「ユニクロ(UNIQLO)」は11月12日、デザイナーのジル・サンダー(Jil Sander)氏とのコラボラインである「+J」の2021-22年秋冬物の計74型を発売します(一部は12月上旬発売予定)。1年前の11月に9年ぶりの復活を果たし、激しい商品争奪戦も含めてファッション業界内外の話題をさらった「+J」ですが、復活後3シーズン目の今季をもって再度休止することが決まっています。発売日を前に、コラボ“第2章”と位置付けられた復活以降の反応や、21-22年秋冬の注目商品について取材しました。
まずは基本のおさらいから。「+J」はベーシックアイテムを現代的にアップデートしたデザインと、カシミヤ、スーピマ綿などの上質な素材、ポケットの内側や裏地など細部までこだわった仕様、それにも関わらず抑えられた価格といった点が支持につながっています。ただし、使用している素材メーカーや縫製工場は既存の「ユニクロ」商品と同じ。「+J」生産のための特別なルートがあるわけではありません。
素材メーカーも縫製工場も同じなのに、こんなにも世の中を魅了する商品ができるのはなぜなんでしょう。単にジル・サンダー氏のネームバリュー効果というだけでは、これだけ長期にわたって話題になり続けるなんてことはあり得ないと思います。「サンダー氏と組むとどんな魔法がかかるんですか?具体的に何が変わるんですか?」と、1年前のコラボ復活の際に、仕掛け人である勝田幸宏ファーストリテイリング執行役員ユニクロR&D統括責任者に聞いてみました。
サンダー氏の“千本ノック”で鍛えられるモノ作り
「(コラボによって何か複雑なことが突然できるようになるわけではなく)言われてみれば自分たちはそこまでは気が回っていなかったな、という部分にもサンダー氏から細かく指示やチェックが入る。それによって、同じ素材メーカー、同じ工場で作っても、できあがる素材、商品は全く別のものになる」というのが勝田執行役員の答え。サンダー氏からの指示は細かく多岐にわたり、「サンダー氏は『もっともっとできる!』と徹底的に追求していくので、まるで“千本ノック”のよう」と語っていたのも非常に印象的でした。
つい先日、ショールームで勝田執行役員に偶然お会いしましたが、その際も「(発売日を間近に控えた今も)サンダー氏から細かい確認事項が飛んできて、引き続き“千本ノック”ですよ」と話していました。続けて、「だからこそいい商品になっている」とも。
ユニクロにとっての「+J」の意義は、まさにここなんだと改めて思います。話題性や、コロナ禍以降の絶好調から近頃やや変調を来している売り上げへの起爆剤という面ももちろん大きいでしょうが、何よりもサンダー氏の“千本ノック”によってモノ作りが鍛えられ、その徹底追求の姿勢が通常ラインの商品にも基本のマインドセットとして埋め込まれていく。そうやってあらゆる商品にさらに磨きがかかっていくんだと思います。実際にボタンダウンシャツなどは、09年の「+J」の取り組み開始以降、通常ラインの商品もすごく変わったように個人的には感じています。
売れ筋筆頭はダウン、新顔はダッフルコート
“千本ノック”で磨かれたモノ作りへの自信や、復活後過去2シーズンの反響の大きさから、21-22年秋冬物は全店で販売する商品やフルラインアップ販売店舗をかなり増やしているそうです。「国内のフルラインアップ販売店舗は1年前の48店から今季は234店に拡大し、各都道府県に少なくとも1店は設けている。全店販売商品も、1年前から約2倍に型数を拡大した」と広報担当者。全店販売商品は、従来はシャツやベーシックなカットソーなどが中心でしたが、今季はダウンアウター(一部)、MA-1、ニットカーディガン、前シーズン好評だったというスエット類など、かなりバリエーションを広げています。
21-22年秋冬の「+J」は、「伝統的なアイテムをモダンに解釈する」というテーマ(これは今季に限らず、「+J」に通底するテーマだなとも思います)のもと、メンズで初めて登場したダッフルコートが既に話題になっています。ただし、秋冬の「+J」の売れ筋筆頭であり、稼ぎ頭と言えばやはりダウン。1年前は、薄くて軽くて暖かい“ウルトラライトダウン”仕様のアウターを出していましたが、今季のダウンは“ウルトラライトダウン”はあえて使用せず、よりボリュームのある構築的なシルエットを追求しているといいます。例えば、サンダー氏が「こだわりのディテールを詰め込んだアイテム」として挙げているというウィメンズのダウンショートコート(1万9900円、12月上旬発売予定)も、メンズのオーバーサイズダウンパーカ(1万7900円)も、フード周りなどが非常にボリューミーで立体感のあるシルエットです。
21年春夏に「想定以上の好調さ」で、今季は全店で販売する中核商品となったスエット類も、フード部分だけ素材を切り替えてポイントにしていたり、後ろ身頃にグログランテープをたたいていたりと、派手ではないですが細かなこだわりがたっぷり。ほかにも、ガッシリ見えがちなウィメンズのPコートは肩やウエストをコンパクトに抑えるカットでメリハリをつけていたり、メンズのMA-1はすっきり見せたい袖部分は発熱機能素材の中綿を使い、身頃部分にはダウンを使うというユニクロ流の“ハイブリッドダウン”仕様が取り入れられていたりと、商品1点1点に語れるストーリーが詰まっています。