吉村朋代(よしむら・ともよ)三越伊勢丹 伊勢丹新宿本店 外商部 第二担当 ストアアテンダント1 マネジャー:東京都生まれ。短大卒業後、1996年に三越伊勢丹入社。6年間紳士衣料品部スポーツの販売員を経て、2002年伊勢丹メンズ館のメンズクリエーターズへ異動。約11年間販売員として活躍しストアアテンダントに昇格。17年から現職 PHOTO:TSUKASA NAKAGAWA
コロナ禍で富裕層ビジネスは絶好調で、バブルといってもいいくらいだ。富裕層は、海外旅行などの費用を国内消費に充てている。そんな富裕層が欲しいものを探し出して提案するのが百貨店の外商の役割。顧客とラグジュアリー・ブランドをつないでショッピングのサポートをするだけでなく、ギフトや家の中のものまでジャンルを問わず顧客の好みに合うものをスピーディーに提供できて当然という、レベルの高い情報収集力と顧客の好みを的確に把握する力が必要になる。ファッション好きの若い富裕層から絶大な支持を得ている三越伊勢丹の吉村朋代・伊勢丹新宿本店 外商部第二担当 ストアアテンダント1 マネジャーに話を聞いた。
吉村さんは、入社26年というベテランだ。販売員としてキャリアをスタートし、2017年に外商アテンダントになった。外商になる前に3年間、伊勢丹新宿店メンズ館(以下、メンズ館)クリエイターズのフロアアテンダントのマネジャーとして活躍。吉村さんは、「(メンズ舘は)多くの芸能人や著名人の方が来店されます。販売員は意外と接客を躊躇するのですが、私は通常のお客さまと同様に積極的に声を掛けていました。それで顧客が増えて、カテゴリーの枠を超えて自由に動けるストアアテンダントになりました」と話す。“芸能人、著名人だから”という先入観のない接客が顧客獲得につながった。「外商の顧客数は300人以上。なぜなら、家族ぐるみでサービスを提供するからです。30〜50代が中心で男性が8割、女性が2割。ほぼ経営者です。だから、ご自身で購入されることが多く、話がはずみますね」と話す。
普段味わえない体験やおもてなしを提供
外商の仕事内容とは、顧客から依頼があったら、提案しお届けするというのが基本。もちろんブランド主催のイベントなどにも同行する。吉村さんは、「店頭では味わえない体験やおもてなしを提供するのも大切。例えば、海外で開催されるオートクチュールのショーに行きたいというお客さまのリクエストに応えたり、ゼロから作り上げたサービスもあります」と話す。きっかけは、顧客と「こういうことができるといいですね」という話から。そこで、彼女は「やってみます」と顧客の海外アテンドツアーを企画。彼女は、2019年から20年3月まで、パリ・コレクションやオートクチュールのアテンドで7回出張したという。ラグジュアリー・ブランドが渡航費を持って、VIP顧客を招待することはあるが、伊勢丹では初めての試みだった。「顧客と現地集合・解散で、現地でのショーや展示会の手配、アテンドはもちろん、全てのスケジュール調整を行います。3〜4日、顧客とパリでファッションショーを見て、その後リシー(展示会)に行ってオーダーするという流れです。日本市場に入ってこないものも現地ではオーダーできるので、お客さまは特別感が味わえますね。また、一つのブランドではなく、さまざまなブランドを見られるのは百貨店ならではの強みだと思います」。そのために、吉村さんは、パリ駐在員事務所やブランドと連携し、現地メゾンと交渉してショーのインビテーションやリシーのアポイントメントなどを取ったという。「お客さまも、ブランドも、われわれも全てハッピーな企画になりました」。
外商としてのやりがいと必要なスキル
吉村さんは、自ら企画して新しい体験を提供しているので、それ自体がやりがいにつながっているのは間違いない。ただ、顧客数が300人以上ともなると、そのようなサービスを提供できる顧客は一握りだ。「ないものを形にしてお客さまに感動していただくのも大きなやりがいの一つですが、昔ながらの外商の役割でもある、結婚、出産、誕生日といった、お客さまの人生に寄り添う点は今も変わっていません。“人生のコンシェルジュ”としてお客さまの生活に寄り添うサービスを提供できることですね」。それは、顧客との信頼関係意外の何ものでもない。
外商にとって必要なスキルとは何かという問いに対して、「人間力のウエートが高いです。コミュニケーション力がとても重要。お客さまと共感できる点です」。吉村さんが顧客とコミュニケーションを取るのはほぼLINE。対応はもちろん十人十色で、顧客によって異なるという。「お客さまによって表現の仕方が異なるので、それに気を使うのが大切です。タイプ別に対応すべきですし、気持ちを伝えること、そして、スピード感が大切です」。吉村さんは、顧客の情報収集にインスタグラムを活用している。「ストーリーでお客さまが感じたことをキャッチして、商品のご提案することもあります。また、会話をふくらますのにとても役に立ちます」と吉村さん。顧客は吉村さんがSNSを見ていることに喜びを感じてくれるそうだ。
コロナ禍での顧客とのコミュニケーション
コロナ禍における外商のコミュニケーションの取り方については、「LINEでお客さまが興味のありそうな限定品やイベントがあればご連絡します。海外メゾンや駐在員事務所とのコミュニケーションが必要な場合は、Zoomを使います。コロナ禍で、お客さまとのコミュニケーションが増えました。ご来店は減っていますが、家具やカーテン、食器などライフスタイル全般の商材に対するリクエストが増えて、リモートで接客しています」。コロナによる“おうち時間”拡大により、顧客の関心の対象が広がっているようだ。
売上高の推移と新規顧客獲得
吉村さんの外商チームの売上高は前年比2ケタ増で伸長。チームのノルマはあるが、数字を追う感覚はないという。「お客さまに喜んでいただければ、自然と数字はついてきます。新規顧客の獲得については、ほぼ100%、既存のお客さまからの紹介です」という。ここで大切なのが、顧客同士の関係性。「相関図を作って共有し、お客さま同士でギフトなどがかぶらないように気をつけています」。
チームワークで365日いつでも対応可能に
300人を超える外商顧客に吉村さん一人で対応するのは不可能だ。吉村さんをトップに8人の女性と2人の男性、10人体制のチームで日々、顧客から寄せられる約200件のさまざまなリクエストに対応する。「300人以上の顧客といっても、ギフトが多い方やタイプ別にチーム全体で365日対応できるようにしています。コロナ禍でリモートの割合が増えたのでスマートフォンは欠かせません。チームではアプリ上のグループチャットでコミュニケーションを取りながら采配しています」。リモートでありながら、生産性を上げてスピーディーに質の高いサービスを提供するのが顧客満足につながっている。
世界一の外商チームが目標
既に売れっ子外商として大活躍している吉村さんに、今後の目標を聞くと、「チャレンジなくして成長はないと思っています」という答えが返ってきた。顧客の要望があれば、それを固定観念にとらわれず、形にする、それがこれからの外商の役割だという。「海外ではパーソナルショッパーという言葉が通常でしたが、“ガイショウ”という言葉が海外でも使われるようになりました。“世界の在庫を見る”という気持ちで、お客さまの要望に応えて世界一の外商チームになりたいです」。また、吉村さんは販売員では想像できなかった華やかな世界に触れられることに感謝している。「百貨店が提供できる素晴らしい外商サービスを広めていきたいです」。