるのも難しい。チームの枠にとらわれず、速くなりたい人が集まり、外にいる僕らがサポートしながら切磋琢磨するコミュニティを目指します。

――アスリート教育やマネジメント以外は?

大迫:スポーツで得られるスキルや価値を幅広い人に還元し、スポーツを通じた社会貢献を目指します。スポーツで得られる経験は、スキルを磨くことだけじゃありません。例えば目標を細分化し、ステップアップするプラン設計。これはスポーツだけでなく、あらゆる“夢”に通ずる考え方です。僕自身、子どもの頃にこれを知っていたら違う生き方をしていたかもしれません。こういった一般生活にも通ずるスポーツの価値を、もっと発信していきたいです。あと、全国を回るなかで、いろいろな地域課題を知りました。スポーツやランニング文化を通して解決できることも多いと考えているので、それを実現していきたいです。

――最後に、読者にメッセージをお願いします

大迫:これからもどんどん発信していくし、陸上やスポーツを軸に活動していきます。興味のある人は、僕と一緒にスポーツと社会を盛り上げましょう。

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