楽天グループはこの秋から、アパレル事業者向けに、複数販路における様々なデータを一元管理するデジタルソリューション「楽天ファッション オムニチャネルプラットフォーム(Rakuten Fashion Omni-channel Platform以下、RFOP)」の提供をスタートする。楽天が培ったファッションECサイトや物流フルフィルメントサービス運営の知見に加え、フロー・メイカーズHDやAMS、ダイアモンドヘッドなどの有力な物流、EC支援企業のノウハウを活用し、1年がかりで独自のシステムを構築した同サービスは、在庫一元管理システムを軸に、リアルとECの融合を図る画期的なもの。日本発のインターネット・サービス企業が、本格的に日本のアパレル業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)に動き出す。ファッション通販サイト「楽天ファッション(Rakuten Fashion)」を率いる松村亮・楽天執行役員コマースカンパニー ヴァイスプレジデントに直撃した。
WWDJAPAN(以下、WWD):楽天は2019年秋に東コレの冠スポンサー就任以降、ファッションにかなりの投資を行っているように見える。その真意は?
松村亮(以下、松村):ファッションに関して、楽天は本気だ。冠スポンサーとなった「楽天ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」でも「バイアール(by R)」を筆頭に様々なイベントを実施してきたし、「楽天ファッション」のリニューアル、中島敏子・元「ギンザ」編集長をエグゼクティブ ファッション クリエイティブディレクターに迎えた有識者会議、ラグジュアリー&デザイナーズブランドの商品販売を行う「楽天ファッションラグジュアリー(Rakuten Fashion Luxury)」など、積極的な投資を行ってきた。こうした取り組みのベースにあるのは、ビジネスフィールドとしてファッションが非常に魅力的なマーケットであること。日本のアパレル市場は頭打ちと言われるが、市場規模としては9兆〜11兆円と大きい上に、デジタル/ECという側面で見ると成長を続けており、しかもまだその余地は大きい。ほとんどのブランドが自社で運営する公式通販サイト(自社EC)や「楽天ファッション」などのECモールに出店し、その全てが伸びているという状況だ。コロナ禍でリアル店舗の休業や時短営業などを余儀なくされる中で、ECが企業業績も下支えしていた。その一方で、この数年大手企業のトップを始め、才能ある日本のデザイナー、スタイリスト、編集者など、数多くの人たちに会って、実際に議論を交わし、実際にビジネスも行う中で課題も見えてきた。
重要なのは顧客がリアルとEC、
どちらでもストレスなく買えること
WWD:課題とは?
松村:大量生産・大量廃棄やサステナビリティへの対応の遅れなど、ファッション産業全体が抱える課題はすでに多くの識者などが指摘しているが、われわれからすると、それらの大きな原因の一つが、バリューチェーンの中で商品を顧客に対して最適に配置できていないこと。一つのブランドの商品を例にとっても、直営店舗、卸先のセレクトショップ、ブランドの公式ECサイト、多種多彩なファッションECモールなど、販路が多岐に渡っている。消費者は当然、一番買いやすい場所やタッチポイントで購入するが、そうしたニーズに対応するために在庫が散らばってしまう。
WWD:アパレル業界でも、在庫の一元化はかなり前から課題として挙がってきたが。
松村:在庫の一元化は、想像以上に複雑だと捉えている。ECがこの10年で急拡大してきたため、多くのアパレル企業はバックエンドのシステムとロジスティクスがツギハギのようになっている。急成長するECに対応しようとすれば、それ自体はやむを得ないことだ。すでに在庫の一元化などを実現し、かなりの成果を収めている企業も出ているが、それを実行しようとすればかなりの投資も必要になる。「RFOP」の狙いはそこにある。ファッション企業にとって最も重要な資産である在庫を極限まで有効に活用するために、リアル/ECの区分なくできる限り効率的に在庫を運用すること。楽天が、そうした部分を肩代わりするような形で投資し、非常に低コストかつ効率的なシステムを提供したい。
アパレル業界の課題に真正面から取り組む
WWD:アパレル企業からの反応は?
松村:「RFOP」に関しては、楽天ならではのECで培った知見やノウハウに加え、物流支援サービスを提供する大手フロー・メイカーズHDや、EC支援の有力企業であるAMS、ダイアモンドヘッドなどのノウハウを活用し、1年がかりで独自のシステムを構築した。今年1月に発表後、アパレル企業からの関心は高く、実際に問い合わせも多い。ただ、アパレル企業にしても、日々モノとデータを動かしている在庫や物流を現行のやり方やシステムから切り替えるわけだから、システム更新のタイミング、実際の切り替え作業などは、一朝一夕で行えるものではない。それに業務フローのすり合わせなども必要だから、実に泥臭い仕事になる。数年単位でじっくり取り組んでいく。だが、だからこそ取り組み意義は大きい。ここを乗り越えれば、データ連携や在庫連携の基盤が整備され、いよいよリアルとECが融合した新しいコマースの形が見えてくる。楽天経済圏のビッグデータを活用した商品開発や在庫の効率化など、データドリブンな産業モデルへの転換が加速するはずだ。
WWD:今後をどう見る?
松村:この数年、ファッション産業と様々な取り組みを行ってきて、当初は想定していなかった魅力も体感している。それはファッションが文化産業であるということ。RFWTや有識者会議などは、より深く産業を知るために行ってきたことではあるが、実際に取り組みを始めてから、ビジネス的なインパクトだけでなく、楽天グループ全体のブランド価値が上がったことを実感している。これは他の商品カテゴリーではあまりない。大量生産・大量廃棄などのネガティブな面がフォーカスされることもあるが、ITの力でそうした課題を解決することは産業全体の活性化だけでなく、本来ファッションが持つ文化的な価値を取り戻すことにもつながる。そのことも大きな意義だと考えている。
「楽天ファッション
オムニチャネルプラットフォーム(RFOP)」
とは?
1 / 2
「RFOP」は、在庫の一元管理システムを軸に、フロントでの販売支援からバックエンドでの物流支援まで、オムニチャネル推進に必要なソリューションをパッケージ化して、網羅的かつ安価に提供するサービス。必要なサービスや機能だけを選択したり、組み合わせたりすることも可能で、ユーザーとなるアパレル企業のオムニチャネル施策や戦略、現状に対応する。
「RFOP」の最大の特徴は、EC面では主要なファッションECサイトと連携可能で、バックエンドの在庫連携に関しても店舗用・EC用の双方をリアルタイムで連携し、一元管理できるようにもなる。リアル店舗に加え、自社EC&全ネット通販モールでの販売と、リアルタイム在庫連携による一元管理が組み合わさることで、一つの在庫を文字通り全チャネルで販売できるようになり、販売機会ロスを極限まで減らすことができる。
「楽天ファッション」のスケールメリットを生かしたフルフィルメントサービスの活用により、B2B2C倉庫での在庫の一元管理や物流面でのコスト削減も見込める。また、店頭や会員カードなどで「楽天ポイントカード」と連携すれば、ECからリアル店舗への送客なども可能になるほか、効果的なプロモーション施策などを打てるようになる。