「ECで高い服は売れない」。現在コロナ禍で状況は変わっているとはいえ、これはファッション業界で長らく言われてきたことだ。2016年にスタートしたマークスタイラーのEC主軸のウィメンズブランド「アンスリード(UN3D.)」は、この定説を覆そうとチャレンジし続けてきた。
ワンピースなどは3〜4万円、コートなどアウター類は5〜8万円程度の価格帯だが、売上高に占めるEC販売の割合は8割に達する。ファッションビルやSCを主戦場とする同社の主力ブランド「エモダ(EMODA)」「ムルーア(MURUA)」などとは異なる戦略で、限定的な規模ではあるものの、市場でもあまり類を見ないポジションを築きつつある。
40代を中心に着実にファンを増やし、今年9月には設立5周年を迎えた。「(ブランドの)立ち上げ当初は周囲から無茶だと言われたが、今は多くのファンに囲まれ、彼女たちが欲しいと思う服を作れているから(事業が)続けられている」と荻原桃子デザイナーは自信を深める。
東京・青山の路面店は発信拠点としての役割を担う。さまざまな現代アーティストの作品が彩る空間に、鮮やかなカラーパレットや素材の切りかえ、シグネチャーであるプリーツデザインなど個性的な服が並ぶ。9月にこの青山路面店で実施した周年イベントは、コロナ対策で参加は事前予約制としたが、100人近くの参加枠がすぐに埋まった。定期的に開催してきた顧客向けイベントは、ブランド発足当初は荻原氏の「ムルーア」ディレクター時代のファンが多かったが、「最近は新しいお客さまも非常に増えている」という。
数十万円分まとめ買いする顧客も
デザインは「やりすぎ」がちょうどいい
イベントでは、新作を数十万円分まとめ買いする顧客も見られた。エンゲージメントの強いファンがつく最大の要因はデザインの独自性。「アンスリード」は“アンスタンダード(標準的でない)”“アンシンプル(シンプルでない)”“アンシミラー(似たものがない)”の3つの「アン」を掲げており、これがブランド名の由来でもある。「ブランドを始めたときから、どこでも手に入らないような服を作ることをぶれずにやってきた」。
店舗販売を大前提とせず、マネキンに着せたときのコーディネートにとらわれない。一点一点の個性を、その分際立たせる。「作り手がいうのも変だけれど、全身をうちの服で固めたら『やりすぎ』なくらいがちょうどいいと思っている」。ユニークなデザインは画面越しにも映える。コロナ禍(2020年4月)以降、毎月のSNSへのインプレッション数やフォロワーの増加数などは前年比2〜4倍のペースで推移し、EC売上高も大きく伸長している。テレビドラマでの有名女優の着用をきっかけにヒットにつながる事例も増えた。
コロナ禍を経ても、服作りへの姿勢はこれまで通りを貫く。「自宅で過ごしやすかったり、リモート会議できちんと見れたりする服は、確かに私も『あればいいな』と思うようになった。でもそれが『アンスリード』で求められているかと言えば、違うと思う。クローゼットに欲しい、とっておきの一着にしたいと思ってらえるような服を作り続けたい」。
今後は海外展開にも本腰を入れる。現在は中国への越境EC販売に加え、「ステュディオス(STUDIOS)」などセレクトショップへの卸売やインフルエンサーの代理販売で「現地にも着実にファンが増えてきている」と一定の手応えをつかむ。「ゆくゆくは国内と海外の販売比率を半々にするくらいの気概でやっていく」。