こんにちは!ヨーロッパ通信員の藪野です。パリコレ終盤になってくると、さすがに疲れが溜まってきて、ホテルに帰ると“バタンキュー”という日が増えていきます。今回は、そんな7、8日目のハイライトをお届け。「ステラ マッカートニー(STELLA MCCARTNEY)」の会場はフランス共産党本部、「ジバンシィ(GIVENCHY)」は郊外にある巨大なスタジアムと、普段訪れないようなところに行けるのもリアルショーの醍醐味ですね。
10/3 17:00 ANN DEMEULEMEESTER
「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」は、イタリアのセレクトショップであるアントニオーリ(ANTONIOLI)傘下に入ってから初のランウエイショーを開きました。デジタルで発表した先シーズンに続き、今季もまさに創業者のアンが手掛けていた時代のアイデンティティーをしっかりと受け継いでいる印象です。カラーパレットを黒と白に絞り提案したのは、ジェンダーレスなオーバーサイズのテーラードスーツや、ジレとアームカバーのようなスリーブのセット、ダボっとしたパンツや細身のマキシスカート、大きなハット、そしてインナーには白のタンクトップ。全体を通して、紐を垂らすディテールがポイントになっています。目新しいのはデニムを取り入れたことくらいなのですが、「アン ドゥムルメステール」に求められているのは、まさにこのスタイル。そこには新オーナーの明確なビジョンも見えますし、バイヤーからの評価も高そうです。
20:00 GIVENCHY
マシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)のクリエイティブ・ディレクター就任後初となるリアルショーがようやく開催されました。ショー映像をデジタルで配信した先シーズンも舞台はスタジアムでしたが、今季も会場はパリ郊外にあるラ・デファンス・アリーナ。スタジアムの真ん中に、巨大なドーム状の白いライトで照らされた楕円形のランウエイと客席を設けました。これは、太陽をイメージしたものだそう。ショー開始と共に流れたのは、マシューと親交のあるラッパー、ヤング・サグ(Young Thug)が制作した未発表の新曲。ミュージシャンの衣装からキャリアをスタートし、音楽界とも強いつながりを持つマシューらしいロケーションや演出であると同時に、ディレクション力の高さを感じさせます。
コレクションはというと、ウィメンズはペプラムやフリルがポイント。クラシックなスーツ地とネオプレンをボンディングしたコンパクトなテーラリングジャケットは、ペプラムや、燕尾服のような背面と中に入れたチュールで構築的なシルエットを作ったり、裾や胸元にアイレットレースのフリルあしらったり。ミニスカートやドレスもカールした裾が軽やかに弾みます。さらに注目すべきは、来年1月に発表予定だというクチュールへの意欲の片鱗が見える、アトリエの技巧を駆使したアイテムです。ブルマのようなショートパンツはオーガンジーとレースを重ねた後にプリーツを施し、ボレロジャケットはさまざまなチュールをふんだんに使って抽象的な柄を表現。プリーツのペプラムやパールをあしらったパステルカラーのオーガンジーやチュールのロングドレスは、まさにクチュールの序章とも言えそうなアイテムです。
一方、メンズはウィメンズと共通のボンディング素材を使いながらも、ボクシーなテーラリングやパッチポケットのついたベストなどを提案。今季協業したニューヨークを拠点に活動するアーティスト、ジョシュ・スミス(Josh Smith)のカラフルでややホラーっぽくもある世界観は、ストリート感の強いメンズと相性が良いように感じました。
また、マシューが今季かなりこだわっていたのが、シューズ。アッパーからソールまでを耐摩耗性素材で仕上げたニットシューズが登場したほか、男女両方に向けたソールとヒールが一体化したクロッグスタイルのブーツやシューズが目を引きました。
10/4 11:00 STELLA MCCARTNEY
公式スケジュールが発表された段階ではラインアップに入っていなかったのですが、「ステラ マッカートニー」も10日前に急遽ショー開催を決めてパリコレに戻ってきました!ただ、今回の会場はいつものオペラ座ではなく、オスカー・ニーマイヤー(Oscar Niemeyer)が手掛けたフランス共産党本部。ドーム状になった異世界感のあるスペースで、小じんまりしたショーが開催されました。
今シーズンの着想源は、きのこや菌類が秘める可能性に迫ったドキュメンタリー映画「素晴らしき、きのこの世界(Fantastic Fungi)」。すでに3月にきのこ由来の人工レザー「マイロ(MYLO)」を使った服を発表していましたが、ついに初めて商品化するアイテムとしてバッグ“フレイム マイロ”をランウエイで披露しました。ということで、全体を通して“きのここそ、ファッションの未来である”という概念に根差したオプティミスティックなムードが表現されています。デザインは、揺れるフリンジや、ボディコンシャスなカットアウト、ポップなアクセントカラーで軽やかに。プリントにも、手描きのきのこ柄を採用しています。
ショー後のバックステージでステラを待っていると、お父様のポール・マッカートニー(Paul McCartney)も登場!2人が話しているところを見ていましたが、本当にナイスな親子でした。その後、ステラにコレクションについて聞くと、「今回のコンセプトは“トランジション(移行)”。だって、私たちの多くは今、まさに移り変わりのときを迎えているでしょう。大きく変化する世界の中で大切なのは、皆にとっての次のフェーズは何か?どうすれば前進できるか?というポジティブなマインド。だから、今季は軽やかなタッチといつもより柔らかなアプローチで、ブランドの未来がどんなものになるかを描いてみようと思った」と語ってくれました。難しくなりがちなサステナビリティを威圧的にではなく、楽しく伝えてくれるステラのコレクションや言葉には、いつも心が動かされます。
おまけ:モデルの移動に変化あり
「今日のワンコ」は肝心のワンちゃんが見つからず、お休みです。今回はその代わりに、モデルの移動方法に関する小ネタをご紹介。以前のパリコレだと、会場前にバイクのドライバーが待機していて、ショーが終わると人気モデルはそれに乗って移動というのが定番でした。しかし、今回は次のショーまで時間の余裕があるからか、レンタルの電動キックボードや自転車で移動する姿をたびたび目撃。渋滞に巻き込まれることもないし、合理的ですね。