ファッション

知られざる“世界最速”のTシャツプリント工場イメージ・マジック、成長も爆速 上場も視野

 イメージ・マジックと聞いて、ピンと来るアパレル関係者はそう多くないかもしれない。だが、同社は日本屈指、いや世界屈指の「アパレルのスマートファクトリー」なのだ。昨年はブラザーのガーメントインクジェットマシンをフル活用し、年200万枚ものプリントTシャツを生産したが、今年7月には岐阜県多治見市の2500平方メートルの敷地に、これまでのノウハウを満載した旗艦工場を竣工。同工場がフル稼働すれば、現在の生産能力は200万枚から一気に400万枚に倍増する。同社のこの数年の売上高は、前年比40%増の急成長を続け、来年中には上場も目指す。

 プリントTシャツという最もベーシックなアパレルアイテムを生産する工場でありながら、日本のアパレル業界では完全な異端であり、アウトサイダーのような存在だ。創業者であり、社長でもある山川誠氏はノウハウも資金もほぼゼロから、独力でここまでの企業を築き上げた。謎多きイメージマジックとは、一体何者なのか。

 東京・板橋区小豆沢(あずさわ)に、ひっきりなしに4トントラックが出入りする、築40年ほどの古ぼけた4階建て建物がある。かつて同地区は小さな印刷所が点在したエリアで、この建物もかつては印刷所だったが、イメージマジックが居抜きで借り上げた。同社のTシャツプリントの主力場だ。建坪こそ400坪に過ぎないが、多いときで1日に1万着、平均でも6000着ものプリントTシャツを生産する。工場内は一見すると所狭しとインクジェットプリント機が置かれているだけのようにも見えるが、徹底的に効率化を研ぎ澄ました、世界でも圧倒的な生産効率を誇るTシャツプリント工場なのだ。一人あたりの生産性は1時間で150〜200着。アマゾンやファナティックなどの超強豪がひしめくTシャツのオンデマンド先進国の米国でもトップ企業が70着にとどまることを考えれば、同社がいかに抜きん出ているかがわかる。しかも東京23区内の「都市型工場」であり、面積あたりの生産性という項目も入れると、その生産性の高さはさらに驚異的なものになる。

 ここに運び込まれた無地のTシャツのボディは早ければ翌日、遅くとも4日後にはプリントされ、仕分けされ、梱包され、佐川急便などの配送会社を経て消費者の手に渡る。建物の狭さと生産量の多さにもかかわらず、配送ミスまでを含めた歩留まりは99%超に達する。その理由を山川社長は「生産性が飛躍的に高まったきっかけは、ブラザーがインクジェットマシンのコマンドキーを開放してくれたから」と語る。小豆沢工場ではTシャツのボディが運び込まれるとまず、シールにプリントされたQRコードを貼り付ける。現場のオペレーターは、ボディをインクジェットマシンに設置し、マシンに連結したQRコードリーダーにかざすだけで自動的にプリントを始められるのだ。「コマンドキーが開放されていないと、作業者が実行ボタンを押す必要がある。それだけで5秒のロスが生まれ、ミスも出るかもしれない。それ以外にも毎日毎週毎月、社内のエンジニアが、作業者の要望やミスを分析して、常にシステムを改良している」。ある関係者は「行くたびに新しい機械が入っている」と驚く。常に進化する小豆沢工場は、工場のレイアウトも設備も日々変わっているのだ。

 イメージマジックの創業は1995年。ベンチャー企業というにはちょっと古いかもしれない。山川社長はIT企業の出身でもなければ、アパレルビジネスの経験もなかった。創業もベンチャー精神からというより、脱サラのような形だったという。「前職を上司と喧嘩のような形で辞めて、起業した。前職はイベント業で、ノベルティでインクジェット機でプリントしたTシャツを時々扱っていて、素人でも事業化がそんなに難しくなさそうだなって(笑)」。1ルームマンションのような小さなオフィスで起業後、大学を卒業したての美大生とともにTシャツのプリントを請け負った。しかしその中でプログラムを独学で取得するなど、「ひたすらいわゆるPDCAを回し続けていた」という。

