“売らない小売り”の先駆け的存在である米国発の「ベータ(B8TA)」は11月15日、東京・渋谷に国内3店舗目となる常設店をオープンした。新店は、北川卓司ベータ・ジャパンCEOが「より進化した体験型ストアを見据えた実証実験店舗、“ベータ1.5”」と表現する店であり、食分野への注力がポイント。試食試飲ができるほか、初のカフェも設置している。本国である米国では最新ガジェットの店というイメージが強いが、日本ではビューティ関連企業からの引き合いも高く、今回の食分野への拡大も含め、ガジェットに限らない形で独自進化中だ。
渋谷店があるのは、宮益坂下交差点に面する一等地。1フロアで、共用部分も含む面積は約240平方メートル。入店すると、まず日産のEV車「ARIYA」がどんと鎮座している(12月28日まで)。奥に進むと、2020年8月にオープンした「ベータ」の有楽町店、新宿店と同様に、出展企業の商品が並ぶ40センチ×60センチ四方のブースが連なる。
出展商品で目を引くのはやはり食品だ。ヴィーガンの餃子に、砂糖や人工甘味料不使用というグラノーラ、“マインドフルネスコンテンツ”の一部として、お香とセットで楽しむことを打ち出すお茶など、百貨店食品フロアやスーパーなどではあまり目にしない、もしくは埋もれてしまって気付きづらい商品が中心。渋谷店専用のアプリをダウンロードしてアンケートに答えれば、試食試飲が可能になっている。
ビューティ企業の出展も引き続き盛ん
試しにヴィーガン餃子のアンケートに答えてみた。回答終了画面をテスター(店頭スタッフのこと)に見せるとカフェカウンターに案内され、テスターが冷凍餃子1個をレンジでチン。カウンターで食べている間も、テスターが商品や店内についていろいろ教えてくれる。カウンターは試食試飲用であると同時に、オリジナルローストのコーヒーやカフェラテ、エスプレッソなども提供。価格は1杯500円前後で、オープン時はアプリをダウンロードすれば1杯88円で楽しめる。
取材時は約40社が出展しており、そのうち14品の試食試飲が可能。日本初上陸だという、米国発のラーメンの次世代自動販売機「Yo-Kai Express」のマシーンも見どころの一つだ。食品は今後も少なくとも9品を常時展示するという。「食という、より身近なカテゴリーの出展を増やすことで、新しい客層にも興味を持っていただける。食品企業からはもともと出展の引き合いが多数あり、これまでも個包装の菓子などをサンプリングしたことはあったが、さらにニーズに応えるために新店は給排水設備の整った環境にした。人通りの多い立地なので、カフェとしての日常使いも期待している」と北川CEO。
食品とほぼ同数出展しているのがビューティ&リラクゼーション関連で、ガジェット類よりも存在感は大きい。SNSで大人気の「デンキバリブラシ」や美顔器機能を備えているというヤーマンのドライヤーなどのほか、ダンス用品の「チャコット(CHACOTT)」のコスメラインなども出展している。また、オープン時はロート製薬による香りの新事業「ベレアラボ(BELAIR LAB)」が、ホリデーシーズンのギフト需要も意識して、入り口脇でフレグランス類のプレゼンテーションを行っている。
25年時点で国内8〜10店の運営を想定
「ベータ」は15年12月に米国サンフランシスコ郊外のパロアルトに1号店をオープン。現在、米国に9店、アラブ首長国連邦のドバイに2店、サウジアラビアに1店がある。出展スペースを月額使用料(日本では40センチ×60センチス四方のスペースが30万円)で企業やブランドに提供するビジネスモデルで、テスターの雇用や教育は「ベータ」側が担う。店内の天井には客の行動を追うカメラを設置し、渋谷店では新たに導入したアプリのデータも併せて客の属性や行動を把握。そうしたデータとテスターが吸い上げた客の声とを出展企業にフィードバックする。一部商品は店頭で販売もしているが、売ることを店の主目的にはしておらず、ブランドや商品と客との出合い・体験に主眼を置いているところが特徴だ。
RaaS(Retail as a Service、サービスとしての小売り)と呼ばれるこうした店は、西武渋谷店が今年9月に「チューズベース シブヤ(CHOOSEBASE SHIBUYA)」を、大丸東京店が10月に「明日見世」をオープンするなど、日本国内でも徐々に増えつつある。「コロナ禍で実店舗の存在価値がいっそう問われるようになり、オンラインとオフラインの共存がうまく機能しない従来型の店舗は淘汰が進んでいく。そうした中で、RaaSに注目が集まっている。(百貨店でRaaS開発が増えているのは)百貨店が既存の消化仕入れのモデルに限界を感じ、模索しているのではないか。新規参入者が増えることで、RaaS自体が活性化していく」と北川CEOはコメントする。
有楽町店、新宿店は、オープンの20年8月からの1年間で、延べ45万人が来店し、インプレッション(各ブースの前を客が通り過ぎた回数)は1150万回だったという。「進捗は想定通り。コロナ禍でECの影響力が強まっているが、同時にECのみでの差別化は難しくなっており、オンラインとオフラインの掛け合わせを狙って出展いただくケースが多い」という。ベータ・ジャパンは、25年頃までに国内で8〜10店の運営を目指しており、東京以外でのポップアップショップの出店も進めていく。