2022年春夏シーズンのコペンハーゲン・ファッション・ウイーク(以下、CPHFW)は、リアル&デジタルのハイブリッドなコンテンツに加え、CPHFWと提携を結んでいる国際ファッションフェアCIFF(COPENHAGEN INTERNATIONAL FASHION FAIR)も復活しました。環境保全に尽力するデンマークとあって、取材しているとどこに行っても“サステナビリティ”です。現地で出合った若手ブランドや企業をいくつかご紹介します。
姉弟によるクリーンなアップサイクル
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今季のCPHFWには、デンマーク発の3ブランドが初参加しました。初日のトップバッターは、18年創設の「ディヴィジョン(DIVISION)」です。デンマーク出身のナンナ&サイモン・ウィック姉弟(Nanna&Simon Wick)が立ち上げた、ユニセックスのストリートウエアブランドです。素材は全て古着を使用し、アップサイクルをデザインの核にしています。異素材の生地をつなぎ合わせたり、異なるボンバージャケットを組み合わせるなど、DIYのアイデアが詰まっていました。ミレニアル世代の姉弟は「新しい生地を購入するのではなく、倉庫に眠ったままの古着で洋服を作るのは自然なことだった」と語っていました。アップサイクルもDIYも見慣れた手法ではありますが、モデルのケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)やモナ・トゥガード(Mona Tougaard)が着用していることで現地では注目を集めたようです。ちなみにショーで足元を飾ったのは、パリ発のビーガンフットウエアブランド「ヴィロン(VIRON)」のシューズでした。
着る人が完成させるニットウエア
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2つ目は、ウィメンズのリブリットウエアブランド「エ ローエ ホーベ(A. ROEGE HOVE)」です。創設者のアマリエ・ ローエ・ホーベ(Amalie Roge Hove)は、デンマーク王立美術アカデミーでニットデザインを学び、「マーク ケンリー ドミノ タン(MARK KENLY DOMINO TAN)」と「セシリー バンセン(CECILIE BAHNSEN)」でテキスタイルデザイナーを経験し、19年に同ブランドを立ち上げました。イタリアやドイツのオーガニック素材を使用し、デンマークの伝統的なニットウエアの技術で生産しています。伸縮性の高いリブニットは着る人の体型によってシルエットが変わり、“ニットボディコン”なスタイルを生み出します。だから、ハンガーにかかっている状態では洋服のアウトラインは見えてきません。体の曲線に合わせてストライプが波打ったり、カットアウトが浮かび上がったりと、着ることでデザインが完成し、洋服としての機能を果たすというアイデアに興味をそそられました。
アップサイクルを無国籍ムードに
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3つ目は、CPHFW最終日にデビューコレクションを披露したニットウエアブランド「ルイーズ リン ビヤーゴ(LOUISE LYNGH BJERREGAARD)」です。デザイナーのルイーズはデンマーク出身で現在はパリに拠点を置き、7月のパリ・オートクチュール ・ファッション・ウィーク期間中にオフスケジュールでリアルのショーを実施。そして今季のCPHFWの公式スケジュールに参加し、本格的なデビューとなりました。彼女はロンドンの名門セント・マーチン美術大学(Central Saint Martins)でニットデザインを修了し、ニューヨーク拠点の「エコーズ ラッタ(ECKHAUS LATTA)」でテキスタイルデザイナーとして経験を積んだ後、自身の名を冠したブランドを立ち上げました。コレクションの70%は古着や廃棄布を使ったアップサイクルで、ゼロウェイストをポリシーに掲げています。ハンドニットの温かみと脱構築なデザイン、テクノ文化から影響を受けたコンセプチュアルなアイデアをミックスしたクリエイションです。彼女のスタイルには無国籍な雰囲気があり、特にガーリーでハッピームードのデイリーウエアが多いコペンハーゲンでは異彩を放っていました。今後コマーシャルピースをどのように構成するのか気になるところ。
バナナがバッグに生まれ変わる
国際ファッションフェアCIFFの取材では、持続可能な自然素材を自社生産するスイス・チューリッヒ生まれのブランド「クエスチョン(QWSTION)」に出合いました。注目は、独自開発したバナナの繊維を紡績加工した世界初のテクニカル素材バナナテックス(Banantex)です。バナナといっても食用ではなく、マニラ麻と呼ばれる同属の植物の樹皮が原料です。クリスチャン・カーギ(Christian Keagi)=共同創設者兼クリエイティブ・ディレクターは「この植物を使う利点は、化学肥料や殺虫剤なしで育ち、成長が早いこと。マニラ麻は古くから船舶のロープとして使用されるなど、耐久性・耐水性にも優れている」と言います。バナナテックスを使ったバックパックやPCカバーなどを制作しており、軽量なバックパックは耐荷重100kgという丈夫な作り。ハンドルには植物でなめした革、ファスナーなどの金属部品はリサイクル可能な軽量アルミニウムを使用しています。同社が台湾の紡績メーカーと約3年かけて共同開発したバナナテックスですが、今後も特許申請しない方針とのこと。「知的財産よりも、サステナブルな素材を業界で共有して、より良い未来と環境作りに重きを置いているから」と理由を語っていました。
二次流通市場参入を狙う新企業も
二次流通や中古品市場が著しく成長する中、最近増えているのがリコマース(再販)事業です。CIFFでは、今年4月に始動したばかりのBtoBスタートアップ企業のクリエイト・トゥ・ステイ(Create 2 Stay)にも話を聞きました。同社と提携したブランドは、値札と表示タグにQRコードが付与されます。購入者は新品か中古の洋服を売りに出す際、QRコードをスキャンして申請すると、同社が製品の受け取り、在庫管理やクリーニング、中古オンライン販売、配送まで、二次流通を一括してくれます。新品で製品を購入する際は、後に売りに出したらどれぐらいの金額で再販される価値があるのか表示し、購入者は二次流通前提で購入できるという仕組みです。提携したブランドは、製品がリコマースで売れたらマージンを受け取ることができます。洋服を循環させる方法でもありますね。同社のモーテン・リネット(Morten Linnet)共同創設者は「二次流通市場のアイクティブなユーザーである、ミレニアル世代とZ世代を対象にしたブランド向けのサービスである。再販価値を事前に知ることで新商品の購入意欲を促進しながら、所持品を手放す罪悪感も少ない。一つのアイテムのライフサイクルも延長させることができる」と説明してくれました。個人的には再販ありきで商品を購入するという考えに全く共感できませんが、活況な市場なのでリコマース事業の発展には引き続き注目しています。