紳士服チェーン大手のAOKIの“パジャマスーツ”が売れ行き好調だ。スーツのきちん感とパジャマのリラックス感を兼ね備えた1着で、昨年11月の発売から3万着を販売。今後は年間売上高100億円を目標に販促を加速し、仕事着のニュースタンダードとして浸透させることを目指す。
リモートワークが増え、仕事着としてのスーツ需要が減少する一方、消費者の間では「自宅で肩肘張らず仕事をしたい」「けれど、会議などの際はきちんと見える服が欲しい」というニーズが高まっている。コロナ禍以前から、ストレッチ素材を用いたり、芯地を抜いたりするなど、着やすさに配慮したジャケットなどは世の中に出回ってはいた。AOKIも家庭洗濯可能な“洗えるスーツ”、帝人と共同開発したストレッチ生地を仕様した“アクティブテック”シリーズなどを販売していた。
「ただそれらは、あくまで出社を前提として作られたもの。事実として、『自宅勤務となったがどういう格好をしていいかわからない』という“迷子”のお客さまが(コロナ禍以降)数多く来店されるようになった」と上田雄久AOKI社長。そのニーズに応える形で、昨年7月には“ホームアンドワークウエア”シリーズを発売。現行のパジャマスーツと同じ仕様だったものの、滑り出しはまずまずだった。しかし11月にネーミングを変えたことがきっかけで、一気に売り上げが伸びた。店頭では「“パジャスー”ください」という指名買いも増えているという。
AOKIは全国に「アオキ(AOKI)」「オリヒカ(ORIHIKA)」など約600の店舗を展開している。「当社の強みは自社で企画・生産機能を持ち、店頭の販売員がお客さまのニーズを吸い上げ、スピーディーに商品企画に反映できること」。“パジャマスーツ”の誕生も、店頭の声がきっかけだった。自宅勤務に使える服を求めて来店した顧客の「パジャマスーツください」という冗談半分のリクエストを「キャッチーで面白い」と採用。発売からわずか4カ月で“ホームアンドワークウエア”を現名称に変更した。同時にメンズ商品には、寝転んだ男性の吊り札が提げ、リラックス感を強調した。スピード感を最優先に刷新を進めたため、被写体もプロのモデルではなく、同社の飽田翔太広報部長を起用した。
紳士服メーカーならではの設計
楽なのにキチンと見える
ネーミングの妙だけでなく、紳士服専門店としての技術も生きている。“パジャマスーツ”はダンボールニット素材やミラノリブニットを主に使用。ストレッチ性に富み、体を包み込むような軽い着心地だ。一方で全体のパターン設計や肩部などに施されたダーツにより、立体的できちんと見えるように計算されていて、「スーツメーカーだからこそできる発想の服になっている」。
価格帯はジャケットとパンツのセットアップでも1万1000円〜1万6500円と同社商品と比較してもリーズナブルに抑える。室内使いはもちろん、休日やちょっとした外食時など、さまざまな場面での使用を想定。ベルギーサッカー1部リーグの「シント=トロイデン」とオフィシャルサプライヤー契約を結び、パジャマスーツを着た選手たちがフィールドでプレーするプロモーション動画も制作した。
ゆくゆくは“パジャマスーツ”が、既存のクラシックなスーツに興味を持つきっかけになることも期待する。上田社長は「仕事着としてスーツを着る人は今後、(コロナ以前と比較して)1割程度減るだろう」とみる。「だが人の背筋を伸ばしたり、勇気を与えたりというスーツ本来の価値はより際立ったものになる。パジャマスーツを日常的に袖を通してもらえれば、その魅力を身近に感じてもらうきっかけにもなるはずだ」。