国連のSDGs(持続可能な開発目標)で、目標の一つに掲げられているジェンダー平等。女性の地位向上に関する取り組みを行っている企業は増加しているものの、比較的ジェンダー平等が進んでいるというイメージがある米国においても、管理職や経営層における女性の割合はなかなか高くならないという。企業側は目標達成に向けて努力しているとしているが、そうであるならば、現在の取り組みが本当に効果的なものなのかを検討し直す必要があるのかもしれない。
家具やインテリア用品のEC企業ウェイフェア(WAYFAIR)のケヤナ・シュミードル(KeyAnna Schmiedl)=カルチャーおよびインクルージョン部門グローバルヘッドは、「現在の会社組織や職場環境は女性が社会進出する以前に構築されており、そもそも女性がいることを想定していないという点について、まず立ち止まって考えてみるべきだ。これまでの取り組みは、そうした(男性のみを想定して作られた)組織に女性を同一化させる方向で行われてきたが、誰にとっても働きやすい環境とは何かを一から検討し直す必要があるのではないか」と語る。同社では、アソシエイト・ディレクター職(日本企業の部長や次長に相当)における女性の割合は25%程度だったが、これを6カ月で32.8%に向上させたという。
著名な国際法学者および政治学者で、シンクタンクのニューアメリカ(NEW AMERICA)の最高経営責任者(CEO)であるアン・マリー・スローター(Anne-Marie Slaughter)は、非営利団体TED(Technology Entertainment Design)主催の講演会TEDトーク(TED Talks)に2014年に登壇した際、以下のように述べている。「男性が設定した男性向けの条件に基づいて女性を評価することは、真の意味での平等とは言えない。真の平等とは、同等に尊重されるより幅広い選択肢を、女性と男性の両方に向けて作ることだ。そのためには職場、政策、カルチャーを変化させなければならない」。
シュミードル=グローバルヘッドは、「真の意味での平等や公平の実現には時間がかかる。これまで資金が投じられなかった分野に投資する必要があるからだ。また、なぜ指導的な立場にいる女性が男性より少ないのかについて調査すると、構造的な問題が見えてくる。男性が男性のために設計した制度が土台となっているので、女性は最初から不利な立場となってしまう」と説明する。
身近な例では、トイレの問題が挙げられるだろう。同氏は、「人体の構造上、女性のほうがトイレに時間がかかる。多くの職場や建物では、ジェンダー平等の名の下、男性だと自認する人と女性だと自認する人向けのトイレを同数設置しているが、これでは後者のトイレだけが混雑してしまう。人体の構造上の違いを踏まえて、女性だと自認する人向けのトイレを多く設置することこそが真の意味での“公平なアプローチ”だと言える。本来は、こうしてスタートラインをそろえないと公正に比較できないはずなのに、それをせずに(男性と女性の)実力や能力を比べているのが実情だ」と述べた。
“女性=白人で異性愛者の女性”ではない
社会的に期待される役割の違いから、女性は男性であれば考えなくてもいい問題に直面することも多い。家庭と仕事の両立はその最たるものだろう(本来、男性もこれを考える必要があることは言うまでもない)。配信サービス会社でプログラミング・マネジャーを務めるユーニス・クエバス(Eunice Cuevas)は、「結婚して子どもがいる女性は、取引先との会食と子どもとの時間をてんびんにかけなければならないことがある。こうした“歓迎されていないと感じる環境”で公平性を実現するには、女性にフォーカスした支援プログラムなどが必要だと思う」と話した。一方で、「私はエンターテインメント業界で働いているからか、職場に女性が多く、指導者的な立場に就いている女性も少なくない。そのため性差別を感じたことはあまりないが、白人の同僚と同等に扱われていないと感じることがあった」と言う。
多様性や包括性の推進を考える際の重要な概念の一つに、“インターセクショナリティー”がある。これは人種、ジェンダー、性的指向、経済的および社会的な階層、障害の有無などのさまざまな属性が組み合わさることで起こる差別を可視化し、理解するのに役立つものだ。例えば黒人女性で同性愛者である場合、人種差別、性差別、同性愛に対する差別を同時に受けることになるため、白人女性の同性愛者が経験する差別とは異なってくる。上述のクエバス=マネージャーは、性差別と同時に人種差別の壁があったと言えるだろう。
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