「グッチ(GUCCI)」は11月3日(日本時間)、ロサンゼルスのハリウッドで22年春夏に相当する「グッチ・ラブ・パレード」コレクションを発表した。
最新コレクションをロサンゼルスで発表した大きな理由は、クリエイティブ・ディレクターを務めるアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の母親が映画産業に従事していたから。映画の制作会社でアシスタントとして働いていた母への愛、母が活躍していた頃のシネマ業界を思わせるレトロ&ノスタルジック、一方ベルリンで2010年代まで行われていたレイブイベント「ラブ・パレード」を思わせるエッジネス、そして、個性的なステートメント・ピース(主張する洋服)に依存するのではない広範性などを忍ばせたコレクションを、夜のハリウッドの目抜き通りを封鎖して発表した。
コレクションのベースは、アメリカらしいカウボーイのスタイルを象徴するテンガロンハットをスタイリングのスパイスとして効かせた、レッドカーペットを思わせるイヴニングだ。ミケーレは、マリリン・モンロー(Marilyn Monroe)の陶器のように白く滑らかな肌、リタ・ヘイワース(Rita Hayworth)の黒いサテンのグローブ、ロック・ハドソン(Rock Hudson)の魅惑的な佇まいは、母からおとぎ話のように聞いていたと語る。スリップドレスの上にパステルブルーのフェイクファーを羽織ったモデルや、ベアトップやスパゲティストラップのドレスに黒いグローブ姿のモデル、そしてカマーバンド&ピークドラペルのジャケット姿のモデルは、まさに、母から聞いていた往年のハリウッドセレブの再来のよう。サテンなどの光沢素材や、ふんだんに用いたフェザー、ラメを織り交ぜた生地で作るプリーツなどで輝きを増した往年のセレブたちは、母親の話からミケーレが想像した“キラキラの世界”そのものであり、と同時に、そんな世界の一翼を担っている母親への憧れでもあるようだ。一方、ロック・ハドソンはアメリカを象徴するダンディズムのシンボルだったが、80年代に同性愛者でHIV/AIDSを患っていることを告白している。今回もミケーレの「グッチ」は、調べれば調べるほどに伏線が見つかりそうな、神秘性も備えている。
今シーズンは、サテンやチェックの生地で作るスーツを連打。ハリウッドセレブが集った、1970年代のアカデミー賞授賞式の一幕のようだ。コロナウイルスのパンデミックを機に最新コレクションの発表時期から場所、方法までをゼロベースで見直したミケーレは最近、和洋折衷の独創的なハイパーミックスのみならず、多くの人がより多くの機会で楽しめそうな汎用性も意識している。スーツの連打は、1ルックだけでも強烈な印象を残すステートメント・ピースと、リアリティのある洋服の存在感を同じレベルにまで高めようとする意図の証でもあるようだった。特にメンズは、大きなコサージュや、時折ジャケットと合わせるサイクルパンツは時と場所、もしかしたら人を選ぶかもしれないが、基本は万人を受け入れるインクルーシブなデザインだ。
一方のウィメンズは今シーズン、セクシーとフェティッシュの様相を強めた。ネグリジェのようなスリップドレス、胸元がのぞくバストライン、編みタイツやガーターベルト。セクシーやフェティッシュは数々のセックスシンボルを生んだハリウッドの象徴であり、新たな時代に欠かせない生の表現でもあるように思える。と同時に、ジェンダーレスにさえ囚われず、自由に女性性を楽しむ今シーズンの潮流ともリンクした。ミケーレはショーの後に行われた記者会見で、「パンデミックで、人々は死の危険性を感じた。生と死は表裏一体であることを認識したからこそ、恐れずに生きようと思い始めたんだろうし、僕も作ることを恐れず、体を彩るだけじゃない、人生を彩るドレスを作りたかった」と話した。