コロナ禍による観光需要減を受け、航空会社や観光関連業などの社員が、コールセンターや小売りなど他企業に出向し、雇用を維持する取り組みが昨年から広がっている。その一環として、ストライプインターナショナル(以下、ストライプ)の首都圏の店舗で11月1日から、はとバスのバスガイド職26人が働くことになった。出向期間は5カ月間。販売員とバスガイド職は同じ接客業だが、目的意識を持って参加してくるバスツアー客と、通りすがりの客も多い店頭接客とでは、求められるスキルで異なる部分は大きい。バスガイド職の研修を取材した。
10月19日午後、東京・銀座のストライプ本社を訪れると、バスガイド職13人がレクチャーを受けていた。ストライプの人事スタッフが、接客の声掛けや商品の畳み方などについて説明。どういった店なら客が入りやすいかといったことについては、グループワークを行なっていた。13人の内訳は、はとバスの入社1年目が6人、2年目が7人。午前中にも入社1、2年目の13人に同様の研修を行なったという。
研修を受けていた1人が戸頃紀花さん。短大を卒業後、はとバスに入社して2年目の22歳で、11月からは「アース ミュージック&エコロジー(EARTHE MUSIC & ECOLOGY)」の千葉県内の店舗で働く。20年3月の入社だが、コロナ禍による休業もあってガイド職として観光バスに乗車できたのは2年間で8回のみだという。
短大でも旅行関連を学んでいたという戸頃さんにとって、はとバスのバスガイド職は夢がかなったと言えるキャリア。ガイド職へのモチベーションも高い。それがアパレル企業に出向することになり、「最初に話を聞いたときはやはり驚きました」と話す。「アパレルは私にとって未知の領域で何が分からないのかが分からない。でも、違った職場で働くこともいい経験になるんじゃないかと思うようになりました」と前向きに続ける。
ガイド職、特に戸頃さんら若手が担当している都内を巡る1時間ほどのツアーでは、客と1対1で話す機会はほぼないという。「店頭では、1人1人のお客さまに対する応対の仕方が学べるんじゃないかと期待しています。店頭接客の経験も生かして、ゆくゆくは地方をまわる長時間ツアーで、お客さまに楽しんでいただけるガイド職になりたい」。ファッションについては「知識に自信はないですが、ユーチューブを見て色合わせやスタイリングを考えています。ワンピースが好きなので、ワンピースを着て接客するのが楽しみ」。
はとバスに代表電話からアプローチ
はとバスがバスガイド職を出向させるのは今回が初めて。現在の同社のバスガイド職は119人という。バスガイド職に先んじて、事務職の一部はコールセンターなどに出向させている。ストライプも7月から2022年6月までの期間で、はとバスの事務職15人を受け入れている。
「コロナ禍以降、休業して雇用調整助成金などで雇用を維持してきた」と話すのは、はとバスの岩脇明宏広報室長。今年は東京・大手町のワクチン大規模接種会場と東京駅間の輸送や、東京五輪会場の輸送などを受託し、観光需要減の中でもやってきたが、感染状況は落ち着きつつあるものの、引き続き需要の戻りは見通せない部分が大きい。「GO TO トラベル」キャンペーンの再開も不透明だ。そんな経緯から、バスガイド職の出向を決めたという。「22年春、特に5月の大型連休には、一定の需要が戻ってくると想定している」。それに間に合うように、バスガイド職は5カ月間(22年3月末まで)の出向にした。
アパレル企業にとっては、販売員の採用難はコロナ禍以前から各社共通の課題になっている。「採用難、アパレル不況と言われる中で、店頭でお客さまと接する販売職の楽しさを世の中に伝えていきたい」と、ストライプの川島学人事部長は今回の取り組みの狙いを話す。そもそも、今回の出向は川島部長が代表電話からはとバスにアプローチしたことがきっかけという。「(ストライプ本社のある)歌舞伎座タワーの周辺を、コロナ前ははとバスのツアーがよく回遊していた。40〜50人のお客さまの注目を引きつけているバスガイド職の接客スキルやホスピタリティーを見て、常々すごいと思っていた」。
今後は人事交流として、ストライプの販売員がバスガイド職の研修に参加し、スキルを高めることなども考えているという。ストライプは、はとバス以外の企業からの出向受け入れの予定はないが、「観光関連企業などで話をしているところはある」という。