Kawaiiカルチャーの伝道師として知られるアーティストの増田セバスチャン氏による展覧会「Yes, Kawaii Is Art」が、11月21日まで、大阪・北加賀屋で開催されている。増田氏の作品とアクティビストとしての活動を通して、“Kawaii”が持つ奥の深さと新たな可能性を体感する試みだ。アートの街として注目される北加賀屋の古いビルやリノベーション施設を活用した3つの会場を回遊しながら、世界に広がり続ける”Kawaii”を楽しめる。
家具の倉庫として使われていた第1会場の「kagoo(カグー)」には、2014年のニューヨーク・チェルシー展で発表し、フロリダ、ミラノ、アムステルダムを巡回した部屋型インスタレーション作品「Colorful Rebellion-Seventh Nightmare(反抗的色彩)」を展示する。7つの大罪をテーマに、世界中のカラフルな素材を貼って作り上げた作品に、新たなインスピレーションを反映した2つの部屋を加え、21年版として披露している。日本での一般公開は今回が初めて。増田氏は「自分の脳内を体験してもらおうと思って作った作品。Kawaiiというのは表面だけでなく、もっと内面に由来するものだと感じてほしい」と話す。
同会場には、京都芸術大学ウルトラファクトリーの「カラフル・ラボ」で学生たちと実施したリサーチプロジェクトの成果も展示する。戦後の少女文化から続くKawaii相関図や、世界に点在するKawaiiコミュニティの映像とともに、Kawaii文化の潮流やコミュニティの最新活動を一挙に公開している。
11月5日から公開される第2会場の「音ビル」では、今年2月に東京・北千住で開催された体験型作品「Fantastic Voyage」を刷新して上演する。音や言葉のイメージが散りばめられた空間を透明なカプセルに乗って移動する仕掛けで、参加者の深層心理に潜り込むような体験ができる。さらに、築60年の文化住宅をリノベーションした文化複合施設「千鳥文化」の第3会場では、15年から原宿のシンボルだった世界時計を中心に、現在と過去の時間軸が交差する作品を展示する。会期は11月12日~21日。関連イベントとして、14日にはオリジナルブランド「6%DOKIDOKI」のストリートファッションショーが行われるほか、12~14日にはポップアップショップも開く。
コロナで世の中が落ち込む中、増田氏は色彩で人々を勇気づけようと、世界中の「Kawaii Tribe(カワイイ一族)」に向けて声明文を発表。SNSやウェブなどデジタルを介して対話を続けてきた。
本展覧会を主催した理由について増田氏はこう話す。「コロナのようなパンデミックが起きたのは、世界が物質的に豊かになりすぎて疲弊したため。コロナ禍を機にそのことをもう一度考える必要があるんじゃないかと思った。そして自分の色を改めて見つめ直してほしい。物質社会の象徴でもある工場地帯の無機質なこの町を舞台に選んだ意図はそこにある」
木津川の河口付近の北加賀屋は、かつて造船業で栄えたが、工場の移転や高齢化による空き地、空き家問題が深刻化。町の再生をめざし、04年に始まったのが、近代化産業遺産の名村造船所大阪工場跡地などを活用したアートによる街づくりだ。
仕掛け人のおおさか創造千島財団事務局長の木坂葵氏は「増田さんのような世界中に広がるカルチャーを生み出したアーティストに、ここで展覧会をやりたいといってもらえるのがうれしい。地道に活動を続けてきたおかげでクリエーターやアーティストに注目されるようになり、おしゃれな若者や新しい店もここ3年で増えている」と話す。
10月16日から始まった秋のアートイベント会期中は、北加賀屋の各所で展覧会やトークイベントなどを開催。14日には、名村造船所大阪工場跡地の「クリエイティブセンター大阪」で、恒例のアート祭「すみのえアート・ビート2021」が開かれる。