躍進の背景は巣ごもり需要だけではない。ダイソー、セリア、キャンドゥなどの100円ショップ、あるいは「無印良品」「イケア」「ニトリ」といった生活雑貨に強い専門店とどう差別化するか。2年前から進めた「スリコ」の地道な改革がコロナ下で花開いた。
中心顧客の「大人の女性」に照準をあてる
今月12日、原宿の明治通り沿いに「スリーコインズ」初の旗艦店が開店した。倉庫をコンセプトにした448平方メートルの広々とした売り場に、キッチン用品、バス・トイレタリー、インテリア雑貨、服飾雑貨、パーティーグッズ、軽家電、食品などが、わかりやすく分類されて並ぶ。がちゃがちゃとしたプチプラ雑貨店のイメージに対して、売り場も商品も洗練されて落ち着いた雰囲気だ。
実は2年前からMDを見直してきた。
きっかけはEC(ネット通販)のスタートだった。詳細な購買データが集まるようになり、顧客分析が進んだ。もともと「スリーコインズ」は若者向けのアパレルを主軸にするパルが、20代の若い女性向けに作った雑貨店である。だが、事業開始から四半世紀が過ぎ、実際の顧客年齢は20〜30歳が28%、31〜40歳が33%、41〜50歳が27%と幅広くなっていた。中でも最大の顧客層は30代後半の女性であることがデータで裏付けられた。
肥後俊樹ブランド長は「『スリーコインズ』は若い女性のかわいい雑貨のブランド。売る側の私たちにもそんな思い込みがあった。でも実際は、大人の女性が暮らしに溶け込むような、便利でおしゃれな商品を探している」と考えるに至った。
それまでは100円ショップの3倍の価格に納得してもらうため、商品によっては「量」で対抗してきた。箸のセットであれば本数を多くし、食器であればカラーバリエーションで圧倒した。だが、大人の女性が求めているのは300円で得られる「質」の満足感だった。商品を抜本的に見直す必要がある。中国などの取引先メーカーが提案する商品に依存せず、自社企画の商品を増やしていった。
稼ぎ頭になった美容家電とスマホ周辺機器
まず基本領域の一つであるキッチン用品から取り掛かった。ポップなデザインではなく、落ち着いたトーンのシンプルなデザインに移行した。キッチンの中で過度に主張せず、溶け込む。それでいて何かしらの機能性を加える。代表的なヒット商品が食器洗剤用ボトルだ。スポンジを持ったまま上部のパーツを片手で押せば洗剤が出てくる優れもの。2年近くで累計150万個以上を売った。
300円以上の軽家電にも挑戦した。特にスマートフォンの周辺機器は今や稼ぎ頭に成長した。ケーブル(税込330円〜)や撮影用のLEDライト(同1650円)も人気だが、最大のヒット商品はワイヤレスイヤホン(同1650円)だった。20年3月から累計販売数がもうすぐ100万個に届く。
今年3月に本格始動した化粧品に続き、7月からは美容家電も始めた。ウォーターピーラー(同2200円)、ホット&クールフェイスケア(同3850円)など、同店の中では高額品も良く売れている。家電ブランドの製品なら、それなりの価格になる美容家電が気軽に買えるため、後述するSNSの反響が大きかった。化粧品と美容家電はオリジナルブランド「アンド・アス(AND US)」として強化している。
アイテムの幅を広げるのと並行して標準店舗面積も広げた。従来の165平方メートルから、現在は264〜330平方メートル以上を拡大中だ。什器や陳列も工夫して、商品が300円以上に「高見え」するようにした。所狭しと大量の商品を詰め込んだ売り場ではなく、ゆったりした環境でじっくり品定めしてもらう。結果として買い上げ点数や客単価は上がる。
SNSとテレビが増幅して集客へ
衣食住にかかわる2000種類ものアイテムを扱う「スリーコインズ」は、顧客の間口が広い。さまざまな種類の口コミが威力を発揮する。手頃で機能的な新商品は、インスタグラムやユーチューブなどのインフルエンサーを通じて、使い勝手の良さが次々に拡散されていった。レンジで使える保存容器、ルームシューズ、美容家電、ハロウィングッズなどが話題に上がり、月替わりでヒット商品が生まれる。
SNSの盛り上がりをきっかけにテレビの情報番組での露出も増えた。巣ごもり生活を楽しむアイテムとして、「テレビでの紹介本数は今年上期(3〜8月)だけで、全国・ローカル合わせて90本以上。コロナ前に比べて2倍以上になった」(PR担当の矢八有香子さん)。テレビで紹介された美容家電やキッチン用品が再びSNSによって増幅され、全国の店舗に新しい客が押し寄せる。そんな好循環の波が定期的に起きている。
「スリーコインズ」は原宿旗艦店の出店にあたって、モラージュ菖蒲店(埼玉県久喜市)の店長だった炭本真衣子さんをスタッフインフルエンサーに抜てきした。炭本さんはインスタグラムのフォロワー数が9万超。店舗としてSNSマーケティングの発信力を強化するが、あくまで炭本さんが個人的に気に入ったものを紹介する姿勢を維持し、計画的に商品を積み増しすることはしない。「私が本当にすすめたい商品でなければ、お客さまに響かない」(炭本さん)からだ。ブランド公式アカウントの150万のフォロワーも活用していく。
軸はあくまで300円に置く
コロナ下で安定した集客力を持つ「スリーコインズ」には、大手ショッピングセンター(SC)も秋波を送る。従来よりも人通りの多い区画や広い区画を用意してくれるようになった。これがさらなる新規客の獲得につながる。現在の227店舗は来年春には250店舗前後になる見通しだ。
出店拡大と同時に、引き続き商品のテコ入れを続ける。
第一に服飾雑貨、化粧品、食品の強化である。最近は税抜300円以上の軽家電などが売上高をけん引する傾向にあったが、「軸はあくまで300円。ここの価値をどう高めていくかで勝負する。軽家電など上の価格帯を増やしたことで、逆に300円の立ち位置と強みを再認識した」という。300円以上の商品比率は最大でも3割にとどめる。
特に「ファッション屋が作る雑貨」(パルグループホールディングスの井上英隆会長)という原点に返り、タイツ、靴下、ストール、手袋など定番品だけれども良さが十分に伝わっていない服飾雑貨をテコ入れする。化粧品や食品といった新しいカテゴリーは消耗品のため、来店頻度を増やす呼び水になる。
第二に男性客の拡大だ。現状、男性客は1割程度に過ぎない。スマホ周辺機器やキャンプ・アウトドアの関連商品などの拡充で、「スリーコインズ」を利用したことのない男性客を呼び込む。内装を落ち着いた雰囲気にしたのも、そんな狙いがある。
低価格を売りにするプチプラ雑貨は、為替や原材料高騰など逆風も吹いているものの、新規客の大幅な増加が何よりの追い風になっている。十分に開拓できていないカテゴリーや顧客層も多い。これらにリーチできれば、市場での存在感をさらに高められるというのが肥後ブランド長の見立てだ。