2022年春夏シーズンのファッション・ウイークはリアルのショーが復活し、モデルたちが各国から再び集いました。今季はショー出演をかけた競争率が激しさを増す中、最も多くのブランドに起用されたのが、日本人の母とフランス人の父を持つ美佳さんです。パリとミラノ、ニューヨークの主要3都市で合計30ブランドのランウエイを歩き、モデル全体の中で出演数ナンバーワンに輝きました!ファッション・ウイーク中は美佳さんを見かけない日はなく、街中でも「モンクレール(MONCLER)」や「ロエベ(LOEWE)」の広告で目にしました。
表現の幅を広げる20歳
ランウエイデビューを果たしてから5シーズン、躍進が続く美佳さんが印象残っている今季のショーは「プラダ(PRADA)」と「トム フォード(TOM FORD)」だそうです。「両ブランドともに着る人を美しく、セクシーに感じさせてくれるルックだと思いました。特に『トム フォード』のグリーンのクリスタル付きヒールが好きでした。『プラダ』は、モデルになって初めてランウエイを歩いたブランドなので思い入れが強いんです。『デル コア(DEL CORE)』の霧がかった会場演出と、シルク素材のエレガントなルックもとても好みでした」。今季のムードは“日常の復活”や“再会”を祝福する明るいもので、美佳さんもバックステージでそのような印象を受けたといいます。「“Back to Work!”という雰囲気が強く、ひさしぶりにファッション・ウィークのいそがしさとドキドキ感、いい緊張感を直に感じることができました。才能ある人々と仕事をご一緒したり、仲間と遊んだりできるようになってうれしかったです」。逆に、ニューノーマルが浸透しつつある欧米間の移動は、不便なところもあったそう。「国によっては渡航が難しく、ビザの取得や空港での検査などでストレスは少しありました。でもいい調子で仕事をすることができましたね」。美佳さんは今年で20歳を迎えました。今季は女性性を謳歌するコレクションが多かったこともあってか、ショーによっては大人の色気を感じさせ、モデルとしての表現の幅が広がっているのかなと思いました。まだ大きな目標は定めていないそうですが、日系モデルを代表する一人として、これからの活躍にも期待です!
モデル以外にも才能を発揮
今季が3シーズン目となった日本人モデルの樋口可弥子さんもミラノとパリの2都市で11ブランドのショーに起用される活躍ぶり。ランウエイ以外でも「V マガジン(V MAGAZINE)」や、アメリカ版とイギリス版「ヴォーグ(VOGUE)」のエディトリアル、そして日本版「ヴォーグ」12月号では初の単独カバーを飾っています。樋口さんは「クロエ(CHLOE)」のショーが最も印象に残っているとのこと。「モデルの個性を際立たせるルックで、キャスティングも素晴らしかったです」。リアルなショーが復活し、各国のモデルが渡航を再開したことで変化も多くあったそう。「コロナ禍にデビューしたモデルの明暗がはっきり分かれるシーズンでした。過去2シーズンは引っ張りだこだったモデルが今季は全く起用されず、モデル業の厳しさを実感しました。通常の細身モデルの枠に分類される私は、痩せなければというプレッシャーを常に抱えているので、精神面のバランスを崩さないようにこれからも頑張ります」。今年からパリに拠点を移した彼女は、モデル業のほかにも高校時代の同級生と組んだバンド「お風呂でピーナッツ」でボーカルも務め、日本とパリの遠隔で音楽制作にも携わっています。22歳で海外生活スタートという私の個人的な経験とも似ていて、モデルでもほかの職業でも、未知なる可能性を多く秘めた若い彼女を今後も応援します。
「モデルズ.com(Models.com)」によると、今季デビューを果たした新人モデルは20人。デジタルが中心となった過去2シーズンでは6人ほどで、人数は増えたものの、東アジア拠点のモデルが著しく減少していてキャスティングに影響を与えていると記していました。20人の中に日本人、もしくは日系モデルはいませんでしたが、ショーで見て気になっていたのはグレータ・へーファー(Greta Hofer)とクアナ・ポッツ(Quannah Potts)です。
ベリーショートと強い目が魅力
グレータは、2021年春夏シーズンの「プラダ」のデジタルショーで初のランウエイデビューを果たしました。当時はエクスクルーシブのため他ブランドのショーには出演せず、今季が本格デビュー。新人モデルの中ではトップとなる15ブランドに出演しました。彼女はオーストリア・ウィーン出身の21歳で、昔のナタリー・ポートマン(Natalie Portman)を彷彿とさせるベリーショートとキリッとした目元が印象的です。ランウエイではミニマルなスタイルから1960年代風のヒッピーまで、各ブランドのムードに合わせて七変化していました。「AZファクトリー(AZ FACTORY)」のトリビュートショーでは、「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」のガーリーなドレスに、アンニュイな彼女の雰囲気が見事にマッチしていたのが記憶に残っています。
部族の伝統を継ぐ異色の新人
クアナは新人ながら「シャネル(CHANEL)」のキャンペーンに起用されました。ショー会場には5人のモデル、リリー=ローズ・デップ(Lily Rose Depp)、BLACKPINKのジェニー(Jennie)に並んで、クアナの写真が展示されていました。ショーでのエキゾチックな雰囲気の彼女が気になり調べてみると、アラスカとサウスダコタに現存する先住民族の血を引くアメリカ国籍とのこと。あごや目の横のラインはメイクではなくタトゥーで、アメリカ版「ヴォーグ」の取材に対し「部族の伝統で、人生の門出を記念して母親に入れてもらうもの。祖先と個人的なトラウマを克服することを表している」と答えています。2020年の「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」による投票の重要性を訴えるキャンペーン映像に登場したことがきっかけで、モデル事務所からスカウトされたそう。すでに各国の「ヴォーグ」のエディトリアルに登場し、今年の「メットガラ(MET GALA)」にも姿を見せました。アラスカの北極圏国立野生生物保護区の生態系の保護のために、気候変動活動家としても活動しています。身長170センチとモデルとしては高くなく、骨格や顔つきはアジアっぽくもあり、南米っぽくもある国籍不明な感じが魅力的です。個性を尊重し、インクルージョンを推進する今のファッションのムードにもぴったり。超マイノリティである先住民族の中から、世界的なモデルを発掘した「カルバン・クライン」のキャスティング力もすごいなと感心していましました。