 イメージ・マジックの21年4月期の業績は売上高43億円に対し、経常利益は2億円。8機連続で増収増益を続け、この5年間は前期比40%増で推移してきた。株主は山川社長に加え、印刷業大手の日本創発グループなどが名を連ねる。いずれも重要な取引先で、「基本的に株主は取引ありき。一部でベンチャーキャピタルも入っているが、これは例外的な存在」という。

 イメージマジックは、Tシャツプリントが圧倒的な主力事業ではあるものの、本来の企業コンセプトは、“プリント ✕ IT”で事業はTシャツプリントだけではない。日本で一台しかないと言われる曲面をインクジェットできる機械を持ち、多種多彩なインクジェットプリントを行っている。「正直言って、これまでオンデマンドTシャツプリントの市場は、それ以外のデジタル印刷業と比べたらブルーオーシャンだった。でもいずれ近い将来、日本も超強力な外資企業も参入したパワーゲームになる。上場は、それを勝ち抜くための布石。知名度と資金を獲得し、オンデマンドTシャツプリントの完成度をどんな企業が来ても負けないくらいの完成度に引き上げたい」。

 イメージマジックの考えるオンデマンドTシャツプリントの将来像は非常に明確だ。「無駄を徹底的に排除して、とにかく早く低コスト」。素晴らしい生産性を持つ自社工場は持っているものの、自社生産にだけこだわっているわけではない。すでにオンデマンド生産のノウハウを満載したサービスとして「ODPS」という形で外部にも提供している。「生産管理システムから機械の配置、配送のノウハウまで、自社工場で培ったノウハウの全てをワンセットにして提供している。自社生産にこだわるつもりなんて正直全く無い。同一のシステムなので、受注があれば一番効率のいい工場に振り分けられる。小規模でも日本各地に拠点があれば、それだけ無駄なく消費者に届けられる。まずはそれを日本で実現したい」。

 “プリント ✕ IT”を掲げる同社だが、意外なことに実はシルクスクリーンによるプリントTシャツも行っている。しかも年間50万着に達しているから相当に多い。「理由?シンプルですよ。シルク(スクリーン)の方が圧倒的にコストパフォーマンスがいいから(笑)。どんなにインクジェットプリントの生産性を上げても、シルクには絶対勝てない。もちろん当社の場合はシルクにも超特別なノウハウを入れているというのもありますが。ちなみにシルクの工場はインクジェットの工場とは違って超極秘。外部の人間は絶対に入れませんが(笑)」。

 アパレル業界で知名度が低いのは、大半の受注が自社運営、あるいは他社運営のプリントTシャツのプラットフォームサイト経由だからだ。「アパレル企業との取引をしたこともあるが、納期や取引形態の注文が多くて、必然的に減っていった。ただ、スポーツユニフォームや作業服といったコンスタントに注文の入るカテゴリーには注目していて、今後拡大したい」。

 快進撃を続けるイメージマジックの存在は、アパレル産業における「アパレルとデジタルイノベーション」と「ファッションか非ファッションか」、この二つの不可思議で、難しい課題を象徴している。プリントTシャツは、誰もが絶対に所有する超ベーシックなアイテムでありながら、靴下や下着、ワイシャツなどの日用衣料品とは決定的に異なる。1990年代に日本発のストリートファッションの象徴的なアイテムがプリントTシャツであったことを思い起こせば、ファッションであり、非ファッションでもある、両義的な存在なのだ。また、ニット機の世界的メーカーである島精機の創業者である島正博氏が、NASAのグラフィックボードの競売でアップル創業者のスティーブ・ジョブスと同時に競り落としたことを考えれば、実は最も早くデジタル生産に取り組んできた産業でもある。にもかかわらず、今は「デジタル生産」から最も乗り遅れている産業の一つとみなされているのだ。

 つい数年前にZOZOが挑戦し、あえなく失敗したアパレル工場のデジタル化は、雑草のように誕生し、今でもなぜかアウトサイダーのような存在のイメージマジックが完遂しつつある。だからこそ、これまでの歴史を変える可能性を秘めている。日本発のオンデマンドのTシャツプリント工場が世界市場を制覇する未来はやってくるのか。

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