「クレージュ(COURREGES)」は、2020年9月にアーティスティック・ディレクターに就任したニコラ・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)の指揮のもと、2022年春夏シーズンのパリ・メンズ・コレクションで初のメンズウエアを披露した。同ブランドはほかにもアーカイブを現代に向けて再解釈した新プロジェクト「リエディション・コレクション(Reedition Collection)」の始動や、パリ・フランソワ=プルミエ通りにある歴史ある旗艦店を今年6月に改装したり、マレ地区にも新しい旗艦店を構えたりと、動きが活発化。同ブランドの全株式を保有する投資会社アルテミス(Altemis)のサポートで、成長戦略を加速させている。
デ・フェリーチェはこれまで、ニコラ・ジェスキエール (Nicolas Ghesquiere)時代の「バレンシアガ(BALENCIAGA)」と「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」、ラフ・シモンズ(Raf Simons)の「ディオール(DIOR)」などでウィメンズのデザインを手掛けてきた。彼にとっても、「クレージュ」にとっても、メンズコレクションは新たなチャレンジである。ブランドの未来を託されたデ・フェリーチェに、メンズでの挑戦やデザインについて聞いた。
「シンプルなものほど実は複雑である」
——「クレージュ」初のメンズコレクションの制作において、ウィメンズとの違いは?
ニコラ・デ・フェリーチェ「クレージュ」=アーティスティック・ディレクター(以下、デ・フェリーチェ):特に大きな違いはなく、ウィメンズ・コレクションでのアプローチと同じ方法で取り組んだ。私たちが今着たい服を、「クレージュ」のコードや表現と両立させるアイデアをベースにし、シンプルで端的でありながら、シャープで先進的な男性像を描いた。身にまといたいという自発的な欲求と、精度の高い洋服の構造を組み合わせたアプローチだ。
——あなたはウィメンズのデザイナーとしてキャリアを積んできたが、初のメンズコレクションにどのような手ごたえを感じている?
デ・フェリーチェ:自分にとって初めてだったが、「クレージュ」のメンズとしても前例がなかったため、プレッシャーを感じることなく、とても自然にのびのびと制作に打ち込むことができた。このいい流れをそのまま継続していきたい。
——「クレージュ」らしいデザインはどういった部分で表現した?
デ・フェリーチェ:レザーもしくはテクニカル素材で作ったトラッカージャケットが私のお気に入りで、「クレージュ」のコードを詰め込んだキーアイテムでもある。誰もが一着は持っているであろう定番アイテムを「クレージュ」なりの表現で仕上げた。具体的には、丸みを帯びたポケットや三角形のショルダーラインなど、ブランドを象徴する形状をディテールに取り入れて、らしさを打ち出した。また、ファーストルックを飾ったビッグコートは、創業者アンドレ・クレージュ(Andre Courreges)自身が着用していたコートからインスパイアされた作品だ。豊かなアーカイブを間近でよく観察し、自分の目と手を使って現代風にアップデートを試みている。
—— 自身の約12年のデザイナーとしての経験を現職でどう活かしている?
デ・フェリーチェ:ここ数年は、特に正確なカットと仕立ての方法を学んできた。同時に、自分の好みやセンスについてもより深く自覚できた。私のデザインは、まず“構造”と“ライン”に特徴がある。シンプルで分かりやすく、幾何学的なシェイプを探求し続けているからだ。ルックを見て服がどのような形をしているのか一目で分かったとしたら、その構造は非常に複雑で、洗練されていると思ってほしい。つまり、シンプルなものほど実は複雑であるということだ。多くの作業や知識、綿密な計算が要求されるシンプルなデザインを、これからも追究していく。
——大盛況だったマレ地区の旗艦店のオープニングなど、新しい「クレージュ」は特に若い世代から注目を集めている。デジタルネイティブ世代にとって実店舗はどのような役割を果たす?
デ・フェリーチェ:実物に触れたり、洋服を試着したり、ブランドの世界観を体感できる物理的な場は、私たちにとって非常に重要だ。リアルかデジタルの二者択一ではなく、両方の体験を顧客に提供する必要がある。双方からのアプローチが、最適な顧客体験を見つけることにつながるはずだ。
——今後の構想は?
デ・フェリーチェ:自分の好きなもの、信じるものの焦点をブラさず、自分自身をゆっくりとブランドに溶け込ませていくつもりだ。