ユニクロは11月12日の「+J」2021-22年秋冬コレクションの発売に合わせて、「+J」を手掛けるデザイナーのジル・サンダー(Jil Sander)氏と、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長への一問一答を公開した。「+J」は09年にスタートし、休止期間を経て9年ぶり20-21年年秋冬に復活。21-22年秋冬をもって再度休止することが決まっている。
Q1. 09年〜11年の「+J」の“第1章”と、20年からの“第2章”との間で、自身や「+J」、ユニクロの変化した点、変わらない点は何か。
ジル・サンダー(以下、サンダー):09年の時点で、ユニクロは「+J」を成功させるための最高の品質、素材に対する研究、優れた職人技術に基づく生産ノウハウや物流の仕組みを持っていた。その後ユニクロは世界中に店舗を持つ真のグローバル企業へと大きく成長し、大量生産と高い品質は両立できると証明した。20年に「+J」を再開すると同時にコレクションもより磨かれ、世界中の多くのお客さまにリーチできたのはとても嬉しいこと。「+J」がミッションとしてきた、モダンでグローバルなユニフォームと新たな価値、スマートかつ控えめで丁寧に作られた現代的なシルエットをお客さまに提供できたことは、私にとって大きな喜びだ。
ユニクロのチームは年々、よりプロフェッショナルになっている。彼らはコラボ当初から非常に気配りがあり、新しい手法を生み出すことにとても協力的だった。私は日本の文化や日本人の仕事への向き合い方、品質に対するこだわり、高い要求に応えようとする姿勢、革新しようとする意欲、必要に応じてゼロからの出発もいとわないあり方に、強い親近感を抱いている。
柳井正ファーストリテイリング会長兼社長(以下、柳井):サンダーさんの指摘の通り、変化した点はユニクロのビジネス規模だ。09年当時にユニクロが出店していた国・地域は8つだったが、20年には25にまで広がった。また、ユニクロの品質やサービスに対するお客さまからの信頼も、よい方向へと変わっているのではないかと自負している。
一方で不変なことは、サンダーさんの服作りへの情熱、クオリティーへの探求心、そして時代を捉える鋭い感覚だ。ユニクロも、お客さまの声に応えるためにあらゆる努力を行う姿勢は創業以来不変のものだ。それがクオリティーやサービスの追求につながっている。 サンダーさんと長きにわたるコラボレーションが実現できたのも、お互いの基本的な理念に一致点が多かったからではないかと考えている。
Q2. 復活以降の3シーズン(20-21年秋冬、21年春夏、21-22年秋冬)で、最も心に残っている商品は何か。
サンダー:何年にもわたって私たちがデザインしてきた、すばらしいコートのコレクションが特に好きだ。時代を超越したモダンさや主張のある品質、そしてユニクロの力によって実現した手に取りやすい価格帯が気に入っている。
柳井:ダウンをモダンにアップデートしていただいたことが印象に残っている。また、サンダーさんならではのニットのバリエーションとディテールに感動し、個人的に何枚も購入した。この先も長年愛用していくことになるだろう。
「ユニクロのチームは年々プロフェッショナルになっている」(サンダー氏)
Q3. お互いについてどう思っているか。
サンダー:柳井さんには間違いなく先見の明がある。常に進化を続け、より高い目標に取り組み、同時代の人々のニーズや要望を研究して常に予測をしてきた最高の企業家だ。「+J」という大胆なコンセプトを実現するためのパートナーとして彼と出会えたことは、私にとって大きな幸運だった。私が見る限り、柳井さんは起業した当初と変わらず誠実で良心的な人だと思う。彼の頭の中には、早くからサクセスストーリーがあって、自分の信じる道を決して疑わなかったのだろうと思う。
柳井:ユニクロの理念の一つに「Simple Made Better」という言葉がある。サンダーさんはまさにそうした考え方の先駆者だが、シンプルで美しい服というものは、細部への飽くなきこだわりがないと成立しない。私たちはサンダーさんと取り組むことで、そのことを確信した。サンダーさんはたぐいまれな美意識と情熱を持った天才であると同時に、タイムレスかつ究極のスタイルを長年創り続けることがきる唯一無二の人だと思う。
Q4. コロナのパンデミックでは何を思い、何を感じたか。
サンダー:自然の大切さをより感じた。田舎ではコロナ禍中も自由に動けるし、庭の美しさは私たちを楽観的な気持ちにしてくれる。植物の世話をしたり、森や草原を長く散歩したりするのはよいことだと感じている。コロナによって私たちは東京に行くことができず、コレクションは全てデジタルベースで作られたが、結果的にオンラインでの仕事は大きな問題にはならず、うまく進んだ。ユニクロとわれわれが継続的にコラボレーションを重ねてきて、お互いのチームが親密だったからこそできたのだと思う。私たちはお互いをよく知っており、信頼し合っている。「+J」に取り組むことで私は集中力を維持することができ、コロナ禍がもたらした精神的・社会的な変化について考えることができた。この期間を通して、私たちは恵まれた文明と、困難な挑戦から抜け出すために蓄積したノウハウに、より謙虚に感謝するようになった。
柳井:コロナの蔓延により、世界が深くつながっていることを改めて認識した。 世界中のほとんどの企業は、この危機をチャンスと捉えることができるか問われたのではないか。(コロナ禍を通し)うわべだけのものは通用せず、本質的なものがさらに求められるようになった。
「いつかまた一緒に世界をワクワクさせたい」(柳井会長)
Q5. 09年以降の12年間の関係において、お互いに得たもの、未来に生かしたいものは何か。
サンダー:私にとって「+J」プロジェクトとは、ハイファッションでの経験を生かした品質と、洗練されたデザインを備えた魅力的でモダンなユニフォームを、目の肥えた現代的なお客さまに提供することだった。 そして、服を通して、世界中の人々が自己肯定感を持ち、共通の目標に取り組めるようサポートしていくことを目的としていた。非常に要求の多いコレクションを、ユニクロがすばやいスピードで世界規模で生産することができたのは、私にとって非常にうれしい驚きだった。
柳井:サンダーさんのビジョンとハイファッションでのノウハウを、ユニクロの品質へのこだわりと生産力をもって民主化したものが「+J」だと考えている。サンダーさんの本質を世界のあらゆるお客さまにお届けできたことは、ユニクロにとって大きな自信となった。サンダーさんの服作りに対する真摯な姿勢を今後も忘れることなく、私たちのさらなる成長の糧にしたいと考えている。
Q6. 最後に、お互いにエールとなる一言を。
サンダー:これからも柳井さんのアイデアにはずっと注目していくと思う。そして、柳井さんがグローバルなビジョンをさらに発展させてくれると確信している。柳井さんが私や私のチームを信頼してくれたこと、そうした信頼を通して生まれたすばらしいコラボレーションに感謝すると共に、柳井さんの今後の活躍を祈っている。今、私たちは一つの章を閉じるが、未来がどういったものになるのか楽しみにしている。
柳井:サンダーさんのあふれんばかりの情熱やクリエイティビティーが、今後どこに向かっていくのか非常に興味がある。サンダーさんのクリエイションはタイムレスだが、さらに新しいものを創造していかれることを期待せずにはいられない。そして、いつかまた一緒に世界をワクワクさせたいと思っている。