WWDJAPANは11月24日、ファッションやビューティ分野のリーダーたちを招いて無料オンラインイベント「WWDJAPANサステナビリティ・サミット」を開催する。2回目となる今年のテーマは「近未来のファッション」。デザイナー×研究者など他では見られない組み合わせでファッションのこれからについて議論を交わす。そこからはどんな未来が飛び出すのか!?見どころについて企画担当者が解説する。
向千鶴WWDJAPAN編集統括サステナビリティ・ディレクター(以下、向):今回のサミットのテーマ「近未来のファッションデザイン」は廣田さんから上がってきた言葉です。長らくサステナビリティを取材してきた廣田さんがこのテーマを選んだ理由は?
廣田悠子WWDJAPANコントリビューティング・エディター(以下、廣田):さまざまな技術開発が進むなかで、研究開発のフェーズから”実装”、そしてスケールアップのフェーズに変わってきたと感じるものが多いからです。また、これまでになかった新しいファッションの提案が増えていて、近い将来のファッションの選択肢がぐっと広がり変化していくと感じたからです。
向:なるほど。サステナビリティは新素材の開発などイノベーションがマストだから常に近未来を見ていますよね。そしてそこが面白い。そのワクワク感を視聴者の皆さんに伝えたいです。で、セッション1のテーマが「夢の素材、マッシュルームレザー」です。数ある近未来の中でも一番の注目はキノコ?
廣田:今年はキノコイヤーといっても過言ではなかったですね。キノコってすごいんですよ。おいしくてヘルシーなだけじゃない笑。キノコの菌糸体からレザー風の素材が作れます。素材ができるまでがわずか2~4週間と速く環境への負荷が低いうえ、動物を傷つけなくて済みます。再生可能な低負荷の素材として世界中で開発が進んでいたんですが、まさにそれが“実装”のフェーズに入ったのが今年なんです。「エルメス(HERMES)」は米スタートアップ企業のマイコワークス(MYCOWORKS)と共同開発した“シルヴァニア”を用いたバッグを、「アディダス(ADIDAS)」は“マイロ(MYLO)”を運用する米スタートアップ企業のボルトスレッズ(BOLTTHREADS)と協業して“スタンスミス”を発表するなど今年はニュースが相次ぎました。「エルメス」は今年中に、「アディダス」は来春発売予定です。
向:ワクワクするわ〜。登壇いただくのは、LVMHプライズで日本人初のグランプリを受賞した「ダブレット(DOUBLET)」の井野将之さんと、「ダブレット」が用いたマッシュルームレザーを開発したインドネシアのスタートアップ企業マイセル/マイコテック ラボ(MYCL / MYCOTECH LAB)」の共同創業者です。“人工マッシュルームレザー”は今最も注目を集める環境配慮型素材で、その開発段階のリアルな声を聞けるのは貴重。「ダブレット」の展示会、本当に面白かったね!
廣田:ファッションのワクワクがありましたよね!開発が進むさまざまな環境配慮型素材を用いたコレクションでしたが、「これ、環境に配慮しています」という提案ではなくて、ウィットを効かせたデザインで、コミュニケーションツールにもなるアイテムばかりで「ほしい~」と思いました。マッシュルームレザーのライダースジャケットにはベニテングダケが描かれ、バナナの木の繊維は自分がバナナになれる服(笑)だったり
向:われわれ、「ダブレット」の展示会で、色違いのマッシュルームレザーのポシェットをオーダーしました。サミットまでに届いたらぜひお見せしたいです。キノコの話だけで1時間分の対談が書けちゃうけど、スペースの都合上、次にいきましょう。セッション2も最高に楽しみなテーマです。「バーチャルファションは面白い」。大注目企業ドレスエックス(DRESSX)の共同創業者2人にLAから参加してもらい、東京オリンピックの開会式でミーシャがそのドレスを着用したことで話題になった、「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」の小泉智貴デザイナーに登壇いただきます。ドレスエックスってつまりはバーチャルな洋服のEコマースですよね?
