「WWDJAPAN」ポッドキャストシリーズの新連載「考えたい言葉」は、2週間に1回、同期の若手2人がファッション&ビューティ業界で当たり前に使われている言葉について対話します。担当する2人は普段から“当たり前”について疑問を持ち、深く考え、先輩たちからはきっと「めんどうくさい」と思われているだろうな……とビビりつつも、それでも「メディアでは、より良い社会のための言葉を使っていきたい」と思考を続けます。第9弾は、【フェムテック】をテーマに語り合いました。「WWDJAPAN.com」では、2人が対話して見出した言葉の意味を、あくまで1つの考えとして紹介します。
ポッドキャスト配信者
ソーンマヤ:She/Her。入社2年目の翻訳担当。日本の高校を卒業後、オランダのライデン大学に進学して考古学を主専攻に、アムステルダム大学でジェンダー学を副専攻する。今ある社会のあり方を探求すべく勉強を開始したものの、「そもそもこれまで習ってきた歴史観は、どの視点から語られているものなのだろう?」と疑問を持ち、ジェンダー考古学をテーマに研究を進めた。「WWDJAPAN」では翻訳をメインに、メディアの力を通して物事を見る視点を増やせるような記事づくりに励む
佐立武士(さだち・たけし):He/Him。入社2年目、ソーシャルエディター。幼少期をアメリカ・コネチカット州で過ごし、その後は日本とアメリカの高校に通う。早稲田大学国際教養学部を卒業し、新卒でINFASパブリケーションズに入社。在学中はジェンダーとポストコロニアリズムに焦点を置き、ロンドン大学・東洋アフリカ研究学院に留学。学業の傍ら、当事者としてLGBTQ+ウエブメディアでライターをしていた。現在は「WWDJAPAN」のソーシャルメディアとユース向けのコンテンツに注力する。ニックネームはディラン
若手2人が考える【フェムテック】
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「フェムテック(Femtech)」とは、女性および非男性の健康のために新たに開発された商品やサービス、ソフトウエアなどを指す。女性や女性性の語源である“フェム(fem)”と、“テクノロジー(technology)”を合わせた造語。生理期間をより快適に過ごすためのサニタリーアイテムや月経周期の記録アプリ、子宮や膀胱を支える骨盤底筋を鍛える膣トレアイテム、安全で楽しい性のためのセクシャルヘルスにまつわるものなどが含まれる。日本でなじみのある生理日管理サービス「ルナルナ」は実はその先駆けだ。
「フェムテック」という言葉が生まれたきっかけは、ドイツの月経周期を管理するアプリ「クルー(CLUE)」の資金調達をめぐってのこと。投資家の多くが男性であることで、“生理”“経血”にまつわるサービスがなかなか重要視されずに苦戦していたことから、イダ・ティン(Ida Tin)最高経営責任者が2013年にフェムテックというカテゴリーを設けてその大切さを訴えた。男性以外の性にまつわる健康問題やニーズが見過ごされていることやビジネスの世界が男性中心であること、女性主体の性に光が当たらないこと、タブー視されてきたことなどさまざまな社会的要因から立ち上がった言葉だ。
提唱当初はアプリと連動したサービスなど、IT的な”テクノロジー色”が濃いものが主流だったが、21年現在は悩みを解決するためのテクノロジーとして幅広い製品を指すようになっている。ラフォーレ原宿に店舗を構えるラブピースクラブ(LOVE PIECE CLUB)や、“未来の日用品”を扱うニュースタンドトーキョー(NEW STAND TOKYO)、オンライン専門のフェルマータ(FERMATA)などのフェムテックストアでは、吸水ショーツや月経カップといったサニタリーアイテムからプレジャートイ、書籍などが並ぶ。吸水ショーツもレースなどを施したデザイン性に凝ったものから、ジェンダーレスでシンプルなボクサー型などの選択肢が年々増えている。
しかし21年4月には、ドイツで男性起業家と投資家らがタンポンなどの生理用品を“手を汚さずに”交換処理できるとしてピンクの手袋をフェムテックと呼んで販売した事例も。これは生理をタブー化していることや、生理のある人に対して、ない人が「こうするべきだ」と指南してしまっているためマンスプレイニング(男性が女性を無知だと決めつけて知ったかぶること/男性が当事者でないトピックに関しても上から目線で説教する仕草を指す言葉)だと批判が殺到した。ビジネス的視点で金銭的利益のみを求めて作られ、使用者のことを第一に考えていなかったり、フェミニズム的パーパスを持ち合わせていなかったりするケースは非難の対象となる。
フェムテックというサービスや製品、ストアの存在そのものが女性・多くのセクシュアリティーをエンパワーする(鼓舞したり、勇気づけたり、力の源となること)という性質を持っていて、悩みや存在を可視化する役割を持ち合わせている。一方で、医療機関に代わるものではなく、自力で体の不調を解決した方が良いと推奨しているものではないという考えの浸透も大切だ。ゆくゆくはこういった健康問題への意識の向上に合わせて、子宮に関する項目が含まれていない健康診断制度や生理休暇の取りづらい労働環境といった仕組みの変革、性を恥ずかしいものとせず、安全性を教える性教育の発達にも期待をする。
【ポッドキャスト】
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