ファッション

ファッション・ウイーク復活の歓喜と現実 コペンハーゲン現地リポート 前編

 今夏開催された2022年春夏シーズンのコペンハーゲン・ファッション・ウィーク(以下、CPHFW)に参加してきました。3日間の公式スケジュールには38ブランドが名を連ね、うち25ブランドがリアルのショーを、13ブランドがデジタル形式で映像とリンクさせたスペースや旗艦店内でのライブビューイングを開催しました。ほかにも各国ジャーナリストからデザイナーへのQ&Aセッションやトークライブが、対面もしくはテレビ電話で実施しそれをストリーミング配信するなど、リアル&デジタルのハイブリッドな内容でした。コレクション発表以外にも、新創刊の「ヴォーグ・スカンジナビア(Vogue Scandinavia)」が主催する朝食会や、夜は「マリメッコ(MARIMEKKO)」と「ガニー(GANNI)」によるディナー会などイベントが盛りだくさんで、朝から晩まで予定びっしりなシーズンとなりました。

 リアルのイベント復活とあって、ヨーロッパとイギリス、アメリカからもゲストがデンマークに渡航しました。入国や市内での飲食店と文化施設利用時には、コロナパスポートの提示が必須です。渡航者の出発地により入国措置は異なるようで、フランスから入国した私は、ワクチン接種済、もしくはコロナ陽性から回復した場合はワクチン接種同等の免疫があると認識されるため、過去1年以内のコロナ陽性結果のいずれかがコロナパスポートとして認められます。会場では「パンデミック後初のリアルショーへの参加」と口にするエディターも多く、特に初日は参加者全員のワクワク感が高まり、互いに再会を喜び、ファッション愛を再燃させているような印象を受けました。デンマークは屋内屋外問わずマスク着用義務がすでに解除されており、ノーマスクで笑顔がよく見えたのもCPHFWが盛況だったと感じた要因の一つかもしれません。

イベントでコロナ陽性者が

 しかしその喜びもつかの間、CPHFW2日目には、初日に小さな屋内スペースでプレゼンテーションを行ったブランドの参加者からコロナ陽性者が出たという情報が入ってきました。また、最終日にショーを行ったブランドのデザイナーも陽性診断を受け、ショーやイベントに姿を現しませんでした。CPHFW主催側は、参加者にワクチン接種済でもPCRテストを受けるよう促しましたが、あくまで“自己責任”という感じです。この情報が周知されてからは自主的にマスクを着用したり、車内では窓を全開にしたり、小さなスペースに密集するのを避けるゲストが見られました。デンマークはヨーロッパの中でも早い段階からワクチン接種が始まり、CPHFW会期前後の国民のワクチン接種率は80%近くで、コロナ新規陽性者は2万人近くとかなりの数ではあるものの、入院患者は約200人ほどです。重症化リスクが減ったことで、“自己責任”というウィズコロナ時代の次のフェーズへと入っているのかもしれません。しかしクラスターとまではいかなかったため、CPHFWは全てスケジュール通りに実施しました。

ユーチューブとの提携の狙い

 リアルのショーを再開させたとはいえ、CPHFWはコロナ禍で培ったデジタルの経験も糧にしていくといいます。今季から新たに、ユーチューブとの提携を結びました。CPHFWの全スケジュールを専用プラットフォームに加え、登録者数1440万人(8月13日時点)のユーチューブ独自のライブチャンネルとファッションチャンネルでストリーミング配信しました。デジタルのみで開催した前シーズンは、各ブランドの映像が視聴回数1000に満たないものも多い中、今シーズンは1万回前後に達しました。この新たな提携の目的は、多くの視聴者が渡航せずにイベントに参加し、炭素排出量を削減すること。今年7月に発表した新たな取り組み“2023 サステナビリティ・リクワイヤメント”の一環でもあります。具体的には「生地の50%以上は国際的な認証を受けたオーガニックもしくはリサイクル」「洋服の在庫は廃棄しない(再販かレンタルサービスを提供、製品の修理は無料で提供)」「ショーのセットは再利用可能な素材に限定、イベントで排出した二酸化炭素量は相殺すること」「バックステージで使用する美容製品はオーガニックもしくは植物由来の製品に限定」などを含む75項目を設け、ブランドや企業が参加資格を得るには最低基準に準拠する必要があります。「全ての人が平等な機会を享受できる環境」という項目に従い、今季はプラスサイズモデルやさまざまな肌の色、異なる宗教を信仰するモデルがランウエイに起用されていたのが目に見えて分かる取り組みでした。

環境配慮に注力するデンマークらしい光景

 デンマークが国を挙げてサステナビリティに力を入れていることはよく知られていますよね。市内では二酸化炭素を排出しない自転車での移動が一般的で、タクシーは電気自動車が主流です。タクシー車内には、走行距離に応じてどれくらい二酸化炭素量の排出を抑えられたかが表示されています。市販されている缶や瓶、ペットボトルには容器代のデポジットが含まれており、使用後の空いた容器をスーパーマーケット内に設置されたリサイクル回収ボックスに入れると、デポジット分を会計で差し引く仕組みを導入しており、回収率は90%以上。リサイクルや二酸化炭素削減への行動が日常化されているようです。

 今回の取材で驚いたのが、「ガニー」のショー会場となった19年10月開設の巨大施設「コペンヒル(Copenhill)」です。ヒル(丘)のように海辺の工場地帯に建つ同施設は、基本的にはゴミ焼却炉として稼働しており、焼却時に発生した電力を周辺10万世帯に供給する再生電力発電所でもあります。さらに、巨大な規模を活用して、屋上には全長350メートルのグラススキー場やジョギングコース、人工芝と天然芝をミックスさせた庭園を設け、高さ80メートルの建物の壁面を利用してボルタリングも楽しめるという、レクリエーションセンターとしても機能しています。コペンハーゲンは2025年までに世界初のカーボンニュートラル都市を目指しており、「コペンヒル」はその取り組みの一つ。ここの屋上でショーを行った「ガニー」は、今季のコレクションの80%以上がオーガニックもしくはリサイクル素材を使用しました。セシリー・ソルスマルク(Cecilie Thorsmark)=CPHFW最高責任者(CEO)が「サステナビリティへの取り組みにおいて“十分”はなく、常に野心的に高みを目指さなければなりません」とスピーチしていたのが頭に残っています。デンマークの人々の高い意識に圧倒されるとともに、私自身の不十分な日常の行動に反省しつつ、サステナビリティについて強く刺激を受けたCPHFWとなりました。

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