「ゾゾタウン」と「楽天ファッション」という2大ファッション通販サイトが同時期に、大阪と東京でそれぞれリアル店舗をオープンした。「楽天ファッション」は11日から、渋谷スクランブルスクエア5階に「楽天ファッション」に出店する30ブランドのアイテムを集積したショールーム型の期間限定店をオープン。一方「ゾゾタウン」を運営するZOZOも17日から、阪急うめだ本店9階に同社のD2Cブランドのアイテムを集積した期間限定店をオープンした。両社はともに今秋から、リアル店舗を支援する大型プロジェクトも始動させており、ネット通販の両雄がリアル店舗を舞台に、新たな攻防をスタートしている。
「楽天は本気です。このために、2年がかりでシステムを作り上げた」――「楽天ファッション」は今秋、リアル店舗支援のプラットフォーム「楽天ファッション オムニチャネル プラットフォームRakuten Fashion Omnichanel Platform以下、RFOP)」のサービス提供をスタートした。「楽天ファッション」を率いる松村亮・楽天グループ執行役員コマースカンパニーヴァイスプレジデントは、今秋から提供を開始する「RFOP」について、「ユーザーとなるアパレル企業にとってみれば、実際に在庫一つ一つの運用に関わること。データを動かすだけの話じゃないのは十分すぎるほど理解している。地味で泥臭い作業の積み重ねになる。しかし、だからこそ楽天がやる意義がある」と語る。
「楽天ファッション」という売り場にとどまらず、在庫の一元管理を目的に、場合によっては顧客への配送までを含めた物流全般にかかるシステム提供は、楽天グループが総力を挙げて「リアル店舗を支援する」という意思と覚悟の現れと言える。楽天は「RFOP」の立ち上げにあたっては、EC支援の有力企業であるAMSとダイアモンドヘッド、さらにはアパレル物流の大手フローメーカーズとも提携した。フローメーカーズは、もともと店舗向けのアパレル物流を手がけてきたが、この数年はEC向けの倉庫物流も強化する中で独自開発のWMS(Warehouse Management System、倉庫管理システム)を外部提供するなど、アパレル物流まわりのキーになる企業だ。一部のアパレル関係者にはよく知られた存在だったが、従来は楽天のようなECモール運営企業には無縁の存在。「RFOP」を作り上げるため、フローメーカーズのような黒子のキー企業に行き着き、そして巻き込んだところに、楽天の本気度が伺える。
一方のZOZOは10月28日、リアル店舗支援のプラットフォーム「ゾゾモ(ZOZOMO)」を発表した。「ゾゾタウン」の出店テナント企業の各店舗の店頭在庫を表示し、ZOZOユーザーへ取り置きサービスを提供する。同サービスはリアル店舗への送客を促すもので、基本的には有料サービスではあるものの、当面は参加企業に「無料」で提供する。ZOZOにとってリアル店舗への送客は、そのまま機会損失に直結するが、それ以上に「リアル店舗へ向かうトラフィックを取り込む」(澤田宏太郎ZOZO社長CEO)という狙いがある。
「たとえ売り上げを犠牲にしても、トラフィックを」と考える背景には、ZOZOの重要な戦略転換がある。「ファッションを売るならZOZOから、”ファッションのコトならZOZO”を目指す。『ゾゾタウン』には、これだけは他社のECモールにはないという特徴がある。それが『見ていて楽しい』というもの。だったらアクセルを踏んでもっと楽しくしてしまえ、ということ」「UU(ユニークユーザー)数を、この1〜2年で数十%は増やしたい。UUを上げると、コンバージョン(購買率)が下がるという相関関係があり、バランスを取ってきましたが、それをある程度は無視してもUUを取りに行く」とZOZOの澤田社長は語る。ZOZOは、リアルにしろ、ネット通販にしろ、ショッピングの起点となるユーザーの”購買意欲”から、トラフィックを取り込む。ユーザーの購買行動に関して日々緻密な分析を積み上げてきたZOZOは、「ゾゾモ」を通じ、これまでなかなか取り込めなかったリアル店舗導線のトラフィックを新たな金脈に位置づける。
2019年9月のZOZO創業者、前澤友作氏の退任を号砲かの如く、ほぼ同時期に東コレの冠スポンサーへの就任を発表した楽天は、以降ファッション分野への強化にひた走ってきた。両社はラグジュアリーブランドを集積したサイトの開設や、主力サイトである「ゾゾタウン」「楽天ファッション」の大型リニューアルなど、競い合うかのように同様のプロジェクトを行ってきた。今回も、ほぼ同時期にリアル店舗支援や期間限定店のオープンと、リアルに向けた大型プロジェクトを本格始動した両社だが、物流を含めたサプライチェーン改革に取り組む楽天と、新たなトラフィックデータの取り込みに力を入れるZOZOと、奇しくも方向性は対照的だ。リアル空間を舞台にした両雄の対峙、第二ステージの行方に注目だ。