廣田:はい、そうです。好きな服やアクセサリーを選んで購入して、自分の全身写真を送ると自分がそのアイテムを着たかのような写真が送られてきます。現在提供するのはこのサービスですが、今後NFTへの本格参入も控えていて、動向に注目しています。
向:ドレスエックスの面白さを端的に言うと?
廣田:アバターではなく自分がデジタルファッションを着ることができる点、創業した彼女たち自身ファッション好きでファッション産業に身を置き、そこにある大きな課題に気付き、課題解決とファッションの新しい価値観を見出すこと両方に挑戦している点でしょうか。“作ること”を否定するのではなくて、共存していくことを模索している点もいいなと思いました。デジタルファッションはリアルファッションよりも環境負荷が低いというアプローチもこれまでのバーチャルファッションの提案とは一味違うと感じました。
向:だからサステナビリティ・サミットのテーマにぴったり。小泉さんに聞いてみたいことは?
廣田:小泉さんはファッションのワクワクを大切にされているデザイナーの一人です。そのワクワクをデジタルを活用してどう拡張していくのか、その可能性と実際に作って提案することとのバランスをどう考えているか、でしょうか。
向:フェイスブックが社名をメタに変えたことが象徴するように、メタバース(仮想現実)はこの先、実装されて生活とつながってくるのは間違いない。その中でファッションの自己表現がどう広がるのか、そんなことにも妄想が広がりそうなセッション2です。そしてセッション4のテーマは「グローバル先進企業が起業家に求めること」。このサミットの締めくくりにふさわしいテーマです。ケリングのマテリアル・イノベーション・ラボ(MIL)の責任者であるクリスチャン・トゥビトさんと研究者であり教育者の水野大二郎さんをお迎えします。知的でしびれる議論が生まれそうです。廣田さんは、ケリングのこの研究所にずっと興味があったでしょ?
廣田:知的欲求を満たしてくれそうなセッションですよね。2013年に創設されたMILは要注目でいつか取材したい&行ってみたいところの一つです。サステナブルなモノ作りのためのガイドラインを提供するような場所です。今、約3800の素材サンプルがあるとか。コロナ前に取材していた欧州の素材見本市ではMILの責任者自ら各ブースを回っていて、本気度が伝わってきました。また、探すだけではなくて、イノベーターの支援を行っている点にも注目です。ケリングは、イノベーションなくしてサステナビリティ目標を達成できないと公言していて、スタートアップとの協業も積極的に行っています。水野さんは海外の動向に詳しいのはもちろん、企業と共同研究したり、起業した教え子のサポートもされています。現在サーキュラーデザインやサステナブルファッションの本も執筆中で、対談相手にはピッタリだと思います。
向:サステナビリティは「トレンド」と捉えられがちだけどそうじゃない。ケリングのような企業を見ていると、もはやファッションビジネスの大前提であり当たり前です。その「当たり前」の背景にはこういったラボの存在があるのだ、と実感できると思います。廣田さんは今、コントリビューティング・エディターという肩書きでの「WWDJAPAN」仕事に加え、ファッション企業の中に入っての仕事もしています。そんな廣田さんから視聴者に今伝えたいことは?
廣田:すでに成長したアパレルメーカーのサステナビリティシフトはゼロからビジネスを構築すること以上の難しさがあると感じています。がんじがらめな感覚になっている方も多いと思います。そういった方々に、実際にシフトを試みている先進企業のアクションと考え方からヒントを見つけてもらえたらと思います。また、ゼロベースでビジネスを始めた企業からは、新規事業開発やこれから起業しようと思っている方々にヒントを探してもらえたらうれしく思います。
向:そうですね。このサミットを見て「ファッションの世界に入りたい」と思う若者が増えることを願ってやみません。開催中のCOP26の動向なども見て、なるべくホットな話題を11月24日の「WWDJAPANサステナビリティ・サミット」での対話にも織り込みたいと思っています。皆様、どうぞお楽しみに!
「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2021」近未来のファッションデザイン
開催日時:2021年11月24日(水)18:00~
オンラインでの開催<参加無料>